マーケティング不在、責任不在の道の駅「山陽道やかげ宿」に物申す!!(トイレ✖️仮眠✖️休憩△景観△食事✖️設備△立地△) 

物産品の販売はなく、飲食店もない。

駐車場はあるが、すぐ出ていってくださいねと言わんばかりのレイアウト。トイレは綺麗だし用を足しながら目の前のアートを観れるが、館内にあるので24時間は使えないと。

そんな新しい?画期的な?道の駅が、江戸時代に宿場町として栄えた矢掛町(岡山県)にできました。重要文化財の本陣と脇本陣が建つ矢掛商店街と並行する国道486号沿いに県と町が整備したもので、「山陽道やかげ宿」と名付けられ、3月末にオープンしています。

デザインは岡山市出身の工業デザイナー・水戸岡鋭治氏が担当。施設は鉄骨2階建ての延べ511平方メートルで、かつての宿場町の町並みに溶け込むよう黒を基調に仕立てられています。総事業費は約12億円。とてもきれいです。

「町全体が道の駅」をコンセプトに、買い物客には近くの商店街を利用してもらおうということだそうですが、はっきり言います。予言しましょう。そんな仕掛けの成功イメージは妄想に過ぎず、はっきり行って、間違いなく不発で終わるでしょう。

なぜって?

デザイナーはデザイナー。どこまで行ってもマーケティングのプロではないからです。デザイナーとしては優秀でも、プロデューサーでも経営者でもない。結果に自己責任を負う商売人ではないのです。しかもデザイナーとしてその業績を知っている人はほんの一握り。彼は、集客に関しても何らの寄与もしないでしょう。

デザインとマーケティングを一緒くたにしてはいけない

私は彼に何らの恨みを持つ者ではない。そして、この道の駅が成功しようが失敗しようが、彼が責任を負うべきとも全く思っていない。私は、結果責任を負いながらマーケティングをやっていた立場から、率直に思うことを述べているだけである。

ちなみに水戸岡鋭治氏は大阪のデザイン会社勤務などを経て1972年にドーンデザイン研究所を設立。「ホテル海の中道」のアートディレクションに関わったことが縁で、88年に同ホテルにアクセスするJR九州のリゾート列車のデザインを担当。ここから鉄道車両デザインに進出し、「つばめ787」「ソニック883」「ゆふいんの森」などの傑作を次々世に送り出してきた。

その仕事は、船舶やバスなど鉄道以外の交通機関、さらに駅舎や店舗、商業施設やリゾート施設に関わるデザインまで多岐にわたる、素晴らしいデザイナーだ。ただし素晴らしいのは、あくまでデザイナーとしてである。

この道の駅は、1階に町内の観光名所と物産を紹介するコーナーを設置。休憩する椅子にも、水戸岡氏がデザインしたJR九州の豪華寝台列車「ななつ星」の座席と同じ生地が使われているが、我田引水にすぎない。2階にはボールプールや絵本がそろうキッズルーム、ここにも水戸岡氏の作品を紹介するコーナーが用意されたが、子どもに何がわかるというのか。

また屋内各所には水戸岡氏ご自身が描いたポップな絵画作品が100点以上も飾られ彩りに一役買っているというが、これまた我田引水の極地である。

社長は何を考えているのだろう

矢掛商店街一帯には古くからの町家と洋風建築が並び、飲食店を中心に約100店が広がる。一部エリアの無電柱化も進められ、道の駅の完成でさらなる観光地化に拍車がかかる。道の駅の指定管理者となる第三セクター「やかげ宿」の繁森良二専務は「町の中心部に観光客をお迎えする玄関口ができた。ここから商店街に繰り出して観光や買い物を楽しんでもらいたい」と期待するが、マーケティングというものは「期待」で済む問題ではない。採算、収益、結果を事前に見通さねばならないのだ。ということは、専務の上の社長、彼こそがすべての責任を負うのだ。専務は専務、期待するのも自由だし、なにもせんのも専務の特権である。

マーケティング責任者の無責任と不適格ぶりに驚く

全国でもめずらしい、まち全体を道の駅とみなす「山陽道やかげ宿」。オープンしてからの状況はどうだったのだろうか。

「初年となる2021年は、約24万人の来訪者でした。前例のないことなので想定を立てにくかったのですが、当初は年間5〜6万人の来訪者を見込んでいたんです。オープンしてみると想定の倍以上という、予想を大きく上回る来訪者数で驚きました。昨年(2022年)も約20万人の方にお越しいただいております」とは、社長から任された「責任者」の弁。

率直な感想として、想定自体が経営的にはありえないほど少なかったということにまず驚く。それが倍以上であったことを喜んでいる時点で、この責任者は経営者のレベルではない。そして、翌年にいきなり減少していることに危機感を抱いていないことも、はっきり言ってアホ丸出しである。

この責任者曰く、「矢掛のまちなかでの新規出店も増加した」という。矢掛の観光元年となる2015年より前に比べ、新たに31店の新規店舗が誕生したことが成果だというのだ。しかし2015年からはもう10年である。責任者ならばそれらたった31店の各年の業績推移が詳細までわかっていて、数字に基づいて現状の課題を分析できるのが責任者の立場であろうに、その能天気かつ無能な分析力には呆れるほかない。

つまるところ結果責任は住民(税金)に負わせる考え

「山陽道やかげ宿では指定管理費をうまく活用して道の駅の運営をしています。物販や飲食がないぶん、効率化してコストも下げられますから」というコメントからは、ハナから「目標設定」感覚などなくて、行き詰まった際のリスクマネジメントのセンスも感じられず、結局は「税金」に頼り切った運営をそれで良しとする本音が見えて、いかにも情けない。

果たして10年後、20年後。責任者としての覚悟が全く感じられない、適当でいい加減な姿勢と考え方と能力としか持ちえない人の、マーケティング不在で思いつきに過ぎないようなコンセプトの道の駅が、いったいどうなっているのだろうか。しっかり見守っていきたい。


岡山県の南西部に位置する小田郡矢掛町(やかげちょう)。人口は約1万4000人で、江戸時代に近世山陽道(西国街道)の宿場「矢掛宿」として栄え、西国有数の賑わいを誇った。現在も矢掛町中心部には古い町並みが残っており、重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)に指定されている。身分の高い者が宿泊する本陣、それに次ぐ格式の脇本陣の両方が当時のままの姿で残るのは、全国でも矢掛だけである。

そんな矢掛の中心市街地、重伝建地区に隣接する場所に2021年3月、道の駅が開業した。その名前は「道の駅 山陽道やかげ宿」。敷地の南側は幹線道路である国道486号線に面し、北側およそ40mのところには古い建造物が並ぶ西国街道が通る。現代の国道とかつての街道を結ぶ場所に位置しているのである。

道の駅といえば、地元の名産品が販売されていたり、飲食店があったりするのが一般的だろう。しかし山陽道やかげ宿には、物販コーナーや飲食コーナーは設置されていない。それは隣接する矢掛のまちが、物販や飲食を担う「矢掛まるごと道の駅」をコンセプトにしているからである。

全国でも極めてめずらしく、新しいスタイルといえる道の駅 山陽道やかげ宿。そんな山陽道やかげ宿について、矢掛町役場 建設課の渡邉 孝一(わたなべ こういち)課長と佐伯 淳成(さえき あつしげ)主査に話を聞いた。

「もともとのはじまりは、2015年にさかのぼります。2015年は矢掛の”観光元年”といえる年なんです。矢掛の町並みは町並み保存地区として指定され、保存活動はされていました。しかし実際は観光資源として活用されているとは、言い難い状況だったのです。本陣と脇本陣が観光スポットとなっているくらいで、まち全体を観光客が回遊するということは少ない状態でした」と話す。

もともとメインとなる旧西国街道の通りやその周辺は、地元向けの商店街として親しまれていた。しかし郊外の路面店が多くなり、さらに周辺市町村へ顧客が流出。また、店主の高齢化・後継者不足といった問題を抱えていた店も多かったのである。

そのような状況を打破すべく、2015年に保存地区内にある古民家を3棟改築し、2棟を宿泊施設(矢掛屋 INN&SUITES、同 温浴別館)、1棟を観光交流施設(やかげ町家交流館)としてオープン。さらに宿泊施設は、イタリアで提唱された地域内での分散型宿泊施設「アルベルゴ・ディフーゾタウン」として認定された。これはイタリア国外では、初めてのことである。

「2015年の宿泊施設・観光交流施設のオープンを皮切りに、矢掛への観光客は増加していきました。そして2015年以降、矢掛では官・民問わずさまざまな観光に関する計画が進んでいったのです。その流れの中で、話が出たのが道の駅の計画。実は2015年から、すでに道の駅があったらいいなという話はありました」と佐伯さん。

矢掛町は幹線道路となっている国道486号線が通っており、新たな集客施設として浮上したのが道の駅だという。岡山県も、長く新しい道の駅がつくられていないことから、前向きだったそうだ。

「当初は物販や飲食を伴った、一般的な道の駅をつくる計画でした。しかし、せっかく2015年の観光元年から観光客が増加傾向にあるのに、新たに道の駅をつくると、道の駅に観光客が一極集中してしまうのではないかという不安があったのです。そのなかで出されたアイデアが、物販や飲食を矢掛のまちが担うという新しいスタイルの道の駅でした。道の駅と矢掛のまちの相乗効果を狙うという考えです」

「ちょうど道の駅の造成候補としてあがった土地は、ちょうど国道と保存地区に挟まれた場所。このアイデアを生かしやすい立地だと思います。こうして”矢掛のまちがまるごと道の駅”というコンセプトが誕生しました」と渡邉さんは語る。

まちの玄関口としてコンシェルジュが常駐。丁寧な接客で観光を案内

佐伯さんは、次のように振り返る。「当時、地元の反対の声が多いかもしれないという不安もあったのですが、意外と反対の声はありませんでした。いっぽうで、賛成の声も少なかったんです。まちをまるごと道の駅にするという、前例のないスタイルでしたから、どう反応すればいいのかわからなかったというのが、地元の方の正直な感想だったのかもしれませんね」

「逆に地域の外からは、不安の声も多かったです。なかでもほかの道の駅の関係者の方々からは、物販や飲食がないと収益面で苦労するのではないかと、心配されることも多かったですね。ちなみに

こうして2021年3月に、道の駅 山陽道やかげ宿がオープンした。実は同じ2021年には保存地区の無電柱化工事、さらに前年に重伝建地区の指定も行われている。渡邉さんによれば「道の駅、無電柱化、重伝建の指定は、それぞれ別々に計画が進んでいたんです。結果として、3つの計画が同じ2021年に完成しました。偶然の産物ではあるのですが、道の駅・無電柱化・重伝建指定と大きな3つのできごとが重なったのはインパクトが大きかったですね」。

道の駅 山陽道やかげ宿の外観

道の駅の1階には「YAKAGE LOUNGE(ヤカゲ・ラウンジ)」という観光案内と休憩のスペースを設置

まち全体を道の駅とみなす山陽道やかげ宿では、道の駅として必要な24時間利用できる駐車場、トイレなどの休憩機能、道路情報発信機能などを備える。そして特徴的なのが、物販や飲食の設備がないぶん、まちの玄関口としての機能に力を入れていること。建物内にはホテルの受付を彷彿とさせるような窓口を設置。窓口が開いている9時〜17時のあいだ、コンシェルジュが常駐し矢掛の観光情報を紹介する。「コンシェルジュの丁寧な接客は、お客様から非常に好評です。道の駅が接客に力を入れているのは、まちの玄関口としての役目をもった山陽道やかげ宿ならではのことではないでしょうか」と佐伯さん。

道の駅の建物には駐車場側の出入口と、反対側にまち側の出入口とがある。まち側の出入口から出て約40m歩けば、旧西国街道沿いに並ぶ矢掛の町並みに出る。

まるでホテルの受付のような窓口

名産品の展示コーナー。あくまで展示のみで販売はしていない

岡山出身の工業デザイナー・水戸岡鋭治氏がデザイン・監修

道の駅 山陽道やかげ宿の大きなポイントのひとつが、水戸岡鋭治(みとおか えいじ)氏によるデザイン・監修である点だ。水戸岡鋭治氏は岡山市出身の工業デザイナーで、鉄道関連のデザインで知られている。

渡邉さんは「ご縁がありまして、水戸岡鋭治さんに協力していただけることになったんです。地元・岡山というだけでなく、道の駅のお仕事は初めてだったそうで、とても積極的に協力してくださいました。何度も矢掛に足を運んでいただき、矢掛のイメージに合うデザインを考案していただきました。建物のデザインだけでなく、内装などさまざまな部分の監修や、アドバイスをしてくださったんです」と話す。

「さらには、水戸岡さんが描かれた絵画のレプリカを多数寄贈していただきました。さらに過去に水戸岡さんが携わった仕事で、使わなくなったものなどもいただいています。とてもご尽力してくださり、感謝しかありませんね。水戸岡さんは考えて終わりではなく、私たちと話し合いをしっかり行い、何度も意見を言ったりこちらの意見を取り入れたりしました。まさに水戸岡さんと私たちは、いっしょに道の駅をつくりあげてきたのです」と渡邉さん。

ゆったりとくつろげる広いテーブル席もある

道の駅の中には水戸岡鋭治氏の描いた絵画のレプリカが多数展示されている

道の駅の建物内のほとんどのスペースには、水戸岡さんの絵画のレプリカが展示されている。また建物内に置かれている椅子の座面や背面の生地は、「ななつ星」など水戸岡さんが携わった複数の列車のシートの端材を活用。生地の柄がいろいろあるのは、そのためだ。これは鉄道ファンにとって堪らないだろう。

2階のキッズルーム(有料)にある遊具類も、すべて水戸岡さんが寄贈したものだ。渡邉さんは「あるものを活用することでコストの削減することまで、水戸岡さんは考えてくれていました」とのこと。水戸岡氏の思いの詰まった「作品」として、山陽道やかげ宿を見て回るのもおもしろいだろう。

天井の絵柄も水戸岡氏のデザイン

キッズルーム(有料)の設備も水戸岡氏が寄贈したもの

今後は「まち全体が道の駅」から「矢掛町内全体が道の駅」へ

「当初は”まち全体が道の駅”というコンセプトがうまく伝わらず、『せっかく道の駅に来たのに、何も買うものがない』という不満の声もありました。しかしコンシェルジュやスタッフの努力もあって、しだいにコンセプトが浸透していっていると感じています。道の駅に到着後、まち側の出入口から矢掛のまちへ向かうお客様もかなり増えました」と渡邉さん。コンシェルジュの丁寧な接客や、水戸岡氏監修の建物の雰囲気なども好評だという。

また渡邉さんは、今後の課題も語る。「矢掛のまちはコンパクトにまとまっており、散策するのにちょうどよいという声があります。いっぽうでコンパクトなまちですから、どうしてもキャパシティに限界があるというのも事実。連休などになるとたくさんのお客様にお越しいただけるのですが、多くの店舗に行列ができて、お待ちいただく時間が長くなってしまうというデメリットがあります。これを解消する策として考えているのが、お客様を分散させる施策です」

山陽道やかげ宿の国道と小田川を挟んだ対岸エリアに、「かわまち広場」というアウトドアを楽しめるスポットの建設が予定されている。初心者をターゲットにしたオートキャンプ場や、小田川でカヌーなどが楽しめる親水広場などを整備する。「キャンプも宿泊ですよね。宿場だった矢掛ですから、キャンプという宿泊も取り入れたらおもしろいんじゃないかという話から生まれた計画なんです」と佐伯さん。

道路交通情報閲覧システムはタッチパネル対応ディスプレイで設置している

道の駅の2階展望デッキから見た「かわまち広場」建設予定地と小田川

「現在、山陽道やかげ宿では実験的にレンタサイクルのサービスを実施しています。かわまち広場のほか、矢掛のまちから少し離れた場所に大規模な遊具のある矢掛町総合運動公園や、古いお寺などの歴史スポットもあります。レンタサイクルでそれらのスポットを周遊する観光プランを推していきたいです。こうすることで観光客の分散化をはかり、キャパシティの問題を解決していきたいですね」

「いまは矢掛の宿場町全体が道の駅ですが、将来的には”矢掛町内全体が道の駅”へと発展していきたいですね。くわえて近隣市町村の観光スポットとも、連携していければと考えています」と渡邉さんは今後の展望を語る。

道の駅に展示されているレンタサイクル(電動アシスト自転車)

レンタサイクルのほかにもレンタルキックスケーターもある

矢掛のまちの魅力拡充にも力を入れる

ほかに渡邉さんは、矢掛のまち(商店街)の魅力拡充にも力を入れているという。「現在の活気を、メイン通りとなる旧西国街道の西端や東端まで波及させたいんです。そのひとつとして、西寄りのエリアに2023年10月、新たに『やかげ西町イベント広場』を新設しました。これは重伝建の基準に沿った新築の建造物です。建物の裏側には大きなイベント会場も備えています。今後は、東寄りのエリアにあるふれあい広場の改修も予定しており、活気をまちの東西まで広げていきたいですね。そして、住んでいる人が楽しいと思えるまちづくりをしていきたいと考えています」と渡邉さん。

道の駅 山陽道やかげ宿:重伝建の基準に沿って新築された「やかげ西町イベント広場」

やかげ西町イベント広場の裏側にある大型ステージ

重伝建の基準に沿った新築は大変めずらしく、遠方からの視察が多いという。イベント広場以外にも、道の駅や矢掛のまちへの視察も全国各地から訪れているとのこと。

「矢掛のまち全体が道の駅」にするというコンセプトをもつ道の駅 山陽道やかげ宿。道の駅の完成でまちに活気があふれる矢掛のまちづくりに注目だ。