
伊豆の最南端「石廊崎」の断崖絶壁に、突如現れる神社が二つある。
石室神社と、熊野神社だ。
特に石室神社は、写真のように、切り立った断崖の岩と岩の間にすっぽりと収まっているような不思議な造りで、よくこんなところに建てられたものだと驚くほかない。
今から1300年以上前に建てられた歴史のある神社で、現在の社殿は明治34年(1901年)に再建されたものだ。
祀られている神様は「伊波例命(いわれのみこと)」。
海上安全・商売繁盛・学業成就・厄除けの神として、航行する船を見守っている。



溶岩流でできた石廊崎
石廊崎(いろうざき)に一面にひろがるごつごつした岩は、海底に噴出した溶岩流だ。


溶岩が水中に噴出すると、水によって急激に冷やされ、ばりばりに砕けた岩片の集合になる。これは、熱いお湯を入れておいたコップを冷水に入れると割れてしまう現象に似ている。
この現象が、海底火山の大規模な噴火で大量の溶岩が海底に流れ広がった時に起こり、石廊崎の崖には蜂の巣のようにたくさんの窪みができた。石室神社はこの窪みを利用して作られている。


これらの窪みは「タフォニ」と呼ばれ、水に溶けていた塩が、水分の蒸発にともなって結晶になり、その結晶の成長によって岩石が壊されてできると考えられている。
伊豆七不思議の筆頭「千石船の帆柱」
石室神社は、実は「伊豆の七不思議」の一つとしても有名な場所である。
伊豆七不思議とは、それは、修善寺「独鈷の湯」、河津「酒精進・鳥精進」、堂ヶ島「ゆるぎ橋」、大瀬(沼津)「神池」、函南「こだま石」、石廊崎「千石船帆柱」、南伊豆「手石の阿弥陀三尊」の7つ。その中でもその筆頭ではないかと名高い「千石船の帆柱」とはこうだ。
“その昔、江戸へ向かう播州の千石船が石廊崎の沖で大嵐に襲われた。船頭たちは転覆寸前の船上から、対岸に見える石室神社に「船の命である帆柱の奉納と引き換えに助けてください」と一心に誓願したところ、不思議なことに波が静まり、船は無事に江戸へ着くことができたという。その帰路、往路の誓願をすっかり忘れた船が、再び石廊崎の沖を通り過ぎようとしたところ、なぜか船は一向に進まず、次第に暴風雨となった。船頭は往路の誓願を思い出し、帆柱を切り倒して海に投じた。海に投じた帆柱は荒れ狂う大波に乗り、播州濱田港から塩を運んでいた千石船が石廊崎の沖で嵐に遭い、その帆柱を石廊権現に奉納すると誓って祈ったところ、無事に江戸に到着することができた。その帰途、帆柱奉納のことをすっかり忘れていると、何故か石廊崎の沖で船が進まなくなり、天候が急変して暴風雨となった。往路に誓いを立てたことを思い出した船主が千石船の帆柱を斧で切り倒すと、帆柱はひとりでに波に乗り、断崖絶壁(およそ30メートル)を石廊権現の社殿あたりまで、まるで供えたかのように打ち上げられた。同時に暴風雨も鎮まり、船は無事に播州へ戻ることができたのだった”
その帆柱が石室神社の社殿を現在も支えているというが、神社は本殿の足元を一部ガラス張りにしてあり、帆柱の現在の姿を覗けるような造りになっているので、帆柱を実際に見ることができるのだ。

帆柱の素材は檜。現在も本殿下に三間(約5m)、拝殿下に六間(約11m)使われ、社殿をしっかりと支えている。
それにしても、こんな大きな檜を、この断崖絶壁の場所までどうやって運んだのだろうか。クレーンなどもなかった時代に。そう考えると、「千石船の帆柱」の伝説が何やら真実味を帯びてくるではないか。
熊野神社の由来
伊豆半島最南端に位置する南伊豆町石廊崎に港から片道徒歩約20分ほど歩いた場所に、石廊埼灯台がある。

そして、その奥に石室神社と熊野神社はある。
熊野神社の由来についても伝説がある。
“その昔、長津呂の郷に住む名主の娘、お静は毎夜、人目を忍んで岬で火を焚き、神子元島にいる漁師の幸吉に「元気に過ごしています」と合図を送っていた。幸吉もまた火を焚いて、お互いの安否を確かめ合っていた。ある日、突然神子元島からの火が途絶え、不安を募らせたお静は意を決し、満月の夜ひそかに小舟を出した。幸吉も石廊岬の火が消え、お静の安否を気遣っていた。そんな時、海を見ると、月明かりの中に小舟が流されている。「もしや、お静さんでは・・・」。力尽きたお静の舟めがけて海に飛び込み、無事にお静を助け出した。その後二人は幸せに暮らしたという”
明治4年(1871年)、石廊埼灯台が建てられた。
もとは海上安全守護のご利益のある熊野権現だったが、 「お静」が火を焚いたところに熊野権現の祠が祀られ、以来縁結びの神様として知られるようになった。

そして、明治初期の神仏分離によって熊野神社と称するようになったということだ。

みなみの桜と菜の花が素晴らしい道の駅
道の駅「下賀茂温泉 湯の花」は、伊豆半島最南端の南伊豆町、石廊崎のすぐ北にある。道の駅から石廊崎までは、国道136号線と県道16号線をおよそ11キロだ。




道中、沿岸部はこんな景色だ。
駅名の下賀茂温泉は南伊豆地方を代表する名湯で、道の駅は下賀茂温泉街から川を挟んで向かい側に位置している。

案内に従って駐車場に入り、車を停めて、まずはトイレへ。





ちょっといい感じの、味のあるトイレだ。



南伊豆町は、とにかく花景色が美しい。

特に2月の下旬から3月中旬にかけては駅周辺の青野川沿いに早咲きの河津桜と菜の花が咲き誇り、「みなみの桜と菜の花まつり」が開催されて全国から多くの観光客を集める。


また、駅から500メートル程の場所に熱帯植物園があり、そこではハイビスカスや胡蝶蘭など熱帯植物の美しい花を見ることができる。
柑橘系果物が並ぶ直売所
道の駅には農作物(海産物)直売所のほか、展示館、観光案内所、足湯施設、アートギャラリー、マーガレット温室がある。




農作物直売所で目立つのはミカンを始めとする柑橘系の果物各種だ。

青島ミカン、ポンカン、八朔、伊予柑などの有名どころから不知火、はるか、黄金柑など珍しい柑橘系果物まで販売されている。


また、南伊豆町は多くの漁港を持っているため、海産物も非常に充実している。 干物コーナーでは金目鯛の干物、酒漬けサンマ、アジの干物、鯖ミリン漬け、なまり節、あごだし、鯛だしなどが販売されている。
農作物直売所の奥には無料の足湯施設があるが、足湯は、足が臭い私にはとても助かる。
ここの足湯からは青野川沿いに咲く河津桜や菜の花を見ることができて素晴らしい。
足湯の横にはこちらも入場無料のマーガレット温室が。 マーガレットはこの町の花にも制定されているそうだ。