原発が相次いで「還暦」に向かい高齢化する日本一の「原発銀座」。北海道からの帰り道、福井県敦賀市の未来予想図を探しに寄ってみた。

今、北海道から福井県敦賀港に向かうフェリーの中で、このブログを書き始めている。
みなさん福井県に原発が集中立地しているのはご存知だろう。

特に若狭湾沿岸部「敦賀」の狭いエリアには、原発が15基も集中している。

原子力発電電力量を県別にみると、この「原発銀座」のおかげ?で福井県が全国ダントツ1位。

日本全体のおよそ4分の1を占めている。

関西の大電力消費のために、なぜ若狭にばかり原発がつくられるのかと言えば、理由は簡単。原発が危険だからだ。

経済的には低迷し風光明媚な敦賀の人たちには「原発は安全だ」と嘘を言って騙しつつ、原発が安全ではないことは関西電力も国もよく知っている。

原発がほんとうに安全で必要ならば、大都市圏の海岸部、そう、具体的には脳天気に盛り上がっている大阪の万博の「祭の後」、どうせ後処理に困るその跡地に建設すれば最も効率が良いではないか。

敦賀原発1号機が、初の商用原発として動きだしてからすでに半世紀が過ぎ、4原発13基と研究炉2基が集まり、「原発銀座」と呼ばれるこの地では今、東日本大震災後は廃炉、稼働延長、再稼働がそれぞれ相次いでいる。

原発の「高齢化」をどうするのか。

「廃炉」にしても、行き場を失った使用済み核燃料はどこで保管されるのか。

敦賀港に着いたら、これらの原発の「今」を見てから、家に帰ろう。

ロートルボクサーのノーガードの殴り合いの果てに

今この狭い「原発銀座」で起こっている「危険とその回避」「安全推進派と反対派の綱引き」「廃炉加速と稼働開始のプラマイゼロ」などの「せめぎ合い」は、ボクシングに例えれば、活断層の上の僻地にある若狭体育館で、ヘビー級のハードパンチャー同士がノーガードの打ち合いを延々繰り返しているようなものだ。

殴り合っているうちに選手たちは歳をとっていつ倒れてもおかしくない高齢に。そしてこの狭い体育館が地震で潰れ津波で流されれば、若狭体育館の観客(若狭市民)だけでなく、ネットか何かで傍観していた膨大な数の関西人に火の粉は降りかかる。

ひょっとすると東日本大震災を上回るような未曾有の大惨事になる危険は十二分にある。

そんなことを考えていると、19時間の船旅はあっという間。

フェリーが着岸した敦賀港の埠頭から、高齢化の代表格「高浜原発」と、原発リプレース(建て替え)が検討される「美浜原発」に向かった。

日本最高齢は高浜原発1号機

国内で運転している原発で最も古いのはどこか?
それは「原発銀座」の一角、関西電力の高浜原子力発電所だ。

高浜原発1号機は1974年11月14日に国内の商業用原発では8番目に運転を開始したが、先に運転を開始した原発はすべてすでに廃炉になっている。そんな中、この高浜原発1号機が2024年11月14日をもって国内で初めて運転開始から50年を超え、現在運転中の原発の中で「最古」となっている。

最長60年までの運転期間の延長が認められていて、2024年10月には、今後10年間の施設の劣化状況を考慮した管理方針を盛り込んだ「保安規定」の変更が原子力規制委員会から認可されており、高浜原発1号機は60年を超えて運転する可能性すら十分にある「超高齢化原発」の先端を走っているのだ。

私も人のことは言えない老人の一人になったが、今、逆走をはじめとする老人ドライバーの暴走が社会問題化しているが、おそらく原発も加齢と運転の危うさの相関関係は明らかだろう。
しかしご存知の通り、政府はエネルギー安全保障や脱炭素社会の実現のため原発を最大限活用する方針で、2023年5月には法律が改正されて、最長60年という原発の運転期間から原子力規制委員会の審査などで停止した期間を除外することになった。これで、「免許返納」どころか、稼働(期間)はさらに延長できるようになっている。
「人は逆走しても原発は逆走しない」という保証はどこにあるのだろう?

高浜原発1号機と「原発高齢化社会」

福井県高浜町にある関西電力・高浜原子力発電所1号機は、「PWR」=「加圧水型」の原発で、発電出力は82万6000キロワット。一般家庭、およそ176万世帯分の消費電力をまかなえる。
2011年の定期検査中に起きた東京電力・福島第一原発の事故を受けて運転を停止していたが、2015年に新しい規制基準の審査を申請し、翌年合格した。

また、原則40年とされている運転期間を最長20年延長することも認められ、安全対策工事を行った上でで、2023年7月に12年ぶりに再稼働している。

再稼働から2年というタイミング(2025年6月)で、法改正による新たな規制制度が施行され、高浜原子力発電所1号機はそれに基づく新たな計画を提出。現在その審査が進められているところだ。

ちなみに国内に33基ある原発のうち、高浜原発と同じ福井県にある関西電力の高浜原発2号機と、美浜原発3号機、それに鹿児島県にある九州電力の川内原発1号機の3基が40年を超えて運転中であり、再稼働はしていないが、茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発も40年を超える運転延長を認められている。このほか、運転期間が30年以上40年未満の原発は国内に18基あり、運転開始から30年以上の原発が全体の3分の2を超えているというのが日本の「原発高齢化」の現状だ。

生成AIの“電力爆食”と原発の相思相愛

この高浜原発1号機がちょうど稼働50年を迎えた2024年秋。まさにはかったようなタイミングで、高浜原発のそばに大手IT企業のデータセンターがいち早く完成した。

これは日本で最初の、AIのための「原発密着」であり、最古の原発と最新のデータセンターとの「相思相愛のちご成婚」みたいなものである。

この動きは、間違いなく加速するだろう。事実、すでに高浜原発に隣接している京都府の舞鶴市には、データセンターの建設に向けた土地の視察や問い合わせが多数寄せられている。
いま日本に限らず世界のIT企業が「日本の原発周辺の土地」を狙っていると言われている。

政府が原発稼働方針を打ち出す中、つまり日本は原発をやめない中で、地震多発によって原発周辺の土地はとびきり安い。「安い電力」が思い切り使える、とびきり「安い土地」が、「原発周辺の土地」なのだ。そこに日本のIT大手を含め、世界の名だたるIT大手が熱視線を送り、「物色」し、データセンターなどの建設計画を進めているのだ。

いまや未来社会の代名詞となりすでに最大の成長産業となった「生成AI」が、“安い電力”求めるのは、(AIは)従来のサーバーより大体10倍近くの電気を消費するからだ。10倍分の「冷却装置」がAIのサーバーには必要になってくると言い換えてもいいだろう。

すでに、瞬時に動画や文章を作成してくれる「生成AI」の活用や依存は進み、さらに急速な普及、さらなる進化によって、今後、電力需要の著しい増加が見込まれているのだ。

アメリカの大手IT企業の動き

アメリカでは、大手IT企業の間で、安定した原発の電力を活用しようという動きが加速している。

マイクロソフトはスリーマイル島原発から電力の供給を受けることがわかっているし、グーグルは小型の原発開発を手がける企業から電力を調達する契約を結んだと発表した。アマゾンは、小型モジュール炉の開発企業に5億ドル(約750億円)を投資。「AIが大量の電力とデータセンターを必要とすることは明らか。そして私たちは二酸化炭素を排出しない電力供給を目指していく」と明言している。それが原発であることは改めて言う必要もない。

世界的にも進む原発高齢化

原発の長期運転は、世界的にも長期化している。
日本原子力産業協会のまとめによると、世界の原発433基のうち、運転開始から40年を超えているのは4分の1を超える125基で、このうち50年を超えているのは26基ある。
稼働55年になる4基が最長で、インドのタラプール原発1号機、2号機、アメリカのナインマイルポイント原発1号機、スイスのベツナウ原発1号機。原発の数が最も多いアメリカでは、50年を超える原発も最も多く、16基もある。
アメリカでは、原子力発電所に対して原子力規制委員会が40年の運転許可を与えるが、審査に合格すれば、これを超えて20年ごとの延長が認められている。敗戦以来アメリカの後追いばかりの日本はこれが拠り所。このたびまるで同じことを決めた。
アメリカではこの延長の回数に制限はなく、93基の原発のうち82基が60年までの運転を認められていて、2基はすでに2度目の運転認可更新の承認を受けて80年の運転が可能になっている。
地震リスクが格段に高い日本が、ここまでアメリカの真似をして滅亡に向かうのだろうか。

「老朽化」による果てしないリスク

原発を長期間運転すると、放射線や熱の影響でさまざまな機器や設備が劣化するいわゆる「老朽化」が進む。

万物は老い、そして死ぬ。

永遠の命などないのだ。
たとえば、鋼鉄製の原子炉は核分裂で発生する中性子によってもろくなるほか、金属製の配管は中を流れる熱水や蒸気による浸食や腐食で厚さが薄くなり、ケーブルは熱などで性能が低下する。
また、コンクリートの構造物も熱や放射線によって強度が低下する。
老朽化によるトラブルは、日本でも実際に起こっている。2004年に福井県にある関西電力の美浜原発3号機で配管の破断事故があり、吹き出した蒸気などで作業員5人が死亡した。
破断した配管は、運転開始以来点検が行われていなかった。

事故の実績もあり、老朽化著しい美浜原発へ

この事故があって、東日本大震災の福島原発事故があって、老朽化による廃炉議論を闘わせながらの11年間の稼働停止があって。
それでも美浜原子力発電所3号機が2021年6月に再稼働してから、ちょうど4年になる。

一方、この美浜原発のすぐ近くにあって2016年に廃炉が決定した「もんじゅ」では、現在廃止措置が進められており、ナトリウムの抜き取りや原子炉の解体などが進められている。

この「2つの原発」に足を運んでみると、両者は本当に近い。

まさに近接する2つの原子力発電の中身はしかしながら全く異なるものであり、それゆえ、かたや廃炉、かたや老朽化による廃炉検討を潜り抜けての運転継続と、対照的な進路を進んでいく。
廃炉に向かっての長い道のりを進む「もんじゅ」は、ナトリウム冷却高速増殖炉だ(った)。

プルトニウムとウランを燃料とする「高速増殖炉」で、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、再び燃料として利用できる「夢の原子炉」として開発されたが、事故や不祥事が相次いで廃炉が決定され、「幻の原子炉」として消えていく。

無事、廃炉できればよいのだが。

そして再稼働した美浜原発3号機は、さらに老朽化が進む中、事故なくいつまで稼働できるだろうか。ともに極めて危険な綱渡りをしているように感じるのは、私だけではないだろう。
なにしろ2つの原発の直近に、活断層「白木ー丹生断層」があるのだ。

事故実績のある美浜原発3号機の未来予想図

美浜原発は、関西電力初の原発として1970年に1号機が稼働。同年開催の前回の大阪万博に電気を送った。3基の加圧水型軽水炉のうち1、2号機は廃炉が進んでいる。

1976年に運転を開始した3号機は、老朽化による廃炉が検討されても結局はなお稼働し続け、この度の「関西大阪万博」にも電気を送っている。

しかし、この危険な再稼働の行き着く先、未来予想図とは一体どのようなものなのだろう。

廃炉か?リプレース(建て替えての拡大)か?それとも…?

東京電力福島第1原発事故から14年。

政府の「原発回帰」の姿勢が鮮明となる中、関西電力美浜原発(福井県美浜町)は、新たなエネルギー基本計画で示されたリプレース(建て替え)の有力な候補に名前が上がった。

廃炉の経済効果は限定的

先に、「廃炉ビジネス」の話をしよう。少なくとも廃炉は、地域の経済を底上げするものではない。

たとえば2008年に始まった敦賀市の新型転換炉ふげんの廃炉工事。すわビジネスチャンスになると、地元経済界の期待は高かった。

しかし廃炉作業による地域経済への効果は実際は限定的で非常に薄いものだった。

では、「廃炉ビジネス」の広がりのなさ、廃炉の「経済効果の薄さ」の理由は何なのか。

答えはシンプル。廃炉工事は約20年から30年と長い時間をかけるから、1年あたりの工事費用が非常に少ないのだ。

13カ月に1度の原発の定期検査には数十億円の費用をかける一方、廃炉は敦賀1号機の場合、1年で10億円ほど。加えて、お金のかかる原子炉周りは技術のある大手企業が担当する。地元企業には、もうからないニッチな仕事しか残らない。

原発がなければ福井県は貧乏県、原発回帰で動く金に期待?

では、リプレース(立て直し)に、二匹目のドジョウはいるのだろうか?
かつて、経験したことのない「原発の立地自治体」になったころ、「道路や公民館ができる。貧乏でなくなる」と町は沸き立った。

自然に恵まれながらも、零細規模の農林業や漁業のほか、炭焼きの仕事くらいしかなかった時代だった。

原発が来て、サラリーマンになれば、『おまえ、すごいな』と羨ましがられた。

浜への砂利道は整備され、雇用が生まれ、外からの作業員で街は大いににぎわった。

より高収入であることに釣られ、地元の企業を退職し、原発関連の仕事に就く町民も多くいた。

こうして原発立地自治体となった福井県、そして敦賀市に大きな金が流れたが、その後福島の原発大事故を経て今、結局は地域経済の深刻な疲弊が続いている。

そんな中、原発リプレース(建て替え)の有力な候補となった地元では、それでも「夢よもう一度」とばかり期待の声も上がっている。

行ってみて感じることがある。

高浜原発にしても美浜原発にしても。
わざわざ足を運んでも中には入れないし、現場に文句を言ったところで何も変わらないことはわかっている。

しかし、現地に足を運ばないとわからないことがある。
それは、肌で感じる、町の空気感だ。

一言でいうと、みなさん、もう冷めている。

もちろん声高に反対する人もいる。

リプレースが決まれば、流れ込む金の亡者、魑魅魍魎が跋扈するだろう。

しかし今、敦賀の街の人たちは「原発」に対してすっかり冷めていて、あるいは諦めているようで、それでいて実は心の底は不安でたまらないという人が最も多いと感じた。
原発がなくなる不安と、ある不安。そこにある不安がさらに拡大されてもされなくても。

いずれにしても、すでに原発を抱えている以上。

敦賀は、得るものと失うものが常に激しく交錯する街であり続ける。

そして福井県のデススパイラル、ジレンマがなくなることは、未来永劫ないのだ。