
1、濃口醬油味系・・・1位 新福菜館(昭和13年)、2位 第一旭(昭和31年)、3位 大豊ラーメン(平成組)
2、背脂こってり醤油系・・・1位 ますたに(昭和24年)、2位 ほそかわ(昭和60年)、3位 ラーメン中村屋
3、とんこつ・塩味系・・・1位 元祖らーめん大栄、2位 大栄ラーメン本店、3位 池田屋 一乗寺店
4、鶏こってり白湯系・・・1 天下一品(昭和46年)、2位 麺屋 極鶏、3位 天々有(昭和46年)
5、味噌味、つけ麺、その他・・・1位 恵那く(えなく)、2位 吟醸らーめん 久保田、3位 新新亭
上記のように、京都ラーメンを5つの系統に分けて特集してきましたが、今回の記事は最終話。第五系統の「味噌味、つけ麺、その他」について書きます。
台頭著しい新規勢力は枚挙にいとまがありません。味噌味や塩味にこだわる老舗も頑張っています。
トップ3点に絞るのは難しすぎる系統ですが、この3店を紹介することで、新興勢力と老舗が火花を散らす京都ラーメンの魅力が伝われば幸いです。
味噌味、つけ麺、その他
恵那く
関西屈指のラーメン激戦区”一乗寺”。近年のラーメンブームで激戦区と呼ばれるエリアは増加したが、京都市左京区の一乗寺ほど各店の個性が突き抜けている店が揃ってるエリアは、他に無いと思う。
そんな一乗寺に、50歳を過ぎて「単身」で住むことになった私だが、2010年の夏のある日、お盆を過ぎた頃だったと思う。私はオープンして間もない「つけ麺」専門店に飛び込んだ。
看板すらなく、屋号は「つけ麺」、つまりまだ「つけ」てなかった、そんな店だった。
とにかく暑かったから、ラーメンではなく、また、普通の味なら、ただ「つけ麺」を食られればそれでよかった。
店に入ると、顔は宇崎竜童そっくりで、190センチ近いと思われる青年がいた。
私は「つけ麺」「麺大盛りで」と注文した。すると谷口さんは「大盛り大丈夫ですか?」「麺は熱いのと冷たいのがありますが」と言うので、「じゃあ、麺の量は普通で、冷たいのをお願いします」と麺の量を普通に修正した。何せ、初めての店だ。まずかった場合、後悔するなと思ったのだ。

しばらく待って出てきたつけ麺、とんでもなく美味かった。
それまで食べたことのない美味さだった。感動した。
その店こそ、激戦区一乗寺で今や行列が絶えないつけ麺店となった「恵那く」、店の青年は、店主の谷口 康史氏(以下・谷口さん)だった。

谷口さんは、とにかく寡黙な人だ。写真も嫌がる。だから後ろ姿。
しかも、何度訪れても満席なので、話しかけるのも憚られる。
そんな状況でも、2010年から15年間通い続けているうちに、屋号さえ掲げずにオープンしていた謎の店「恵那区」のこと、ほとんど喋らない謎めいた男・谷口さんのことを、私は店に通うたびに、少しずつ、少しずつ、聞き出し続けた。
最初に分かったことは、谷口さんは大阪出身であること。高校時代に餃子の王将でバイト。そのまま入社して鍋を振っていた。そして、谷口さんは筋金入りのサーファーである。
自分で店をやりたいと京都でサラリーマンを10年やってコツコツ資金をため、結婚もしたが、サーフィンとは離れなかった。サーフィンには夜から出掛けるが、その前に今はもうなくなった『杉千代』でラーメンを食べてから海に向かった。
サラリーマン時代の終盤は東京で、ラーメン好きの谷口さんは、サーフィン行く前にラーメンを食べて、海から上がってまたお昼にラーメンを食べて帰った。その頃通っていた店は「とみ田」「燦燦斗」九十九里の近くにあった「二升屋」、そして自ら修行した某店。
つけ麺については、東京の、その人気店で修行してきたと言うことだが、店名は決して口にしない。自信が惚れ込んだ味の店で、非常に厳しい修行だったこと。そこで1年半働かせてもらい、自分の店をするとしっかりと伝えて、仁義を通して辞めたとだけ話してくれた。
私が初めて行った時に店名すら掲げていなかったが、屋号を”恵那く”としたことについては、サーフィンをしによく行ったバリ島で、インドネシア語の”ENAK”(美味しいの意)を知り、それを日本語と画数で考えて、屋号を”恵那く”としたと教えてくれた。
宇崎竜童似で身長190センチ近い「青年」に見えたが、高校生からの王将勤務以来、キャリアと年数を足して推測すると、私と出会った2011年時点で30路前半、現在は40歳代後半のはずである。

さて 私が最高峰と評する「恵那く」のつけ麺を紹介しよう。
谷口さんは、最初から「自身が修行した店とは全く違う味」で勝負した。修行店の味は明らかに「煮干し」だったが、恵那くの味は、動物系のスープの魚介のスープを加えたダブルスープだ。
丸鶏とモミジ(モミジ豚は広島県庄原市で生産されているブランド豚「瀬戸もみじ」の通称)本来の旨味を活かし、玉葱や人参などの大量の野菜を合わせて長時間炊き上げ、自然な甘味が加わったやわらかくあっさりとした味わい。この動物系と、鯖、カツオ、ウルメ、アジ、煮干し、牡蠣などを調合した魚介系をブレンド。さらに節系ダシと独自配合のスパイスで仕上げている。余分の水分を飛ばしながら長時間炊き込まれ、極太麺に負けない力強い味わいに仕上がっている。
一方、締めの「割りスープ」は、煮干しと昆布を使用してあっさり仕上げてあり、食後の満足感は最高潮に。最後の一滴まで、味わいの変化を楽しめるのだ。

麺は、井澤製粉のブレンド小麦を使用した「自家製極太麵」を使用している。
ムッチムチの麺が、これまた本当に素晴らしい。




谷口さんが修行先で学んだ大きなことは、『麺は麺屋が作った方が絶対に美味い』と言うことだった。
だから恵那くの麺は、井澤製粉が作ってきたものを提供してきた。そして、現在の自家製麺を始めるまでに、谷口さんは試行錯誤に一年かけた。
こうして完成したうどんくらいも太さのある加水強めの極太麺は、小麦の香りがたっぷり。弾力性の強い麺で、噛めば噛むほど麺そのもの美味しさを感じることができる。
こうして2016年12月より自家製に切り替え、麺の美味しさにはますます磨きがかかっているが、それでも1シーズンごとに(同じ製麺機を使っている)山崎麺二郎氏にいろいろ教えを乞うていると言う。また、季節ごとに麺の状態は違うので、常にいい状態を保つのは実は難しい。そこは井澤製粉との強いパイプ、微妙な調整も怠らない。
「『今の麺が一番いい』って言ったら終わりですが、けっこう美味しい麺が作れてるとは思います。」
麺の量は4種類から選べる。小盛150g、並盛200g、中盛275g、大盛450g。大盛だけプラス100円になり、あとは同一料金だ。

大盛(左)と並盛(右)の麺量の違い。
「あつもり」または「ひやもり」が選べるが、私のオススメは「ひやもり」だ。



トッピングは、味玉100円、肉200円、生玉子50円、メンマ120円。
予算が許せば、チャーシュー、メンマ、味玉のトッピングはお勧めできる。
締めは、割りスープで。これがまた最高に美味い!

完全オリジナルのカレーつけ麺も人気だ。
ノーマルのつけ麺でも『カレーが入ってる』ってよく言われていたらしい。いろんな香辛料が入っているため、その中にカレーを感じる人もいたらしい。
『だったらカレーも作ったるわ』って感じで、谷口さんが開発したのが「カレーつけ麺」だ。
得製カレーつけめん 1100円也。

私が、恵那くをこの系統のNo. 1としたのは、もちろん味だが、あと2つ理由がある。
一つは、抜群に清潔だからだ。味に拘るのは当然として、恵那くは掃除が徹底されている。
昔は『汚いラーメン屋は美味い』って変な都市伝説とかありましたが、今はそういう時代じゃない。美味しいけどやたら汚い店は、必ず衰退していく。まして『お金触った手でネギ盛りよった』とか、論外だろう。衛生面を徹底、掃除を徹底。当たり前を当たり前に。恵那くはそこも完璧だ。

あともう一点は、11:30 – 15:30と、1日最長4時間しか店を開けていないことだ。
仕込みなどで実際にはもう少し長く働くのだろうが、売り切れ次第さっさと閉店するので、長くてもおそらく1日6時間労働ぐらいに抑え、残りの時間、谷口さんはイクメンしてるのだと思う。


奥さんにおんぶされて店に出ていた?小さかったこの子も、もう中学生だ。
火曜日は定休なので、おそらく月曜日の夜からはサーフィンにも出掛けているのではないだろうか。
「飲食店は長時間労働」「休みなし」は過去のこと。私は、死語かもしれないが「ワークライフバランス」と「働き方改革」を、自らの手で掴んでいる谷口さんが、私は大好きだ。
唯一無二の味噌つけ麺「吟醸らーめん 久保田」
「吟醸らーめん 久保田」は、京都駅からもなんとか歩いていける範囲、五条の大人気ラーメン店だ。

全国的にも珍しい味噌つけ麺が、吟醸らーめん 久保田の名物で、魚粉やラー油なども入りパンチの効いた味わいは、吟醸らーめん 久保田だけの唯一無二のものである。
今や全国区のラーメン激戦区となった京都だが、味噌ラーメンを看板にしている店は比較的少ない。
そんな京都で味噌と言えばこの店、というべき存在が「吟醸らーめん久保田 本店」だ。
味噌ラーメンや醤油ラーメンも吟醸らーめん 久保田にはあるものの、殆どのお客さんが「味噌つけ麺」を注文する。吟醸らーめん 久保田の名物は、全国的にも珍しいこの「味噌つけ麺」だ。魚粉やラー油なども入ったパンチのある味噌つけ麺は、「吟醸らーめん 久保田」ならではの味わいだ。

これがその味噌つけ麺(並)。
よく見ると、味噌つけだれの中に白く細かいものが混ざっている。

つけだれを一口含んでみると…白く細かい物体は鶏のミンチだろうか。とろみのついた味噌だれにミンチによるざらつき感が加わり、よそのつけ麺ではなかなか体験できない「とろみ+ざらつき」の独特な食感になっている。
味は甘めの味噌味がその主体。鶏の出汁と魚粉の風味、そしてラー油がその味噌味を控えめに支えているといった感じだ。最初に感じたミンチの刺激と、味噌スープ本来の濃厚な旨味がなんとも言えず、うっかりすると「つけだれ」だけ飲みすぎて、麺をいただくのが後回しになってしまいそうな、摩訶不思議な吸引力があるつけだれだ。

このつけダレに、特製の極太麺を絡ませる。
濃厚なつけダレをしっかり絡めとった麺は、かなり強めのコシがあって噛みごたえ、食感が最高。しっ噛むたびに少しずつ小麦の香りが放たれ、噛むほどに甘みが湧き出してくる。
麺につけダレに負けないくらいの存在感があればこそ、「つけ麺」であることを改めて認識させてくれるのだ。
一方、スープの中にある具材の方は、薄めにカットされたチャーシュー1枚のみ。
これは逆に珍しい。一食の中で味の「変化」を楽しむという点において、私的には、この辺りに「恵那く」との大きな差を感じる。

麺を食べ切ったら、最後にスープ割だ。
このスープは昆布出汁で、そのまま飲むとあっさりしすぎ。魚介の風味が物足りないので、濃厚つけだれを薄めて飲むと言う役割しか果たしていないような気がする。入れすぎると拍子抜けするような味になってしまうので、くれぐれも入れ過ぎには注意したい。
上記のことなどを解決する意味でも、スープとの相性が非常に良いと思われる「卵」をトッピングすることをお勧めする(写真下)。

ご存知のように、京都市はオーバーツーリズムが酷すぎる。この店も、観光客が増えすぎて、味も値段もサービスも、今後どうなるかが不安ではある。まあ、ダメだと思えば行かなければいいわけで、今のところはなんとか大丈夫だと思ったので、トップ3の一角に選んだ次第だ。
新進亭
元祖白味噌ラーメン「新進亭」は、1972(昭和47)年の創業である。
ご存知の方も多いと思うのだが 河原町蛸薬師西入るに河原町ビブレという商業施設があった。そのビブレの入り口あたりに、この新進亭の店があった。
私が学生の頃に通ったのは、この店。1978年から1982年の間、四条河原町界隈で遊んでいてお腹が空くと、餃子の王将か新進亭というぐらい、よく通った。
その後、1985年に麩屋町二条に引っ越しされてから、新進亭は絶頂期へ。ハリウッドスターのキアヌリーブスや中島みゆきなんかも来店したそうだ。
現在、「新進亭」は、ラーメン激戦区一乗寺ラーメンストリートのメイン通りの「天天有一乗寺店」の角を西へ歩いてスグの場所にある。味は、1972年創業当時の、懐かしい味を楽しめる。


老夫婦と子どもさんの3人が仲良く、しばしば喧嘩しながら元気で店をやっておられたが、最近はすっかり子どもさん(と言っても私とあまり歳は変わらない)写真のおかみさんが、まさに「大車輪」で店を回しておられる。
実は私が単身赴任していたのは、新新亭のすぐ近く。店には土日の昼飯は必ずここ。毎週通ったが、平日夕刻、スーパーでも彼女によく会ったものだ。彼女は商売を離れた場面でも本当に愛想のいい方で、今でも大の仲良し、何を隠そう大好きな人なのである。
新進亭と言えば「白味噌ラーメン」。今どきなんと720円と言うことで、コスパも最高だ。

開業以来、使っているのは老舗「しま村」の白味噌。だから、味が変わらない。
香り付けにひと振りする山椒の風味も、白味噌の甘みによく合っている。もやしと玉ねぎとミンチを炊いて引き出した旨みも豊富。ラーメン激戦区・一乗寺にあって、高齢者層の人気が抜群に高い。
麺の茹で加減も丁度よく、麺はやや細ながら十分なモッチリ感があって食べ応えは十分だ。
下の醤油ラーメンは690円。
醤油ラーメンのスープは、一言で言えば醤油味なのだがたまねぎとひき肉が溶け合って、深いコクある味のスープに仕上がっている。醤油ラーメンには生姜とニンニクが入っていて、このスープの独特の味わいに生姜がいい仕事をしている。シャキシャキもやしも本当に美味い。
ちなみに中華そばは600円とさらに安いが、中華そばの方は生姜とニンニクは入ってなく、もう少し澄んだスープでよりスッキリしたスープになっている。
何を隠そう第二弾、私は、味噌ラーメンと醤油ラーメン、どちらもいただくと言う日が多い。片方にする場合は、その代わりに必ず餃子セットを頼む。このチャーハンと餃子がまた美味いのだ。
餃子セットはラーメン+340円。ギョーザ5個と白ご飯がついてくる。
餃子はマジで美味い。彼女の手作りなのだが、餃子専門店としてもやっていけそうなレベルである。惚れてまうやろ〜!いつも、ごはんタップリ大盛りにしてくれる。


この「第五系統」のトップ3は、異論続出かもしれない。
それほど、新興勢力の攻勢は凄まじい。
ただ、新進亭のような素朴な味をトップ3に残したのは、雨後の筍のように出てくる新興勢力の多くが気を衒いすぎていたり、ラーメンの基本を疎かにしていたり、何より「京都ラーメン」として長続きしそうにない店も、あまりに多いからだ。
この系統は、53年にわたって創業時の味を維持している新進亭が基準となった。そして、それを明らかに上回るラーメンは、結局2店だけと言う結果になったのだ。
逆に、第二位に選んだ「吟醸らーめん 久保田」の未来は心配だ。京都はオーバーツーリズムが酷すぎて、適当にやっても儲かると言う感覚が、すでに経営を麻痺させかけている印象を受けたからだ。
大阪の金龍も、揚子江も、古潭も、今や見る影もない。
インバウンド狂想曲は、ラーメン界を確実にダメにする。
(おわり)