人間はなんで働くの?-24  お金を増やさないと老後貧乏になる

世界の民族は、たどってきた歴史から「狩猟民族」と「農耕民族」に大きく分かれるそうです。

狩りによって食べ物を得ていた人々は獲物がたくさん獲れれば満腹になるが、捕れない日々が続けば途端に飢えてしまう。なので狩猟民族は常に獲物を仕留める武器をつくって進化させ、獲物を求めて移動を繰り返してきました。アングロサクソンやロシア、東欧諸国、アフリカなどに住む人たちのルーツは狩猟民族だったといわれているが、ロシアがウクライナに平気で侵攻できるのは、そうした民族性にもよるのでしょうか。

一方で、農耕民族は河川流域の平野に定住して、麦や稲を育て、それらを保存しながら集団や村をつくって生活してきました。河川の氾濫や台風被害さえなければ、毎年食べ物が確保できて、狩猟民族より生活は安定していたと思われます。エジプトやメソポタミア、東南アジア、日本などがこれに該当するといわれていますが、村や社会の掟をしっかり守って集団行動をし、村八分にされて群れから外されることをもっとも恐れて生活してきた日本人は、おそらく農耕民族の代表格なのでしょう。

額に汗して働くのは農耕民族は投資に無関心

日本の投資人口

前回の記事で、三菱UFJ銀行の不祥事に触れたが、証券ガリバー野村證券の不祥事も、客を襲って金を奪い、さらに殺そうと顧客の家に火をつけたと言う信じがたい内容だった。

そんな腐った会社ではあるが、日本人の投資に関するデータとして公表されているものは限られ、その中で野村アセットマネジメント株式会社が2005年から継続的に行っている「投資信託に関するアンケート調査」の精度が高いと思われるので、それを引かせていただく。

2020年の本調査結果では、投資信託あるいは株式を保有する投資家人口を「日本の人口統計」に当てはめて推計したところ、20歳以上の人口(約1億人)に対して約2,700万人、26%という結果だった。そのうち、投資信託の保有者は1,294万人と推計されるという。

また、日本最大のモバイル専門調査機関であるMMD研究所による「日米中3ヶ国都市部スマートフォンユーザー比較調査」によれば、いかなる投資も行っていない日本人の割合は59.2%。約6割の日本人が投資を何も行っていないという。

これらの数値はいずれも、世界の投資状況と比較して日本人の投資人口の割合はきわめて低い状況を裏付けるものだ。

若者の投資人口は増加傾向

世界と比較してまだまだ低い割合に留まっている日本人の投資人口だが、株式会社野村研究所が3年おきに実施している「生活者1万人アンケート」には、ここ数年で大きな変化がある見られるという。顕著なのは、若者の投資人口の急増傾向で、そこには早期から資産形成に取り組もうとする姿勢がうかがえるという。

少し古いが、2021年の本アンケートによる「投資を行っている人の割合(年齢階層別)」は、25~29歳で投資を行っている人の割合は、2018年からの3年間で11.3%増えて17.9%。30~39歳においても5.6%増の19.1%へと上昇していることが報告されている。また、若者には「投資信託」が人気であることも明らかになっていて、これについては若者が(手をつけやすい)少額投資商品の存在を知って始めているのではないかとの分析がある。

世界の投資人口との比較

低い低いと言われる日本の投資人口(割合)だが、実際は世界とどれほどの差があるのか。

日銀が発表している下記の「日米欧比較」がわかりやすい。

このデータは2022年3月、「最低金利」の世の中における調査である。いくら低金利になっても「日本人は貯金が好き」と言われる所以だ。

投資を代表格とする「不労所得」は、働かなくても入ってくる所得というわけだが、労働の対価ではないというだけで、まったく何もせずに得られるものではない。また、不労所得の種類はさまざまあるが、自分の目的や用意できる自己資金、将来のビジョンなどを踏まえたうえで、自分に合った適切な方法でなければ成功はおぼつかない。

私の手元にある2,000のサンプルの中で、この「Fuyasu Work(増やすワーク)」で大成功している人を探したところ20人ほどいたしかいなかった(そこそこうまくいっておられる方は50人ほどいらっしゃる)。FXや不動産投資ですでに大失敗した人のエビデンスも10人ほど確認できた。

しかし、やっている人は非常に多く、まだまだ成果はこれからという人たちが200人ほど。私の師匠・目黒元之氏によれば、「最低10年、できれば30年のスパンで考えると、投資と保険のバランスをとった資産形成はほぼ100%成功する」という。

「投資をやっている人は26%」と言う統計数字には遠く及ばないが、私がエビデンスとして確認できたのは相当近しい関係にあってその状況を知り得ているからであり、多くの人はこの「不労所得」は大っぴらにせず、隠れてとまでは言わないが、密かにやっているのだろう、その成否を無理やり聞き出すのはいくらなんでも無理である(笑)

なぜ日本の投資人口は少ないのか

お金の話ははしたない

それにしても、貧困ではない層にいる日本人は現金や預金を多く保有しているにも関わらず、投資人口の割合が今日まであまりにも少なかったのはなぜなのだろうか。

日本の投資人口が少ない理由としては、第一には冒頭に触れたように、狩猟民族をルーツとする欧米人よりも、農耕民族としての歴史を通じて形成された「和をもって尊しとなす」あるいは「比較的消極的」と言われる日本人の性格が根底にあるだろう。
そして第二に、「お金に対する消極性」があるのだろう。

私が、2,000人のサンプルから、より多くの明確なエビデンスを見出すのが困難だったように、昔から日本では、お金が大好きな人がたくさんいるにも関わらず、公共の場では「お金」に関する話をすることに悪い印象を持ち続けてきた。賄賂や横領など、お金大好きな人々が隠れてお金に関する悪さをする文化も、そうした日本人の「お金への消極性」が背景にあるように思う。

第三には、表立ってはお金のことを教えてこなかった「教育」の問題があると思われる。私たちの小中高時代を振り返っても、教科としてお金に関連するものは皆無で、生きていく上で最低限身に付けておきたい「金融リテラシー」の教育を受ける機会はまるでなかった。

ようやく2022年度から高校で「資産形成教育」を家庭科授業の一環で取り入れられるようになったが、すでに社会に出ている現役世代や私たち高齢者は今更これらを学ぶことができず、お金に対して「貯金しておけば安心」という意識が根強く植え付いたままになっているのだ。

リスクを取りたくない

日本人は概ね安全志向であり非常に保守的な国民性を持っていると言われてきた。

たとえば世界主要国価値観調査という、各国国民の「価値観」についての調査がある。その中で「人生で大切だと思うこと」の回答項目にある「冒険し、リスクを冒すこと、刺激のある生活」にあてはまると答えた日本人は25.8%。 これはアメリカの52.8%、イギリスの56.3%と比較すると半数にも満たない。いかに日本人が保守的であるかが際立っている。

投資とリスクは切り離すことができないが、日本人が投資に積極的になれないのは「元本割れリスク」を冒したくない気持ちが強いからだろう。

投資を始める日本人にも、「裕福な生活」や「刺激的な日常」という積極的なものよりも、「生活防衛」「老後の資産形成」といった保守的な動機が多く見られる。

そのため、非課税制度を利用して安定的な資産形成を行うことができる「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」に人気が集まる傾向が強い。

投資による非課税制度がなかった

本来なら、投資をすると利益に対して約20%の税金が課税される。

2014年1月より一般NISAの少額投資非課税制度が導入されてじわじわ普及していったが、そもそも投資や資産運用に対する教育を受けていなかった世代を動かすまでのパワーはなかった。NISAについては、制度導入されたからと言って需要の急増とはならなかったので、10年後の2024年に制度のテコ入れが行われ、iDeCoとともに、政府は強く推奨している。

公的年金が充実している

政府が iDeCoとつみたてNISAなどに積極的なのは、定年後にもらえる「公的年金(老齢年金)制度」が揺らぎ始めていることの裏返しだ。そもそも世界には、公的年金制度など無い国も多い中、日本の年金制度は非常に充実していた。しかし、その制度自体、いよいよ破綻寸前の状況になってきた(シリーズ第22回で詳述済み)。

かつてイギリスでは日本と同様に公的年金が充実していたが、国民の高齢化により公的年金の減額等、制度そのものが縮小していった。 これを見越し、積極的に私的年金を充実させていく過程で、「老後の備えは自分で行うもの」という意識改革がイギリス全体で浸透していったという経緯がある。

日本においては、さらに酷い少子高齢化が進行中。公的年金はどんどん危うくなっている。

公的年金はなぜ危うくなるのか

将来的に年金の財源を支えていく子どもたちは減り続け、日本の出生率はまさに危機的だ。そして、長寿化が進むほど年金の支払い対象が増加する。つまり人生100年時代などと浮かれているが、長寿になるほど当然ながら年金財政は破綻に追い込まれていく。

さらに物価上昇が始まった。マクロ経済スライドという言葉をよく耳にするようになったが、これが曲者だ。物価上昇を年金財政に反映させる趣旨というのは表向きで、実際は物価上昇率に対して年金額の増加額を抑える仕組みなのだ。

つまりインフレが継続して発生し続けると年金額の増加を抑えることができるため、生活者の気づかないうちに所得代替率を引き下げる効果がある。政府の主導する緩やかなインフレが実現すると、いつのまにか年金の価値を減らすことができる。マクロ経済スライドは、生活者にとってみれば、将来の年金が減らされるに等しい結果を生む。

「iDeCo(個人型確定拠出年金)」「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」推奨の本当の理由

「老後資金2000万円不足」のような国民にとって不都合な情報は、早く出すほどよい。いや、ぜひそうするべきだ。なぜなら、長い準備期間が必要だからだ。60歳の人に65歳までに2000万円の準備を求めた場合、年間400万円の積立を行う必要がある。これは日本の平均所得を何も使わず丸々貯めるという事であり、そんなことをしたら食事もできず死んでしまうので不可能だ。

一方で、25歳の人が65歳までの2000万円を準備する場合、40年の間に、毎年50万円、月額4万円相当の積立をすればいいという計算にはなる。毎月4万円の積立自体簡単ではないが、30代、40代と年齢が上がるほどより大変になる。

「老後資金が2000万円足りない」とした金融庁の報告書に、国民が感謝する日は必ず来るだろう。「将来年金はもらえないかもしれない」という疑心暗鬼が多少リアルになったことで、国民ひとりひとりが自らの将来設計を考える機会にはなった。

この報告書には、老後資金準備のためにiDeCoとつみたてNISAの2つのツールが説明されている。金融庁には、iDeCoの加入者が年金加入者の1%でしかない実態を改善し、つみたてNISAの稼働を上げ、そして長期・積立・分散投資を浸透させることで、株式市場への資金流入を安定化させ、資産運用マーケットを整備する思惑があるのだ。

公的年金の運用は厚労省の管轄で、金融庁には公的年金の危機に責任を負わない。しかし管轄を超えて政府がiDeCoとつみたてNISAなどを推奨しているのは、日本国民が「年金には頼れないよ」「老後の備えは自分で行うものだよ」と迫られていることと同義だ。

自助努力が当たり前になる時代が来るその前に。

国中が老後貧乏だらけになる時代がやってくる。

(つづく)

この記事は、連載第24回です。前後の記事も併せてお読みいただければ嬉しいです。