京都市の「宿泊税の引上げ」と「住みやすさの引き下げ」を考えた。

目的地で降りようとしても、乗ってくる外国人が邪魔で降りられない。乗ろうとしても、外国人でいっぱいで乗ることができない、それが京都市バスです。

さて そんな京都市が、ホテルや旅館などの宿泊者から1泊あたり200円から1000円を徴収している「宿泊税」について、その上限額を1万円に引き上げる方向で、2026年3月の引き上げ実施を目指しています。引き上げ後の税収額は、過去最高だった2023年度の52億円の2倍以上、およそ130億円を見込んで条例変更に踏み切ります。

京都市では、2018年10月から宿泊税の課税を始め、現在は宿泊料金が1泊2万円未満は200円、2万円以上5万円未満は500円、5万円以上は1000円の「3段階」に分けて税を課しています。

今回の条例改正案は、これを2026年から「5段階」に細分化し、1泊6千円未満は200円、6千円以上2万円未満は400円、2万円以上5万円未満は1000円、5万円以上10万円未満は4000円、そして、10万円以上は1万円に引き上げるというものです。

宿泊税は現在、全国で11の自治体が導入していて、このうち定額制の最高額は北海道ニセコ町の2000円。その5倍に引き上げられる京都市の改正案は来月(2月)に開かれる定例市議会に提出されて可決される見通しで、総務大臣の同意を得て実施されれば、定額制の宿泊税を導入している自治体としては全国で突出して高額な宿泊税となります。

宿泊税変更の検討プロセス

宿泊税とは、自治体が条例を制定し、総務大臣の同意を得て独自に課税する地方税だ。
京都市では、7年前(2018年)から導入していて、修学旅行生とその引率者などを除いて、市内すべてのホテルや旅館などの利用者から徴収している。これによる京都市の税収額は、初年度(2018年度)は15億円、2019年度には42億円、2020年度には、新型コロナの影響で13億円まで落ち込んだものの、2023年度は過去最高となる52億円となった。
市によれば、その使いみちは約束通り観光混雑対策や景観の保全に限っていて、これまでに、文化財を修繕するための経費への補助、景観を楽しんでもらうために電柱をなくして電線を地中に埋める「無電柱化」事業、観光案内やマナー啓発のための情報発信の取り組みなどの一部に活用してきたとのこと。
5年ごとに制度を見直すことにしていたので、昨年(2024年)、大学や経済団体の有識者でつくる会議を設置し、たった3回(笑)議論してきたという。その結果、いわゆる「オーバーツーリズム」への対策をめぐって多額の費用が見込まれることなどから、去年11月、会議は税額を引き上げるよう市に答申し、市が引き上げに向けた具体案の検討を進めてきた。

私の個人的感想と意見

宿泊税を高額にしたことで、どの程度、観光に影響が出るか注視しなければいけないというが、今回の改正では「安宿」の宿泊客には税額アップはほぼなく、5万円以上、10万円以上といった「バカ高い宿泊料を払う人の税額を大きく引き上げた」ようになっていて、京都市にしてはよくできた案だと私は思った。海外富裕層から見れば1万円など屁でも無い金額であり、これによる海外富裕層の京都離れは起きないだろう。ただ、本気でオーバーツーリズムをマシにしようと思ったら、安宿を探して大量に京都に押し寄せる層こそを減らさない限り、市民生活への悪影響は何ら改善されない。京都市は、世間から攻撃されずに増収したいだけで、オーバーツーリズムを何とかしたいなんてこれっぽっちも思っていないのだ。

それより、子育て世代の市外脱出、人口減をどうする?

京都市は政令指定都市最悪の財政状況を悪化させ続け、もはや破綻寸前に追い込まれた。史上最悪の門川市長がようやく退き、市長が変わると財政破綻危機の状況は少しずつ改善し始めた。しかし、京都市が住みにくくなる一方というのは変わらない。ついに見切りをつけた子育て世代住民の大流出が、もうどうにも止まらない。総務省の住民基本台帳に基づく人口統計でも、令和2年、3年と年間の減少数は2年連続で日本一だ。

京都市では、2005年以降、死亡者が出生者を上回る自然減が続いている。2022年には死亡者が出生者(8591人)の約2倍という、驚愕の「少子化」が起こっている。これはどういうことかというと、人生100年時代と言われる中でも、京都の高齢者は寿命をまっとうして一定数きっちり死んでいくのだが、子どもはそれ以上に激減しているということなのだ。

住みにくい→子育てしにくい→産む気がしない

1人の女性が生涯に生む子どもの推計人数をあらわす合計特殊出生率は、2020年に1.15まで低下。20の政令指定都市の中で下から2番目で、もちろん全国平均を大きく下回る。いかに住みにくく、出産する気にならず、産んでも育てにくいか、ということだ。

一方、人々の移動状況を示す社会動態を見ると、コロナを挟んで大きく動いている。ただ、転入要因は主に留学生など外国人の転入であり、日本人に限ってみると2017年以降は転出超過が続き、近年さらに日本人の転出は増加傾向にある。下は3年前、子育て世代の市外流出に警鐘を鳴らす京都新聞の一面。

京都の街を歩いてみるといい。その解釈や是非は置いといて、観光地はもちろん市内のどこも外国人だらけだ。

子育て世代の流出は人口減少のターボ

京都市最大の問題は、25~39歳の子育て世代の転出超過が顕著なことだ。この世代が転出すると、この世代の子どもである0~4歳も一緒に転出するから、合わせて大幅な転出超過となる。結婚期や子どもが幼少時に、住みやすさ、子育てのしやすさを求めて近隣の滋賀県(大津市など)や京都府内の城陽市や宇治市などに転出するケースが多いのだ。

最も大きな要因は、インバウンドばかりを優先し、その増加ばかりを求めてホテル建設ラッシュを「良いこと」と勘違い。それよって市内の地価が急騰した。経済は正直だから、当然、住宅コストの高騰が起こる。結果、この10年で市内中心部の地価は2倍超、新築マンションは6000万円から1億円超の水準になってしまった。

売買対象2023年8月2024年8月前年比
中古マンション2,915万円 3,350万円+435万
中古戸建2,238万円 2,392万円+160万
土地2,692万円 3,024万円+332万

参考: マンスリーレポート No.141 2024年9月号|公益社団法人近畿圏不動産流通機構

一方、JRで京都駅から3駅、13分程度の大津市内のマンション(68~84平方メートル)の最多販売価格帯は3700万円ほど。子育て世代が転出するのも当然のことなのだ。

オーバーツーリズムがもたらす基本的問題

観光客の急増は交通に限らず様々な側面で混雑現象をもたらす。もちろん、インバウンド規模の大きさが混雑現象の最大の理由であるが、それだけではない。実は、混雑現象のより重大な問題は、観光客が一般市民や通学通勤者とは異なった行動パターンを持っていて、常住人口の行動パターンを前提に作られた様々なインフラや慣行やルールが観光客の行動にそぐわず、そこに摩擦が生じることにある。

市民からの苦情の多い騒音やゴミ問題は、住民にとっては従うことに無理のないルールがあるのに観光客にはそもそも理解されていないことによって起こる。そして、このような苦情の多くは、住宅街の中に立地する簡易宿所や民泊施設の近隣で頻繁に発生するのだ。

外資に、中心部を売り渡す京都市

一方、富裕層を取り込もうとすることですでに地価高騰、マンション高騰を招いて問題についても、そやがて何が起こるかを見通せない京都市政の愚かさがその根本にある。問題の背景には、京都市が2017年から「上質宿泊施設誘致制度」の運用を始め、意図的にラグジュアリーホテルを増やしていることがある。まず、現状を把握しよう。

超高級ホテルの建設ラッシュに沸く京都では、2026年にかけても新規開業はまだまだ続いている。目立つのは外資系ホテルブランドで、客室数を100室前後に抑えたスモールラグジュアリーホテルである。今年開催される大阪・関西万博のために来日する海外の富裕層を取り込み、スタートダッシュを成功させようともくろむホテルも多い。

2023~24年に開業された「デュシタニ京都」「バンヤンツリー・東山 京都」「シックスセンシズ 京都」はアジアで人気のホテルで、いずれも日本初進出だ。

2023年秋に開業予定であるタイのホテル「デュシタニ京都」(出所:安田不動産)

2023年秋に開業したタイのホテル「デュシタニ京都」(出所:安田不動産)

24年春に開業予定のホテル「バンヤンツリー・東山 京都」(出所:ウェルス・マネジメントグループ、サムティ)

24年春に開業した「バンヤンツリー・東山 京都」(出所:ウェルス・マネジメントグループ、サムティ)

バンヤンツリー・東山 京都は、ホテル内に能舞台を設ける(出所:ウェルス・マネジメントグループ、サムティ)

バンヤンツリー・東山 京都は、ホテル内に能舞台を設ける(出所:ウェルス・マネジメントグループ、サムティ)

京都国立博物館の隣にできるホテル「シックスセンシズ 京都」(出所:ウェルス・マネジメントグループ、サムティ)

京都国立博物館の隣には「シックスセンシズ 京都」が(出所:ウェルス・マネジメントグループ、サムティ)

シックスセンシズ 京都の客室例(出所:ウェルス・マネジメントグループ、サムティ)

シックスセンシズ 京都の客室(出所:ウェルス・マネジメントグループ、サムティ)

同様の規模のホテル「リージェント京都」も24年に開業した。こちらは老舗料亭「岡崎つる家」の敷地にホテルを構える。

24年に開業予定のホテル「リージェント京都」。写真は「岡崎つる家」の建物と庭園で、一体で開発する(写真:英IHGホテルズ&リゾーツ、GI キャピタル・マネジメント)

2024年に開業した「リージェント京都」。「岡崎つる家」の建物と、庭園で結ぶ(写真:英IHGホテルズ&リゾーツ、GI キャピタル・マネジメント)

高台寺近くの老舗料亭内に米ハイアットが最上級ブランド「パークハイアット京都」を開業。高級リゾートホテル「アマン京都」も北区で営業を始めている。

300室を超える大型ホテル「ヒルトン京都」も2024年に開業した。ヒルトンは21年にスモールラグジュアリーホテル「ROKU KYOTO、LXR Hotels & Resorts」、22年には宿泊特化型のホテル「ヒルトン・ガーデン・イン京都四条烏丸」、23年夏には「ダブルツリーbyヒルトン京都東山」も開業済みだ。2021~24年の4年間に、合計4件のヒルトン系ホテルが誕生している。ヒルトンは、客層や用途に応じてこれらのホテルを使い分けている。

300室を超える大型ホテル「ヒルトン京都」(出所:東京建物、米ヒルトン)

300室を超える大型ホテル「ヒルトン京都」(出所:東京建物、米ヒルトン)

大型ホテルになるヒルトン京都のレセプション。天井が高い(出所:東京建物、米ヒルトン)

大型ホテルであるヒルトン京都のレセプション。天井が恐ろしく高い(出所:東京建物、米ヒルトン)

2025~26年も外資系ホテルの進出は止まらない。「シャングリ・ラ ホテル 京都二条城」「カペラ京都」「京都相国寺門前町計画(仮称、ローズウッドホテルグループ)」などが予定されている枚挙に遑がない。

上質宿泊施設候補に選ばれた「シャングリ・ラ ホテル 京都二条城計画(仮称)」(出所:サムティ、シャングリ・ラグループ)

上質宿泊施設候補に選ばれた「シャングリ・ラ ホテル 京都二条城計画(仮称)」(出所:サムティ、シャングリ・ラグループ)

シンガポールのホテル「カペラ京都」が日本に初進出(出所:NTT都市開発)

シンガポールのホテル「カペラ京都」が日本に初進出(出所:NTT都市開発)

祇園の伝統文化破壊を招く帝国ホテル進出で早くも起こるハレーション

これら外資系の攻勢に対し、国内勢ではプリンスホテルが清水小跡地(東山区)に、三井不動産が二条城東側(中京区)に、それぞれグループ最高級のホテルで対抗。26年春には、帝国ホテルがついに祇園に進出する。これは、祇園にある「弥栄会館」の一部を保存しつつ建設するものだ。帝国ホテルは、弥栄会館を所有する学校法人「八坂女紅場(にょこうば)学園」との基本合意を済ませており、帝国ホテルの祇園進出が実現する。

祇園では観光客の迷惑行為を受け、地元団体が市に対策を要望している。

八坂女紅場学園の杉浦京子副理事長(「一力亭」女将)は、そうした地元を代表する立場から寝返った形。「日本の生活習慣やしきたりを分かってもらえるよう、地道に伝え続けたい」とか「一流ホテルに来てもらうことで界わいの人の流れも少し変わると思う」とか言うが、巨額の金に目が眩み、有頂天のアホにつける薬はもはやないだろう。

京都高級ホテルバブルの端緒は10年前

そもそも京都での高級ホテルラッシュの号砲は、2014年に中京区の鴨川沿いにオープンした「ザ・リッツ・カールトン京都」だった。世界的なブランドと手厚いサービスを武器に、いち早く海外の富裕層を取り込んだのだ。そして2年後の2016年には、カナダの高級ホテルグループが東山区で「フォーシーズンズホテル京都」を開業した。

こうして京都に進出済みで、リピート客を抱え始めている「ザ・リッツ・カールトン京都」「翠嵐(すいらん)ラグジュアリーコレクションホテル 京都」「フォーシーズンズホテル京都」「パーク ハイアット 京都」「アマン京都」などの先行組を含め、京都の既存ホテルも大規模改装で宿泊料の高価格帯シフトで応戦。インバウンド富裕層の争奪戦は、ますます激化している。

「超高級ホテルの乱立」は、京都の終わりの始まり

海外富裕層の誘客は、一時的に地域に大きな利を生む出す一方で、売れるからといって不当に高い値付けをすることが、観光地としての京都の価値を下げることになるだろう。長い目で見ると、それによる損失ははるかに大きい。しかも、「海外富裕層向け」を謳いながら、対象となる海外富裕層の個別ニーズを汲み取れていないまま、さらにはニーズの天井がどこにあるかもわからぬまま、外資に中心部の不動産を売り渡し住民の空洞化にまっしぐらな現在の京都は、およそ「行政」の体をなしていない。

ニーズが飽和した瞬間、または世界経済の状況が変わった時、あるいはまたパンデミックが起これば、あっけなくぴたりと客足は止まり、たちまち淘汰が始まることを京都はすでに経験しているのに、本当に愚かとしか言いようがない。

この10数年、京都市はインバウンドという綺麗な蝶を追うのに夢中な、子どもそのものに見える。蝶を捕まえてふと振り返れば、今、自分の大切な家がどこにあったかもわからない迷子になっていた。インバウンド富裕層という綺麗な蝶は捕まえたかに見えるが、蝶はすぐに死ぬだろう。大きな負の遺産を残して、必ず死ぬ。そして、愛想つかして「京都離れ」をした人たちに、帰ってきてと泣き叫んでも、彼らはもう京都には戻ってこない。

ちょっとばかし綺麗な蝶を追いかけて、守るべきものを失った京都市。「京都の終わり」の「始まり」だ。大人であればちょっと考えればわかることなのに、脳が幼稚すぎてこんなことになってしまった。残念だが、実に滑稽なことである。