
「娘をホストから救ってほしい」。
連載第14回目に詳しく紹介した「玄さん」の「新宿駆け込み寺」には、ここ数年、親からの相談が急増しているそうです。
若い女性が被り続けるあまりに非道なホスト被害をなんとかしようと、「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称:青母連/せいぼれん)という名の専門対策組織が、東京・歌舞伎町に事務所を構える公益社団法人「日本駆け込み寺」内に立ち上がっています。
提供していただいた写真のように、宛名や日付の記載すらない紙切れ一枚で、160万円もの支払いを求められるなど、真っ当な、一般の商習慣とはかけ離れている実態がそこにはあります。
組織の代表は、同法人理事の玄秀盛さん(67)が担当しています。
玄さんはこれまで21年にわたり、DVや家出などのあらゆる悩みに寄り添ってきた実績を持った人ですが、ホストによる被害相談にも数えきれないほど対応してきました。
彼はその経験から、「抜本的な対策のためには条例制定しかない」と断言します。
全く同感です。
ホストに対する多額の支払いを抱える女性たち
青母連をが立ち上がった経緯
民法改正で、2022年4月から18歳で成人。大人として契約できるようになった。
同時にコロナ禍の最中から、歌舞伎町や、関西ではキタやミナミの繁華街で売春する若い女性が増えた。いわゆる「立ちんぼ」である。
この女性たちは、多くが、ホストが彼女らに対して「掛売り」した金額の「支払い」を抱えている。
ホストクラブでは、ホストが飲食代を肩代わりして、女性に後払いさせる「売り掛け」制度を使っていて、このやり方で、地方から都内や大阪の大学生や専門学校生や社会人になったばかりの18歳の女の子が多額の売掛を背負わされるのだ。
以前は18、19歳だったら「未成年」と言うことでそんな法外な「借金」など取り消せたのに、それが、民法改正で、できなくなったことが、被害急増の背景にある。
そして、かつては未成年としてある意味守られたはずの18、19歳の女の子たちの親から、ホスト問題の相談が激増している。これは現実だ。そして、その被害者数は膨大だ。
歌舞伎町のホスト被害の現状
歌舞伎町には今、300軒のホストクラブがあるいう。
1軒で20人のホストがいたとして、ホストの数は6千人。彼らが一人当たり10人の女性を、こうした目にあわせているとしたら、被害者数は6万人ともなる。
「娘がホストにハマり、900万円の借金があると言われて困っています」
「ホストに貢ぐために、風俗で働くしかないという娘を、なんとか止めたい」
「弁護士がいきなり、『お嬢さんがつくったホストクラブへの借金600万円を払ってほしい』と言って乗り込んできた」
親たちは困り果てて相談にやってくるというが、悲しいことに娘の身を案じてのことではく、要するに「金の問題」だと玄さんは嘆く。
女の子が「ホスト通いをやめたい」と言っていれば、対処法はいろいろあるそうだ。そして、絶対的に大事なのは、絶対にホストクラブに「金を渡さない」ことだという。
ホスト側が売掛の際、女の子に渡すのは、紙切れ一枚である。女の子のフルネームすら書いてないし、宛名もなければ日付すらないのもある(冒頭の写真)。
それで数十万~百数十万円を払えと言うのである。多額の売掛を作る手口の典型的なものは、女の子がホスト10人ぐらいに囲まれた「女王様」状態で行われる「シャンパンタワー」だ。それが1回で百数十万円。本人が酩酊状態でも平気で行われるという。
酩酊状態にさせてなどと、しかも18歳や19歳の女の子に対するそんな無茶苦茶なやり方には、絶対に屈してはならない。
「ホスト通いを止めたくない」場合の対処は困難
解決が難しいのは、「女の子が店に行きたい」「ホストに会いたい」という場合。なかなか「手切り」が難しいそうだ。
貢ぐのは、女の子がホストに惚れてるから。いや、ホストが女の子を、徹底的に惚れさせているのだ。
こんな手口がある。
ホストが狙いを定めた子が、自分を目当てに店に2、3回来ると、そのホストは「俺は1年後に店を出すから、そのときに結婚しよう」と持ちかけるという。
手が混んでいるのは、一緒に婚姻届まで書くことだ。
しかし、ホストは必ず、住所をあえて間違える。
女の子は信じているから、きちんと書くうえに、マイナンバーとか身分証の写真も撮られて、個人情報の全てを曝け出してしまう。
そして、女の子は、ホストが自分の店を出すと信じて、1年の間、ホストをナンバーワンにしたいものだから、お金を使いまくるのだ。
そして、けつの毛まで抜いてから、「う〜ん、何かお前は違ったわ」の一言で、女の子は捨てられて終わりだという。
「ほとんどのホストが悪質」と考えていい
歌舞伎町のこの辺りは、ホストクラブがひしめいている。
こんなひどいことが現実のことになっているのは、メディアにも責任がある。
ホストを、さもまともな職業として、面白おかしく取り上げていることが、こうした被害を助長しているのではないだろうか。
ローランド某などというギターアンプみたいな名前のナンバーワンホストなどはタレント気取りでテレビに出ているし、ホストたちのバラエティトーク、ビジネストークあり、ホストを主人公にしたドラマまでありだ。
だから、ホストを募集すると、新人がすぐに来る。
「金を稼げて女にモテる」という安易な考えで。
いざホストクラブで「仕事」を始めてみると、実際は、新人は先輩ホストのヘルプ役にすぎない。
1日で1万円を稼いだとしても、そこから衣装代や寮費を取られる。残るのはわずかだから、すぐに店や友人から借金する。なかには整形代を店に出してもらって金を借りて入店している輩もいるそうだ。
金を稼がないといけないから、女の子をハメる手口を先輩から教えてもらう。そしてそれは、ほぼマニュアル化されているという。
「一部の悪質なホストが問題」だと言う向きがあるが、最近は「ほとんどのホストが悪質」と考えて良いような状態ではないだろうか。
歌舞伎町ホストクラブの変遷
歌舞伎町の老舗ホストクラブの創業は、1970年代初頭である。
80〜90年代は、30歳以下の女性はホストクラブには出入りしなかった。
スナック経営者や医者の妻、芸能人など、金を持っている特定の女性だけが出入りする場所だった。ホストの平均年齢も高く、人気ホストは40歳代だった。
ところが、2000年代に入って、自分がホストをやっていた30〜40代の若い経営者が出てきた。
徐々にホストのスターも誕生し、ホストも若くなった。すると、20代のホストは、キャバ嬢とか風俗の女性を、自分のホストクラブ連れてくるようになっていく。
2008年にiPhoneが売られるようになったことが象徴的だったが、若いホストたちがSNSを駆使して、どんどん台頭してきたのだ。最近はマッチングアプリとかも使いながら、金の支払い能力のない18〜23歳の女の子も見境なく、店に連れ込むようになった。
真っ当な商売の場合、「売掛」は、本来は客の信頼があって成り立つものである。
だからこそ、ほとんどの飲食店は「売掛お断り」であって、ごく一部のスナック、高級料亭、銀座のクラブなどに限られてきたわけである。それができないキャバクラはカード払いだし、デリバリーヘルスなどの風俗は現金払いが基本である。
そんな中、ホストクラブだけが「売掛」を使い始めた。一晩で50万円や100万円の支払いになるなんて、普通の女性が支払える金額ではない。
このような被害を食い止めるためには、例えば25歳以下の「青少年」に対しては、「売掛禁止条例」でも作るしかないだろう。
前例はある。
2000年に、東京都がいわゆる「ぼったくり防止条例」を、2013年には新宿区が「客引き禁止条例」を制定している。
そんな条例がない時代に、私も歌舞伎町で「ぼったくりバー」で10万円やられたことがあった。バブル真っ只中の頃で、歌舞伎町の警察に行くと、「その程度はかまってられません」ということだった(笑)。
ホストビジネスは、こうした変遷を経て、今や歌舞伎町から全国に広まっている。
大阪キタの「立ちんぼ」
繁華街の路上などに立ち、個人的に売春を持ちかける、いわゆる「立ちんぼ」女子が社会問題化して久しいが、警察が取り締まりを強化したことで、大阪市北区の路上でも「立ちんぼ行為」の疑いで逮捕される女子も増えてきた。
売春防止法違反の疑いで逮捕されたある女子は、2月から3月にかけて、北区内の路上で、売春をする目的で客待ちをしていた。警察によると、彼女は1回およそ1万5000円で売春行為をしていて、11カ月でおよそ4000万円を稼いでいたという。

調べに対し、彼女は『ホストクラブに通うための費用』や『美容整形のための費用がほしかった』という趣旨の供述をした。
SNSで《たちんぼいなくなったらホスト業界終わりそうだよな》という指摘があるが、ホストの「売掛金」のために立ちんぼを始める女性は、大阪キタでも後を経たない。私も、この辺りを深夜歩くと、必ずと言っていいほど声をかけられる。
ミナミの「立ちんぼ」…多い時は20人ほどが立っていることも
夜の街・大阪ミナミがいま抱えている問題も、「立ちんぼ」だ。

大阪・ミナミは大阪有数の歓楽街だ。しかし、そのすぐ近くに雰囲気が一変する場所がある。
そこは、道頓堀などの観光スポットからすぐ近くの場所で、多い時には20人ほどが立っている。女性らは路上で売春の客待ちをするいわゆる「立ちんぼ」だ。
客を酔わせて勝手に高い酒を入れて…そういうホストの文化

ミナミで働く現役ホストはこう話す。
「売り掛けするホストは多いです。僕の場合は最高で100万円くらいですね。(他店では)女の子を酔っぱらわせて、自我がない状態で勝手に(シャンパンなどを)持ってきて、未収(売り掛け)して、じゃあ働けよって感じが多いですね。よくないとは思うんですけど、店がやっぱり儲かるんで、止めずに暗黙の了解みたいな感じはありますね。そういうのが今のホストの文化でしょう。」
ますます深刻化する事態に、松村国家公安委員長は「対策を進めるよう警察を指導する」との考えを示している。
一斉摘発で女を逮捕…しかし“買春した男性”は逮捕されず

こうした中、この場所で「逮捕」があった。
大阪府警による一斉摘発が行われ、20代の女4人が逮捕されたのだ。しかし、逮捕されたのはいずれも売春の客待ちをしていた女性で、買春をしていた男性は逮捕されていない。
その理由は、1957年に施行された売春防止法にある。
「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない」
法律では、売春も買春も禁じられている。しかし、買春を行ったものには刑事罰は科されない。
買春する男性はそれ(逮捕されない)を認識した上で来ている者が多いという。
買った方は刑事罰を受けないことを知って、買春行為をやっている男性は、「自分が罰を受けるってなったらやらないよ、絶対やらないと思う。違法で罰則受けるってのは前科もつくんやろうし、そういうのはしたくない。社会的な信用があるから」という。
何が社会的信用か、やってる時点でお前は人間終わってると言いたい。
売春防止法などに詳しい専門家は、買春が罰せられないのは、法律が制定された当時の時代背景が色濃いと話す。
「戦前の考え方が根強い中で、人権という意識が弱かったのではないか。とくに売春っていうのはモラルの問題だと、道徳の問題だとされてきたので。社会の秩序を乱す女たちっていう意識が強かったんじゃないでしょうか」
世界中どこでも、人間の性的欲望は消えることがない。それは、人間とて動物、どうしようもないことだろう。だから法改正を行い、買春する側にも一律刑事罰を与えるというのは難しいというのはわかる。ソープなどの歴史的性産業の全否定になってしまうから。
しかし、18や19が成人扱いされるようになった世の中で、若年女子を救うための法律ぐらいは、存在するべきではないだろうか。
(つづく)
この記事は、連載第28回です。いよいよ次回が、最終回。私の父など騙された高齢者のエビデンスを大公開して、詐欺、そして「トクリュウ」の問題を考えます。