

阪神タイガースの2024年秋季キャンプ、第三クールの見学に行ってきました。
第三クールの初日は11月13日。球場での練習を見た後、ブルペンの方に向かう途中で、たしかどっかで見たことがあるガタイのいい白Tシャツのイケメンが関係者通路近くにいるのを見かけました。
はて、彼は誰だった?
練習を見ながらもそのことがしばらく気になっていたのですが、しばらくたって思い出しました。彼は元阪神の北條史也氏ではないですか! 現在社会人野球の三菱重工Westでプレーしている彼ですが、今日はどういうわけか古巣のキャンプ視察に来ていたようです。
ちなみに、阪神タイガースを戦力外になった後、彼にはタイガースアカデミーのコーチ、独立リーグ、社会人野球の3つの選択肢がありました。 いろんな人に相談した中に長く一緒にやった金本知憲元監督がいて、「もし声がかかって、またプロでやってもお前は無理や」とはっきり言われたことで決断できたという話を思い出しました。迷っていた独立リーグだとちょっとプロと似た部分があって未練も残るので、それよりは経験したことのない、トーナメントを戦う社会人野球の環境を選択するに至ったのだと。その決断の「後押し」を、金本知憲さんがしてくれたんだと。
まだ30歳、彼の人生はこれからですよ。持ち前の前向きさで、第二第三の人生を切り開かれんことを願います。
藤川球児新監督の若手への苦言
「阪神秋季キャンプ」のスローガンは「没頭」。しかし、没頭すればするほど、しかも第三クールともなると、さすがに選手たちに疲れも溜まってくる。
シートノックでは、たとえば一塁守備に挑戦している井上広大選手の捕球ミスが目立った。

前川右京選手に一歩先を行かれている彼にとって、この秋季キャンプは重要だ。イケメンの熊谷選手だって、そろそろ大きな飛躍を見せなければ!

いつまでも「若手」という気分に浸っているうちに、気がつけば冒頭で触れた北條史也氏のように一軍半のまま現役生活を終えることにもなりかねない、厳しいプロの世界がここにある。
監督は、ミスの背後にあるもの、それは疲れが動きの鈍化に直結してしまう「若さゆえの脆さ」と選手の「わずかな気の緩み」なのだが、それらを見逃していなかった。黒いパーカに身を包み、シートノックを見守っていた藤川新監督の表情がにわかに険しくなり、ここまで選手に前向きな言葉をかけ続けてきた彼が、このキャンプで初めて選手たちに喝を入れたのだ。
「若さのもろさというか、一様に若い選手というのは疲れで明らかに動きが落ちてしまう。でも1軍で一年間試合に出ている選手にはそれが見えない。今日1日で見えるのは小さな差かもしれないが、結局その差の日々の積み重ねが、大きな差になっていく。レベルが高ければ高いほど、当たり前のプレーのレベルが高くなる。ミスしたという結果を責めているのではなく、ミスを生む動きの鈍化という問題なのだ」と。
秋季キャンプ開始から13日を数え、選手に疲労が蓄積していることはもちろん監督もわかっている。しかしこの第三クールでは、来春の1軍キャンプメンバー振り分けに本格着手すると宣言したばかり。その初日だけに選手のモチベーションは高いはずだ。それなのに、どこかちょっと緩んだ空気感、そして疲れの結果としても相次ぐミス。藤川監督は、特に若虎の「緩み」が気にかかっていたようだ。
中野選手が早出ランニング
監督に喝を入れられた翌日、11月14日。練習は10時開始だが、その1時間半も前から外野の芝生を一人黙々と走る選手がいた。

喝を入れられた若手ではない。もはや不動のレギュラー、中野選手だった。レギュラーに定着している彼にして、前日の監督の叱咤を汲み取ったのだろうか。気合いの入ったその姿には、若い選手の多いチームを無言のうちに引っ張っていく気概がひしひしと感じられた。
また、佐藤輝明選手も、ランチ特打で最多4連発を含む16本のサク越えを放って存在感を見せた。ケージ裏から熱視線を送っていた藤川監督も満足げ。
「2、3点、キャンプ中でも打ち方とか本人が気にしているところを聞くこともできたし、彼が進んでいく方向は理解しています。」
甲子園での秋季練習、そして高知に移っての秋季キャンプを通じて、期待の大砲の現段階での取り組みに一定の理解を示した上で、課題とされる守備面についても言及した。「ノックを受けてもスローイングは安定しているし、このあたりはよくコーチがやってくれている」と。佐藤本人も、このキャンプの手応えについて「バッティングも守備も走塁も良くなっていると思う」と手応えを感じている。

藤川球児新監督のもと、中野選手も佐藤選手にも、私は来年の大飛躍を期待している。
安芸市営球場へは、道の駅「大山」から
さて、阪神タイガースの安芸キャンプが行われている安芸市営球場にもっとも近い道の駅は「大山」だ。

この道の駅は、高知県南東部の安芸市の、なぜか「恋人の聖地」などと言われている大山岬の近くにある。



前日までいた南東の室戸岬方面から国道55号線を走り、大山バイパスと旧国道が分岐する交差点まで進むと、およそ9割の車がバイパス方面に向かう。その流れには乗らず、海沿いの旧国道沿い方面へ約1キロ進むと、道の駅「大山」に到着する。
以前は、室戸-安芸市街地間を走る車は海沿いを走る国道55号を行くしかなく、ほぼ100%本駅の前を通過していた。道の駅「大山」は、そんな1998年にオープンしていた。しかし2015年に山側へトンネルを含むバイパスができて国道が移ると、本駅前を通る車は激減。 その影響によって、本駅を訪れる客も大幅に減少してしまったのだ。追い討ちをかけたのがコロナだった。指定管理者が撤退し、道の駅「大山」は2022年春から休業。改修工事を経て復活したが、今もやはり閑散としている。

バイパスの開通によって大きく状況が変化した道の駅だが、申し訳ないけれど、実は私にとってはそれが好都合。私は人混みや混雑というものが大嫌いだし、トイレも駐車場のすぐそばにあって便利だし。


心置きなく、誰にも気兼ねすることなく、ゆっくり仮眠(車中泊)できるこの道は最高なのだ。
春にしても秋にしても、阪神タイガースの安芸キャンプの期間は、高知のホテルはダイナミックプライシングどころではないウルトラダイナミックプライシング。一泊料金が異様に釣り上がるのだ。
何せ人気球団である。キャンプ期間に限って、見学客だけでなく報道関係者などの宿泊需要が急激に高まる。ホテルにしたらここで1年分を稼がなくてはならない期間超限定の書き入れ時なのだから、まあ仕方がない。
私はそんな馬鹿高い宿泊費を払う気はさらさらないし、お金の余裕もないので、ほぼ誰もいないこの道の駅に停めた車の中で無償にて休ませていただくというわけである。


この道の駅には、施設の営業中、店員はたった一人しかいない。たった一人の店員が、レジ対応から惣菜作り、軽食堂の料理作りまでのすべてを行っているのだ。 逆に言うと、毎日一人だけで間に合ってしまっているという実態。この道の駅がどれほど悲惨な状況にあるかを如実に物語っているというわけだ。


この道の駅の将来的な展望については、圧倒的に便利なバイパスがある限り厳しいと言わざる得ないだろう。しかし私にとっては、営業時間には軽食堂で「ちりめん丼」や「牛丼」「うどん」「そば」などをいずれもワンコイン前後でいただけて、しばし周囲の景色を楽しんだり観光に出かけたりした後、深夜にまた「ただいま〜」と言いながら戻ってくる場所。阪神タイガースのキャンプに向かう当日の朝まで、いつもここで仮眠させていただくありがたい場所なのだ。
おそらくこれからも。この施設があるかぎり、きっと、ずっと。
大山と言えば、FA宣言してどこへ行く?
「大山」と言えば、私が安芸に向かったその日に、阪神タイガースの大山悠輔内野手が今年4月に初取得した国内FA(フリーエージェント)権を行使することを表明した。
「(プロで)8年間やってきて、今の自分が他球団の方からどういう風に思ってもらえているのか、評価されているのかを1度聞いてみたいとずっと思っていました。今回はそれを聞ける1つのタイミング。他球団からの評価を聞きたいのが一番の決断理由かなと思います」。
彼はそう胸中を説明したが、「誰でも節操なく獲得したがる」巨人がさっそく獲得に名乗りをあげ、交渉解禁日の15日から獲得交渉に乗り出した。もちろん阪神球団は複数回に渡って残留交渉を重ね、5年前後の大型契約で強く慰留している。
巨人は獲得に向けて超大型契約を準備したようだ。 5年契約に1年の延長オプションを加えた最長6年間の超長期契約とみられていて、12月に30歳を迎える大山にとっては36歳のシーズンまで保証される事実上の“終身契約”だ。それに対して阪神は、昨年オフの契約更改でも複数年契約の打診をしたが大山選手はそれ断って単年契約を結んだ経緯があったが、今季の推定年俸2億8000万円を大幅に上回る金額での最長5年間、総額20億円規模の大型契約を提示して慰留している。
しかし、巨人の提示はそれを上回る超大型契約なのだ。
かくして。
安芸キャンプ最終クールに、グラウンド外でのTG大山争奪戦が勃発し、プレミア12の国際大会では森下選手が「新しい4番は任せろ」と言わんばかりに、侍ジャパンの4番としてホームランを打ちまくっている。
しかし大山選手は阪神の生え抜きで育った4番打者だし、守備も非常に上手い。そして、何より野球に取り組む姿勢は若手の最高の見本である。阪神に必要であることは間違いない。
ただ、FA宣言した以上、他球団に行くことはあり得る。一人のファンとしては、大山選手本人のためなら仕方ないと、気持ちよく送り出そうと。
しかし、巨人への移籍だけはダメだ。振り返っても阪神から巨人へのFA移籍は過去に例がない。しかも来年は球団創設90周年の節目であり、球団としても4番打者の“禁断の移籍”を何としても避けたいはずだ。
私も、間違っても「江川事件」でプロ野球史を汚した巨人にだけは行って欲しくない。「子どもたちの範」たりえる大山選手にとって、カネはともかく、ルール無用の巨人のユニフォームほど似合わないものはないだろう。