百名山「伊吹山」へ、道の駅「伊吹」から向かう!(トイレ○仮眠○休憩◎景観✖️食事○設備○立地△)

伊吹山は日本百名山のひとつで、標高は1377m。言わずと知れた滋賀県最高峰の山です。古くは山頂からの景色は「古事記」及び「日本書紀」にも記されており、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の伝説にも登場します。

そんな伊吹山の紅葉はさぞ美しかろう。
調べてみると、標高差の気温の違いによって伊吹山の紅葉の時期はかなり長く、10月中旬頃に山頂から徐々に色づき始めて、11月の中旬頃にかけてゆっくりとふもとまで下りてくるのだとか。秋は空気が澄んでいる日が多く遠くまで見渡せて絶景が楽しめる季節だし、私はその紅葉の頂上付近の美しさを思い描きながら、10月下旬に伊吹山に向かったのでした。

兵庫県の明石市からのロングドライブ、やはり疲れます。そこで、伊吹山西側にある道の駅「伊吹の里」で休憩しました。車を降りて駐車場から伊吹山の方を見た私は、その場でしばし立ち尽くしてしまいました。

はあ?嘘だろ?
愕然としました。美しい紅葉どころか、伊吹山は、これが日本百名山かと我が目を疑うばかりの、あまりにもみっともない姿を晒していたのです。

私が期待していたのは、事前に写真で見ていた、このような美しさでした。

それが、冒頭の写真の有様だったのです。

頂上付近が石灰岩採掘で禿げているのは知っていました。しかし3合目から6合目にかけて、観るも無惨、大きくはげてしまっているではありませんか。本当にショックでした。

山に登る気などすっかり喪失した私は、即座に自宅に引き返しました。そして、なぜこんなことになってしまったのか調べずにはおられませんでした。

もともとあった伊吹山の植生は?

滋賀県で最高峰の伊吹山(1,377.4m)は日本のほぼ中央に位置しており、北方系の植物が南下してきていたり、また日本海にも近い関係もあって、日本海側に分布の本拠をもつ植物も存在する。さらに典型的な石灰岩地帯ということや冬の寒冷な季節風の影響を受けて、山頂付近を中心に好石灰植物や美しい広葉草原(お花畑)が見られる。そして何より古い山なので、特産種(固有種)も存在する。

こうして伊吹山は、昔から草本植物や薬草の宝庫として知られ、多くの学者により調査がなされる植物研究史上貴重な山であり続けてきた。過去形を使わざるを得ないことが、あまりに悲しい。

今や土砂崩れが頻発する危険な山に

2024年7月1日午前10時前。
「土砂崩れがあり、人が通れないくらい道路に流れこんでいる」との連絡が、地元の消防団から米原市に入った。土石流が発生したのは伊吹山のふもと、300人あまりが住む伊吹地区だった。

その後も伊吹地区での土砂災害は続く。最初の土石流発生から2週間後の15日、さらに25日と、1か月の間で3度も伊吹山から土砂が流出。幸いけが人は出なかったものの、あわせて7軒の住宅に土砂が流れ込むなどの被害が出た。

繰り返される土砂災害の原因はシカ?

伊吹山では昨年7月にも土砂災害が発生していた。激しい雷雨の影響で土砂災害が起き、登山道の一部が土砂で覆われたのだ。県と米原市は登山道の入り口を封鎖し、山に登らないよう呼びかけるに至ったが、てなぜ繰り返し同じ地区で土砂災害が発生するのだろうか。

6合目付近で特に目につくのが、草がなくなって土がむき出しになった斜面である。
驚くことに、むき出しの斜面の原因はシカだという。シカが草を食べたために植生(植物)がなくなって土壌浸食が起こっているというのだ。

土砂災害を引き起こすのはシカだけか?

私はゴルフをするが、山間のゴルフ場に行くと、すっかり人馴れしたがフェアウエーに出てきてのんびりしている姿をよく見かける。かわいいものだとほっこりしていたが、そんなシカが山をはげ山にする張本人だとは。

伊吹山のシカはこれまで冬の寒さによって一定数が死んでいたのだという。しかし、温暖化によって積雪量が減って冬を越しやすくなったほか、近年はハンターが減少。周辺の山のシカも流入してくるなどして、シカが増えているのだという。

なんと現在は適正とされる数の10倍以上にあたる、1平方キロあたり60頭のシカが生息していて、日々大量の草を食べているのだと。伊吹山には国の天然記念物に指定されている希少な植物や固有種の群落もあるが、その貴重な草花もシカが食べて大幅に減ってしまったという。しかし、やはり「地球温暖化」の元凶は人類ではないか。

NHKの報道画像をお借りするが。

20年前の写真と比較すると、シカが伊吹山の草を食べ尽くして地面がむき出しになってしまったことが分かる。そう、まさに先日私が見て衝撃を受けた伊吹山の斜面だ。

土砂災害のメカニズムは?

土砂災害を引き起こしたメカニズムについても分かってきた。通常、草が生えている山は根っこなどによって土の中に空洞ができるので、雨が降ってもその空洞が水を吸収する。しかし、伊吹山ではシカが草を食べ尽くしてしまったため、土の中の空洞がなくなって保水力が失われたほか、雨をさえぎる葉もないため、斜面に直接雨水が当たって土が削れやすくなってしまうのだという。

6合目や5合目では、こうして流れ出た土砂や水が斜面を削ったことでできる「ガリ」という大きな溝がいくつも確認できるが、中には高さと幅が4メートルを超え、100トン以上も土砂が流出したとみられるというものもあるというから恐ろしい。

逆に3合目付近は斜面の勾配が緩くなっているため、土壌浸食によって流出した大量の土砂が堆積していく。今年7月の土石流は、ここでたまった土砂が雨水とともにあふれて近くの谷川に流入し、下流の石なども巻き込んで発生したとみられているが、これは伊吹山の構造的な特徴だという。

他の山には中段にこんなに勾配が緩い場所はないが、この中腹で土砂が1回たまるのが伊吹山の特徴だという。伊吹山では勾配が3合目あたりで緩くなるために流れていた土砂が一度堆積して、その土砂がいっぱいになってしまうとそれが溢れ出す危険が高まるのだという。

コロナと土石流の危険な関係

シカの食害によって土壌浸食が起き、流出した土砂や雨水があふれて土砂災害が発生したことは分かった。そして、そこに拍車をかけた可能性があると指摘されているのが“コロナ禍”だ。

なんでコロナと土石流が関係あるのか?
コロナの感染拡大によって、一時期、伊吹山を訪れる登山客は激減した。この時期に、通常は人間を恐れて人前に出てこないシカの行動範囲が広がり、一気に食害が進んだというのだ。

スキー場開発はどうなのか

私が見てあまりの惨状に衝撃を受けた山の西側。シカだけで大きく削れたとはとても思えない。

私が生まれる2年前、1956年からあった伊吹山スキー場は、2010年にスキー用のリフトなども撤去され、完全に閉鎖されているので、奥伊吹スキー場について調べてみた。

もともと奥伊吹地域は日本有数の豪雪地帯である。かつては冬になると雪が人里を埋め尽くし、外部との交通が遮断してしまったり、冬の仕事不足も問題となっていた。このため「人々の生活を苦しめる雪をよいものに変えよう」と詭弁を弄し、村おこしとして奥伊吹スキー場が開設されたのだという。ただ、ゲレンデはこの地域で代々受け継がれてきた茅場をそのまま活用し、森林の伐採はほとんど行われなかったというが。

スキー場の開発の中心は奥伊吹観光の前身でグループ会社の草野組。この地域では自然石が多く採取されることから堤防や道路脇の壁などには敷地内でとれた石を使うことで、コンクリートの使用は必要最小限に留めるなど自然にやさしい開発を心掛けたという。ちなみに草野組は関西電力が所有する水力発電所の開発やメンテナンスに係る土木工事を 50 年以上に渡って請け負ってきた実績があった。

石灰岩採掘による環境破壊は?

次に、伊吹山の地質を調べてみた。伊吹山をつくる地層は「付加体」と呼ばれる大変複雑な地層だという。具体的には、伊吹山の上半分は主に石灰岩(ペルム紀)でできていて、下半分は砂岩、泥岩(ジュラ紀)、チャート(三畳紀-ジュラ紀)からなる地層が断層で重なっているという。その断層は、山頂の東側ではドライブウェーの駐車場のすぐ上にあり、南側はスキー場の上付近、西側では山麓ないし地下にあるという。そして山の上半分の石灰岩は、岐阜〜滋賀県境の尾根の上の方だけに乗っかっているのだとか。また,伊吹山の山麓には伊勢湾から若狭湾につながる柳ヶ瀬〜養老活断層系に属する活断層が走っていて、伊吹山を南側からみるとそそり立っているように見える地形をつくったと考えられるそうだ。

地質的なことは土石流の直接原因ではなさそうだが、伊吹山の特に崩れている西側斜面では滋賀鉱産株式会社(伊吹鉱山)によって石灰岩の採掘が行われてきた。2003年3月までは住友大阪セメント株式会社の伊吹鉱山として、セメント向けを中心に採掘が行われ、今なお骨材、路盤材向けに石灰岩の採掘が行われている。言い訳半分で、実は白く山肌が露出しているところは元々あった石灰岩の崩壊地であり、掘っているところは上部だけだし、採掘しっぱなしではなく、採掘地だけでなく崩壊地に対しても緑化してきたというのだが。

確かにこの石灰岩鉱山の部分は、この付近の地層ができあがって以降の断層運動による破砕が認められ古くからの崩壊地だった。そして、鉱山の初期はこの崩壊地の下で崩壊物だけを採っていた、つまり拾っていたのだという。しかし現在は、この崩壊地の上部を人為的に破壊して採掘していることは事実。最終的には急傾斜の破砕を受けた石灰岩や石灰岩の崩壊物を採掘することによって安定した山腹にする計画だそうだが、いかがなものだろうか。

伊吹山ドライブウエイは値上げ

伊吹山ドライブウェイは、2024年11月5日より通行料金を改定した。開業から60年が経過し、施設老朽化に伴う修繕や、異常気象に対する災害対策等に多くの費用が必要だというのが理由だ。

日本各地を旅し、無料のドライブウエイを数多く利用させていただいている私には、この料金は到底受け容れられない。もともと高かった通行料金の更なる値上げに驚きを禁じ得ないし、3,400円払えば明石海峡大橋を軽く渡れてしまうのだ。

新通行料金

車種現行料金
~2024年(令和6年)
11月4日(月)まで
改定後料金
2024年(令和6年)
11月5日(火)より
自動二輪車
(126cc以上)
2,200円2,300円
軽・普通自動車3,140円3,400円
マイクロバス・路線バス7,850円8,500円
大型貨物・バス12,560円13,600円

スキー場が閉鎖されるまで、冬にはよく世話になった伊吹山だが、もう伊吹山には行かないと思う。

さようなら。

最後に道の駅「伊吹」について

伊吹山の西から、その絶景を望めるはずだった道の駅「伊吹の里」。

北陸自動車道の長浜ICから東に9キロ、国道365号線から少し北に入った一般道沿いに道の駅「伊吹の里」はある。道の駅的立地は決して一等地ではない。 国道365号線の交通量は少なく、さらに本駅はその国道からは1キロ以上離れていて、長距離ドライバーの休憩場所としては不適当。 また市街地からも離れていて、地域の固定客の呼び込みも難しい。 そんな立地にありながら、週末を中心に一定の来客があるこの道の駅を支えているのは、ひとえに伊吹山を見たい行きたい観光客なのである。

駐車場もトイレも、その観光客をしっかり、やさしく受け止めてくれる。

駐車場側の休憩スペースはこんな感じ。

駅施設は物産館とレストランが中心。

物産館内にはパン工房がある。 物産館では地産のこだわりの商品が数多く並んでいる。 まず目に付くのは地産の野菜を用いたドレッシング。 「米原赤かぶドレッシング」「伊吹大根おろしドレッシング」などがある。

菓子類では「沖島せんべい」「かりんとう饅頭」が人気商品である。

惣菜類の品揃えも魅力的だ。 特にブランド牛の近江牛用いた「近江牛牛飯弁当」は観光客の人気商品になっている。

近江牛牛飯弁当

老舗の肉屋が作る「吉田のコロッケ」も本駅の人気商品。「木の実でんがく」「焼き鯖」「鮎の甘露煮」等もある。

道の駅「伊吹の里」のレストランは、丼物が中心。海老フライ丼、カツ丼、ソースかつ丼、たまご丼、 おろしカツ丼を味わうことができる。 一見、都会にもよくある普通の食堂のメニュー構成に見えるが、地元の食材にこだわりを持っており、 卵やドレッシングは地産の商品を用いているらしい。

道の駅としての大きな魅力となっているのは、なんといっても施設の2階にある展望所兼休憩室だ。

この人も、私と同じようにショックを受けているのだろうか。

展望所からは正面に伊吹山を見ることができる。 休憩所の一角では手作りの服やカゴなどが販売されている。

駅に隣接して伊吹牛乳の直売店がある。

伊吹牛乳は伊吹山の麓で育った乳牛から搾った地元の牛乳だが、道の駅のすぐ横にある工場で作っている。 工場横の直売所ではまさに「できたて」の乳製品を販売している。 販売されている商品は牛乳、ヨーグルト、アイス、牛乳カスタードパイ、ミルクキャンディーなど。 伊吹ヨーグルトを食べてみたが、さすができたてのヨーグルトは食感が違う。

伊吹山の姿にはショックを受け後味の悪いものだったが、このヨーグルトは味も期待以上で、程よい酸味が心地よく、何より後味が素晴らしかった。