
1億人近い党員がいる中国共産党。「ヒラ党員」から総書記までのピラミッド組織ですが、党員たちはそこをどんな風に上っていくのでしょうか。
中国共産党の出世の仕組みは、日本の会社の出世レースとよく似ています。違うのは規模だけ。どちらもリーダーは密室で決まり、部下は実績を上司にアピール。昇進には権力者とのコネがものを言い、時に派閥争いや権力闘争が繰り広げられるという点は全く同じです。
なぜ中国共産党の話を引き合いに出すかというと、前回触れた「お金が大好き」「金のため」と「権力闘争」「プライド」「名誉欲」「メンツ」と言ったものとを区別したいから。それが究極の「権力闘争の場」であるからです。
私が身近で見てきた、はるかに小規模な権力闘争でも、彼らを観察しているとわかることは、彼らに共通して周りに「自分を認めさせたい」という強い意識があることです。そして、権力トップに近づくほど「名声がほしい」という欲望や、裏返しとして「面目が潰れることなんてあり得ない」といった「メンツ」へのこだわりが顕著であり、私はこれを「Mentsu Work(メンツワーク)」と名付けています。
目的⑤人に負けたくない。自分を認めさせたい。名声、「メンツ」こそ大事→Mentsu Work
誰にもある「承認欲求」が巨大化する人たち
では「中国共産党の出世道」をモデルに、日本企業における出世争いと比較しながらMentsu Workというものを理解したい。
最高指導部の政治局常務委員会(現在7人)は、会社でいうと取締役会だ。

習近平が、総書記が代表権のある社長や会長に当たる。日本の会社では、社員が営業拠点や地方などの現場で下積みをし、幹部になり、出世街道にあるニューヨーク支店長や本社営業本部長として実績をあげ、取締役に抜擢される。
中国共産党も、地方や国有企業などでの下積みを経て、上海市や広東省のトップといった「出世の登竜門」をくぐり、国を運営する常務委に引き上げられる。この仕組みは、選挙がある政治の世界とは異なり、会社の方が共通点がずっと多い。
中国共産党において出世の鍵を握るのは、基本的には「業績」と「コネ」の二つだと言われているが、これまた日本企業と同様だ。中国共産党の政治エリートは、エスカレーター式に出世していく傾向がある。一定以上の地位になるとコネの比重が高まるが、そうした門閥に属さない大多数の人は実力主義でのし上がらねばならない。会社でいうとどれだけ売り上げたかであり、こと「権力闘争」を見る限り、中国共産党と日本企業のそれはほぼ同じだと思っていい。

誰もノーの言えない「恐怖の暴走老人」
中国共産党の習近平に負けないほど「権力が大好き」な人物を日本に見つけることは難しいが、敢えて一人推薦するとすれば、フジテレビと親会社のフジ・メディア・ホールディングスの取締役相談役を兼務し、「フジテレビの首領(ドン)」と呼ばれる日枝久氏ということになるだろう。
習近平は、常に表舞台に立たねばならないが、日枝久は対照的に、裏で暗躍していればいい。その違いがあるだけで、権力者として厳に慎むべき「ルール無視の長期支配」を続け、誰もノーの言えない「恐怖の暴走老人」であることにおいて同類だ。
彼は、先日この世を去った読売のドンの渡辺恒雄のマネをして、なんと40年間、フジサンケイグループにおいて専制権力をふるってきた。
中国共産党の権力闘争で最後に決め手となるのは「コネ」だろうと言ったが、日枝氏はそのことをよく知っており、安倍晋三元総理の一族をコネ入社させて、自ら政治権力に近づこうとしたやり方は有名だ。「金が大好き」な人物としても代表格なので、前々回の記事でも紹介したが、十分すぎる富が自分に継続的に流れ込んでくる「仕組み」を自らフジサンケイグループに作り上げると、権力への執着が顕著となっていた。
安倍晋三氏に「貸しを作る」
具体的には、安倍氏の甥の岸信千世氏、安倍氏の母親のお仲間の娘婿、故中川昭一元財務大臣の娘、加藤勝信氏の娘などをフジテレビにコネ入社させている。中曾根康弘氏の孫もいた。現在父親の後を継いで自民党の衆議院議員となっている岸信千世氏は、選挙運動期間中に家系図を披露し、さらにはコネで入ったフジテレビでの活躍を自画自賛。世間の笑いものになった。

しかし、本人は、なぜ笑われているのか、わからなかったそうだ。
ところで、コネ入社なんてものは、どこにでも見られるものだが、日枝久氏の場合は次元が違う。
トップが頻繁に変わる普通の上場企業ならば、特定の役員と仲がよくてもいつその人がいなくなっているかもわからないから、コネを築くことはさほど意味を持たない。しかし、トップが何十年も変わらない会社の場合、話は別だ。

日枝氏は、40年間も誰も何も言えない絶対権力にものを言わせ、さらなる野望を持ってときの絶対権力者・安倍晋三氏に「貸しを作る」ベく、彼の一族や、周りのアホ親どもの息子でも娘でも甥でも姪でも、好きなだけ潜り込ませたのだ。
入社式は「おかあさんといっしょ」ですよ〜
フジの入社式は新入社員たちの親が「参観」することで有名だが、それは「入社式」の名を借りた、有力者である親たちに向けた「お披露目会」であるという。毎年、誰もが知る政治家、芸能人、スポーツ選手が我が子の晴れ姿を見ようと夫婦揃って姿を見せるという。世間の非常識を常識とする日枝久氏がほぼ私物化した会社ならではの風景だ。

フミヤ夫妻も、長男の入社式に嬉しそうに出席した。

社員はこう嘆く。
「普通、入学式じゃあるまいし入社式に親なんて呼ばないじゃないですか。でも、ウチ(フジテレビ)では昔から親同伴なんです。政界、芸能界、スポーツ界、財界などから錚々たる人たちが駆けつけます。多い年では入社する半数くらいが『コネ入社』と言われていて、入社式は親のためのセレモニーなのです。」
有名芸能人がサプライズ出演して座を盛り上げるのも恒例で、ジャニー喜多川の性加害騒動以前はジャニーズのタレントも毎年のように来たという。実力入社組は、見たこともない華やかな空間に面食らうそうだ。
「コネ入社」と「実力入社」の見分け方
では、いったいどのくらいの有名人の子息が働いているのだろうか。もちろん、有名人の子息の中にも実力を兼ね備えている人はいるだろうし、コネ入社とは限らない場合もあるだろうが。
政界からは前述の通り。球界からは小宮山悟、高津臣吾の息子。大魔神・佐々木主浩の息子(退職)、サッカーでは堀池巧の息子。芸能人では高橋英樹の娘で今はフリーになった高橋真麻、藤井フミヤの息子の藤井弘輝はアナウンサー採用。陣内孝則の息子もいるらしい。
こうした日枝だよりの有名人ルート=日枝氏が直々に指名している入社希望者のエントリーシートを『日枝シート』と呼んでいるという。コネ入社には広告代理店の電通や博報堂、有力スポンサー企業からのルートもあるから、やはり半数近くがコネ入社なのだと。そして、実力入社組は「学歴」で判別するのだとか。
実力入社組は、早慶が圧倒的に多いから学歴でわかるそうだ。日枝久氏自身が早稲田で、早慶大好きらしい。事実、先日の記者会見出席者は、港浩一前フジテレビ社長、金光修フジ・メディアHD社長が早稲田卒。嘉納修治フジテレビ会長、遠藤龍之介フジテレビ副会長、清水賢治フジテレビ新社長は慶應卒といった具合だ。前社長もまったくの傀儡で、日枝氏にとっては学生後輩感覚での「パシリ」あるいは「トカゲの尻尾」に過ぎなかった。実に哀れだ。
中居正広氏もまた日枝久氏が生み落とした「出来損ない」

フジテレビから性の上納を受けた中居正広氏もまた、日枝久氏が生み落とした「出来損ない」たちの「氷山の一角」にすぎないのだろう。
さて 安倍晋三元総理に「貸し」をつくって攻略し、政治権力にもべったりの座を得た日枝久氏にとって、残る目の上のタンコブは「産経新聞」と「ニッポン放送」だった。
しかしその2社も、ニッポン放送を完全支配(子会社化)し、ただ一人抵抗姿勢を見せていた産経新聞社長の住田良能氏も2008年に多発性骨髄腫にかかって5年後に死去したことで、ついに日枝氏を脅かす存在はグループ内に誰一人いなくなったのだ。
こうして、グループ全体を完全に牛耳る「日枝ワンマン体制」は完成したのだった。
「承認欲求」裏返しがメンツ、それは名誉欲、権力欲へ
「果てしない権力欲」は、すでに権力の座にある企業トップにも多く見られるが、企業のヒエラルキーの中で上を目指している層の方がはるかに分厚く、激戦の中で勝ち残って上を目指す連中のパワーには凄まじいものがある。
ビジネス社会に負けず嫌いな人はたくさんいるが、親からあまり承認されなかった生い立ちを持つ人は、この「人に負けたくない」意識はさらに強烈で、「承認欲求」の塊と化す傾向にある。
私の手元にある2,000人のサンプルの中のMentsu Workerを見ると、自ら「それ」を目的として働いていると明言する人は少ないが、客観的に観察していて確信できる人がごまんといる。「Mentsu Work(メンツワーク)」は、ベンチャー企業やIT関連企業、外資系企業の従業員にはあまり見られないが、より比較的歴史のある日本企業の社員に偏って多く、とりわけ役職者以上にさらに多く見られる。
全体サンプルの15%程度(重複含む)が、これに当てはまるのだが、私個人が10年のサラリーマン期間を過ごしたリクルートではその倍の3割の社員がこの類であり、部長以上に限って見ると出現率はなんと5割に跳ね上がった。他社でも大企業の部長、役員クラス、若手であってもいかにも企業戦士風の人には多く見られ、メンツ最重要という立ち居振る舞いは非常に特徴的で、時として滑稽である。
企業にとって功罪相半ば、今後は減少傾向か
彼らが企業にとってプラスになるのは、非常に精力的に働くことだ。つまり、昭和、平成の時代には企業の量的拡大の「原動力」ともなってきた。権力を得るために自分の力を見せつけるためには数字で示せる「量的拡大」が手っ取り早く、彼らにとって企業の「質的向上」は後回しになる。
しかし、そんな彼らの考え方は、令和の時代となって大きな壁にぶち当たっている。まず、彼らの立ち居振る舞い自体が一歩間違えばパワハラ、セクハラとなる、そんな傾向も併せ持っている。特に自分のメンツを潰すようなことをしてしまう部下へのアタリは極めて強い傾向があり、「俺に恥をかかせるな!」という類の怒号は、彼らの大きな特徴の一つである。
また、彼らを今後の企業経営において危惧すべきは、くだらない個人のプライド(メンツ)と上昇志向ゆえに周りの従業員たちが被弾することにとどまらない。彼らが出世して権限を拡大していくと、部長や役員の座に固執して企業に長居するケースが増えるが、上位下達で風通しの良くない企業風土の形成、顧客との不正な取引や癒着などにつながっていくことなどが常に危惧される。
とりわけ、彼らが力を持った会社が、自己保身最優先ゆえの企業ファースト主義に走り、理不尽な下請け圧迫を続けることは絶対に避けねばならないだろう。
Mentsu workが企業を滅ぼす?
日産自動車とホンダの経営統合協議が”破談”に終わった。両社は2024年12月から水面下で統合協議を重ねてきた。そして巨額の債務を抱える日産に対し、ホンダから「子会社化」を提案。日産はMentsuを潰されて猛反発、決裂した。

しかしこうなると日産の前途は多難だ。中国、北米市場での販売不振やEV事業の伸び悩みから、日産の業績は低迷。9000人規模の人員削減を計画してはいるが、そんなことでは済まないレベルの経営不信だ。この3ヶ月、ホンダとの経営統合に命運を託していたため、工場閉鎖など生き残りへの踏み込んだ施策も先延ばしされてきた。
ただでさえ日本の自動車メーカーはトヨタを除いて単独での生き残りが厳しくなっている。今後、日産には独自の再建策が求められるが、EV事業での巻き返しは中国EVの壁が厚すぎる。いよいよニッサンの火が消える日がやってくるとしたら、それはMentsu work が招いた「必然」として歴史に残る。
企業の独裁者の行末は?
すでに言ったことだが、国に当てはまることは大抵、企業にも当てはまる。
そして、はっきりしているのは、どこまでもMentsu workを完遂しようとしても「権力闘争」の中に入れば、普通は権力ヒエラルキーのどこか段階で早かれ遅かれ失脚する。Mentsu workが最終目的に到達することは滅多に起こらないのだ。
簡単な理屈である。権力闘争というのは戦い、メンツもぶつかり合う。勝者は最終的には一人であり、後のメンツのメンツは丸潰れ、失脚は必定だ。権力の座につく人間は、その組織の中で最終的にはたった一人なのだから。
それが成功してしまった人が、最終的にはこうなってしまうというわかりやすいエビデンスはいくつかある。
まず、読売トップの渡邉恒雄氏。先日この世を去ったが、世間にどれだけ叩かれようが、フジサンケイグループトップの日枝久氏は悠然、矍鑠としておられる。ワンマンという意味では日本電産の永守重信氏(下写真)などは、自社グループ支配だけでなく大学のトップにもおさまってまだまだご活躍だが、さて人生は最後の最後までどうなるかわからない。

人生の最後の最後に、名声はともかく「富」「金」のすべてを失った人なら何人もいる。ダイエーグループ総帥・中内功氏、セゾングループ総帥・堤清二氏などが、家屋敷、財産はもちろん何もかもを失った末路はまだ記憶に新しい。

中内功さんには、リクルートが苦境の時に助けていただいた。謹んで故人のご冥福をお祈りしたい。
これからの世の中、おそらく働き方改革、SDBs、コンプラ重視等の時代の流れからして、中内さんや堤さんのようなカリスマ経営者も、今後は減っていくように思う。
(つづく)
この記事は、連載8回目です。いよいよ人間とは何かを考える展開になってきました。引き続き一緒に考えていければ嬉しいです。