
全国にはおよそ「国道」という名称にそぐわないような、細くて狭い、そして荒れた国道が稀に存在します。このような酷い状態の国道は「酷道」と漢字を当てられ、私のようにそれを好んで走る変わり者も一定数いるのですが、四国の内陸部はその“宝庫”です。
四国の酷道として最も有名なのは、徳島県から四国山地を横断し高知県に至る総延長約350kmの国道439号、通称「ヨサク」。路線が恐ろしく長いのに酷道区間多すぎ、2度と走りたくないと思った「酷道の王者」です。そして、439号次ぐ酷道と評されるのが四国山地の東部を縦断する国道193号、通称「イクサ」です。
国道193号は、香川県高松市と徳島県海部郡海南町を結んでいます。大まかに言えば、ほぼ南北に走り、縮尺の大きい概地図を見れば、両地を結ぶのに速くて便利かと思われます。

しかし北から南に向かって走っていくと、中央構造線を境にイクサ国道の酷道たる所以を思い知ることになります。北の西日本内帯と南の西日本外帯とでは山の険しさがまるで違っていて、中央構造線の南部山岳帯の随所に酷道区間連続。まじで身の危険を感じました。
人気の立ち寄り湯「行基の湯」でいきなり肩透かし
国道193号線は、高松市の北端から最南端まではごく普通の国道。その普通の国道193号線を南東に22km走ると、 香川県南部の旧塩江町(現高松市塩江町)の塩江温泉郷がある。温泉があまり多くない香川県内にあって、塩江温泉はこんぴら温泉と共に県内最大級の温泉街だ。 スケールでは他県のメジャーな温泉街と比べて見劣りはするが、 泉質に関しては互角。四季の風景や古い街並みは、メジャーな温泉街とはまた違った風情がある。

この塩江温泉郷の入り口には道の駅「しおのえ」があるのでトイレ休憩に立ち寄ったのだが、せっかくなので温泉に浸かって英気を養ってから「イクサ酷道」の難所に向かおうと、予定を変更。道の駅「しおのえ」の前を流れる香東川には風情のある木製の行基橋がかかっていて、それを渡った対岸には名僧行基にあやかり名付けられた人気の立ち寄り湯「行基の湯」がある。そこで一風呂浴びようとしたのだが、なんとなんと「行基の湯」が閉館していて、いきなり肩透かしをくらった。



人気の湯が閉館ってどういうこと?と思って聞けば、実はこの場所に、道の駅と温浴施設が一体となった施設ができるので、そこで新装オープンとなるのだとか(上はこれまで、下は新施設の完成イメージ)。私は、これまでの方が好きだがw


現在営業している道の駅「しおのえ」は25年度に解体され、新しい道の駅の開業まで営業を休止する予定だったが、入札の不調や工事の遅れで解体は先送り。計画自体が2年ほどずれることになったので、そのまま営業を続けている。しかたないので、ここで一服してから「イクサ酷道」を走って数ある滝の絶景を楽しもうという元の予定に戻した。国道の終点に着いたら、気分次第で近くにある「宍喰温泉」を楽もめばいいかと。
物産館など道の駅の施設はコンパクトで滞在しやすい

道の駅「しおのえ」は、小さな建物の中に物産館と農作物直売所が同居している。 私のように、あまり大きな施設や人混みが苦手な人にとっては、おそらくとても落ち着ける程よい規模である。
駐車場は広くない、というか、狭い。


トイレは、車を降りてすぐだし、綺麗に清掃していただいていて、感謝。



休憩スペースは、施設規模にしては充分と感じる。




レストランという大層なものではないが、お腹が空いている人は、手軽に短時間で小腹を満たすことができる。

物産館の人気商品は塩江銘菓の「しおのえ」。バター風味の生地の中に黄身餡が入った上品なお菓子だ。 カステラ生地につぶ餡が入った「蔵人まんじゅう」や、「しおのえ饅頭」も、温泉饅頭風の甘い味で人気だ。


香川県の特産品である「しょうゆ豆」「讃岐うどん」、 讃岐うどんの一番おいしいと言われている節の部分を集めた「ふしたろう」や「茶うどん」「煮込カレーうどん」、 大根の葉付き一本漬け、ほかにも甘納豆、温泉キャラを使った商品などが目をひいた。





農作物は、高原野菜を特色として、大根、里芋、冬瓜、みかんなど20種類以上が並べられていた。




「土須峠」と「雲早トンネル」から「イクサ」の様相
さあ、ここからはいよいよ「イクサ」である。徳島県の山中を抜けて、同県海陽町に至る約130kmほど。道の駅「しおのえ」を後にすると、クルマは目の前の山へと近づいていく。徳島県との県境あたりはすっかり山里の趣。吉野川を渡り、さらに上り坂を進んでいくと徳島県神山町と那賀町の間で、国道は地図上ではいったん消える。もちろん実際の道は続いていて、この消える区間約8.8kmは徳島県道253号。県道に切り替わる場所にも特に目印はないので、要するに県道253号と国道193号が重複しているのだが、対向車とのすれ違いもやっとの狭さでカーブが続く、「酷道」への序章を感じさせる。
神山町と那賀町の境界には、「土須(どす)峠」と、そこを越えるための「雲早トンネル」がある。


「雲早トンネル」を越えると、日本一長い林道「剣山スーパー林道」と交わるが、林道は林道、進む方向を間違えることはない。
岩に空いた「穴」に突っ込んでいけというのか
クルマのすれ違いも難しい細い道を進んで行くと、やがて目の前に巨大な岩壁が立ちはだかり、そこに穴が空いているのが見える。

この穴は、「大釜隧道」。なんと素掘りのトンネルだ。昭和中期に完成した幅員4.2m、高さ4.5mのトンネルで、外部はなんらコンクリートの補強はされておらず岩をくり抜いただけ。やっぱり大きな「穴」にしか見えない。全長102mだから一気に通り抜けることができるのだが、流石に岩穴に突っ込んでいくのは勇気がいる。入口のすぐ近くには、「日本の滝百選」に選ばれている「大釜の滝」。少し道幅が広くなっているところがあるので、そこでクルマを停め、滝を見物しながらしばしの休憩だ。


意を決して、穴、もといトンネルに突っ込む。トンネル内部も岩肌むき出し。漏水で水たまりもあって、それをはねたときには大きな音がしてヒヤッとした。
滝銀座を過ぎると、いよいよ最難所「霧越峠」へ
大釜隧道を抜けてさらに進むと、こんどは「大轟(おおとどろ)の滝」が迎えてくれる。那賀町の木沢地区と木頭地区は山深く、大小100以上の滝があるのだ。

滝を見るにはクルマを停めてしばらく歩くが、「とくしま88景」に選定される大轟の滝は水量が多く、落差約20mから3段に落ちる様は豪快で、見応えがある。せっかく命懸けで(笑)「イクサ酷道」を走っているのだから、いい景色は見ておかないと(笑)
大轟の滝から進んで峠を抜けると、目の前には那賀川が現れる。ここには2017年に完成した「出合ゆず大橋」がかかっていて、これを渡ると、川を渡った直後に片側交互通行の狭いトンネルがあり、ここを抜けていよいよ険しい「霧越峠」越えに挑むことになる。

道幅が狭いこともそうだが、最も危険なのは落石。結構大きな石が道路の中央まで落ちてきていて、常時バラバラと落石していることが窺える。上から大きいのが落ちてきたらお陀仏だが、ちょっと大きな石を踏んでしまうとタイヤがパンクしてしまう、そのリスクがかなり高い道だ。
「落石踏んでのパンク」「苔でのスリップ「霧で転落」が三大リスク



道の中央には苔が。「霧越峠」はその名のとおり、雲がかかって霧が発生することが多く、晴れの日でもここだけ霧雨ということもめずらしくない。通年消えない地面や斜面の苔はそれを物語っている。ガードレールもない曲がりくねった道ゆえ、苔によるスリップは命取りになる。
霧が深いと、最も危険になる。路肩を見失うと崖に転落するし、落ちている岩も見えにくいからパンクのリスクも高まる。霧がひどい時は、峠越えを無理に決行してはいけない。じっと晴れるのを待つ「勇気」が何より必要だと思う。
またまた温泉で肩透かし、でも眠くなったら必ず仮眠だ
最後の難関である霧越峠を越えると、海部川が見えてくる。ここまで来たら、あとは川沿いを南方に進み、国道55号と合流する終点の「大里交差点」目指すのみ。どんつきが太平洋だが、ようやく着いたかという感じ。流石にちょっと疲れたし、普通の道になると緊張感もなくなって眠くもなってきた。宍喰温泉に宿泊しようと思っていたのだが、行ってみてがっかり。


思った感じではなかった(私は趣味の悪い建物が嫌いで、とくに温泉は鄙びた感じが好き)。
なので、温泉での宿泊は取りやめだ(予約してなかったし)。


道の駅「宍喰温泉」でトイレを借り、夜まで仮眠してから帰路についた。




