京都ラーメン第一回「濃口醬油味系」のトップ3は「新福菜館」「第一旭」「大豊ラーメン」

学生時代に4年、単身赴任でおよそ10年、その後の通いも長かったので、京都で食べたラーメンの総数は1500はくだらないと思います。

いわゆる「京都ラーメン」は、私の研究によりますと、次の5つの系統に分かれます。京都=あっさりというイメージがあるかもしれないが、5系統いずれのラーメンも少なくとも「あっさり」ではなく、イメージとは真逆なのが面白いところです。

せっかく記事を書くので、5つの各系統内で、私が10杯以上いただいた店だけを対象に独断と偏見で選んだトップ3店舗を選びました。以下の通りです。

1、濃口醬油味系・・・1位 新福菜館(昭和13年)、2位 第一旭(昭和31年)、3位 大豊ラーメン(平成組)
2、背脂こってり醤油系・・・1位 ますたに(昭和24年)、2位 ほそかわ(昭和60年)、3位 ラーメン中村屋

3、とんこつ・塩味系・・・1位 元祖らーめん大栄、2位 大栄ラーメン本店、3位 池田屋 一乗寺店
4、鶏こってり白湯系・・・1位 天下一品(昭和46年)、2位 麺屋 極鶏、3位 天々有(昭和46年)

5、味噌味、つけ麺、その他・・・1位 恵那く(えなく)、2位 吟醸らーめん 久保田、3位 新新亭 

ラーメンの世界は奥深いです。北は札幌、喜多方、南は博多までラーメン激戦区は多数あり、この記事でのランキングもあくまで京都限定。でも、京都でおそらく1500杯は食べ比べてきた私の舌、まずい店は一つも紹介していない自信はあります。

京都で美味しいラーメンを食べたい方には、多少の参考になると思います。

1 濃口醬油味系

第一の系統は、濃口醤油味。なんと言っても、「京都ラーメン」そのものの発祥であると言われる「新福菜館」がその代表格だ。

新福菜館 本店

私が調べた限り、老舗ラーメン店の中でも歴史はもっとも古く、今からなんと87年前、1938年に京都駅付近で中国浙江省出身の徐永俤氏が始めた屋台から、後に下京区塩小路高倉に出店し、現在に至っている。新福菜館 本店は、JR京都駅の北口(中央改札)を出て東に数分歩くとある。すぐ隣の第一旭と同じく、京都ラーメンの歴史を語るうえで、新福菜館 本店は絶対に外せない存在だ。

濃色の醤油スープの味わいというより、まずはその色に、初めての方には度肝を抜かれるだろう。

醤油の色濃い、ほぼ真っ黒なスープが新福菜館 本店の特徴で、実際に食べてみるとその見た目に反して非常に食べやすいことに驚く。

ラーメンと同様に「黒い焼き飯」も新福菜館 本店の名物。チャーシューの端が残るのがもったいないと考え、二代目店主が大の玉子好きだったことから生まれた。ラーメン同様に黒味のかかったヤキメシの秘密は、ラーメンに使用する醤油ダレで味付けているから。当然ラーメンとの相性抜群。セットで食べるべきだろう。

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新福菜館の創業者は、浙江省から日本に渡ってきた徐永俤氏である。徐永俤氏は大正13年5月に入国し、眼鏡や反物の行商を経て、昭和13年頃、京都駅前で妻の文子さんと共に屋台を始めた。開業当時は中華そばになじみのない時代だったため、1日5杯売るのがやっとだったそうだが、そこから徐々にお客さんが増え、昭和17年に現在の本店の場所に店を構えた。

戦争を経て、戦後になると、もの凄い勢いで繁盛する。早朝から夜間までの営業で、多い日には1日2,000人近いお客さんが来店。従業員も常時12~13名が働いていたという。屋台時代から中華そば一本で勝負しており、昭和20年代のメニューは並、小、肉なしの3種類だった。
もう1つの名物の「ヤキメシ」は、創業者から引き継いだ山内勝氏が、昭和40年代後半に考案した。山内氏は昭和38年頃から新福菜館の味に惚れ、通い詰めているうちに、創業者の娘であり現・新福菜館の代表である初子さんと結婚。修業を経て昭和46年に跡を継いだ。
このタイミングで、実は「新福菜館」のラーメンのスープは変わっている。創業時から勝氏が継いだ昭和46年頃までは、スープに煮干しが使われていて、今ほど黒くもなかった。勝氏は、先代の味をブラッシュアップすべく、煮干しをやめて鶏ガラと豚の旨みを増やし、色も真っ黒に。その味は大いにウケて、やみつきになったお客さんがどんどん増え、再び大繁盛店となったのだった。

現在のスープは、鶏ガラを主体に豚の旨みを調合。真っ黒な色の理由は、創業から使用している京都の老舗醤油製造所「五光醤油」の熟成濃口醤油だ。

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麺は、近藤製麺製の、中太ストレート麺。創業者の徐氏が当時うどんを製造していた近藤製麺に指導をしてできたものだ。新福菜館の麺は近藤製麺の一子相伝の技術で今も特注の麺となっている。

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具は何と言っても表面を覆うチャーシューとネギ。創業時からこのスタイルを貫いているという。1日に80kg近く使用するというチャーシューは「白身」と「赤身」がバランスよく提供される。

第一旭

京都駅近くの「本家 第一旭 たかばし本店」は、立地的にも新福菜館 本店と並んでいるが、京都屈指の老舗にして超人気ラーメン店の双璧だ。その場所柄、第一旭は京都の地元民だけじゃなくて観光客も多く、長蛇の行列ができているのも珍しくない。

醤油と豚を使ったスープに、たっぷりの九条ネギや柔らかいチャーシュー。特にスープと青ネギの相性が抜群に良く、それがたっぷり入っているのが第一旭の魅力だ。

新福菜館では焼き飯とのセットがオススメだが、第一旭は餃子がいい。早朝から深夜まで通しで営業しており、行列を避けたければ、ピークタイムをずらしての訪問がベターである。

スープには、2回出産を経験した体重120kg程度の雌豚(「中大貫」と呼ばれる)を使用。他店では豚肉は若い豚を使用するようだが、それでは脂肪が多めで、スープに濁りが生じる。澄んだ醤油味のスープに良く合い、かといって「大貫豚」ほど大味にならない、そのために選んだのが「中大貫」だという。国産豚だが、近年では市場にほとんど出回らないというので、真似もされにくいようだ。

京都の老舗店が丹精込めて造った風味豊かな醤油

水質が良く、灘と並ぶ酒どころとして知られてきた京都・伏見には、醤油醸造の老舗もある。無添加・高品質の生醤油は、容器の中でも素材が生きているため、保存中に黒味が増してくるほど。第一旭の濃口醤油は、これを使っている。

食感、風味、スープとの相性…すべてを計算したこだわりの麺

麺は、厳選された小麦粉を複数ブレンド。練り合わせ、熟成乾燥して作り上げる。小麦粉以外は少量の塩、かん水のみを使用した麺なので、スープの味がストレートに生かされる。

香り高く、ほどよい甘みもある京の伝統野菜九条ネギ

江戸時代から、京都・九条産のネギは品質の良さで知られ、「九条ネギ」の名の元になっている。香り高く、葉の内側部分の”ぬめり”には、柔らかな甘みがいっぱい。ただし、九条ネギ本来の旬は冬場。特に11月から2月ごろだ。霜の降りる時期に、ぬめりの十分に出たものをいただくのが最高である。

食感にアクセントをもたらしてくれる京都産の緑豆もやし

もう一つ、第一旭のラーメン具材として欠かせないのが「もやし」だ。大豆もやしに比べて糖度が高く、オリゴ糖を豊富に含むと言われる緑豆もやしだが、第一旭では京都産にこだわっている。他種に比べて一層シャキシャキとした、みずみずしい食感が楽しめる。

大豊ラーメン

木屋町の細い路地を入ったところ、なんと朝6時まで営業しているラーメン屋がある。

「大豊ラーメン 木屋町店」は、こだわりの醤油スープと黒豚チャーシュー専門店として有名だ。人気の「特製チャーシューメン(950円)」は、同店自慢のチャーシューを存分に味わうことが出来る一杯だ。

大豊ラーメン木屋町店の特製チャーシューメン

こじんまりとした店内は、昭和レトロな雰囲気。深夜でも朝方まで客足が絶えないが、私も「木屋町界隈」で飲み倒した後、最後の仕上げに必ず酔った、もとい寄った店である。

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店頭の立て看板には「黒豚チャーシュー専門店」とある。その上の「正油スープ」の文字は消されていて、売り文句を絞った形跡が残っている。まあ、「正油スープ」では客は呼べないだろうと納得。

店内には厨房を囲うようにしてL字型にカウンター席が全部で12脚。店構えと同様に店内も相当年季が入っていて、店に入った瞬間、もう何十年もこの地で営業を続けているお店にいるかのようなレトロ感覚に陥るが、大豊ラーメンは創業から30年程度。老舗と呼ばれるまで100年かかると言われている京都ではまだ中堅どころだろう。

大豊ラーメン木屋町店のメニュー1

大豊ラーメン 木屋町店のメニューは写真の通りだが、ラーメンの味は1種類で、選択は麺の量とチャーシューの量を決めるだけだ。

褐色のスープは、ゲンコツに鶏ガラを軸とした醤油味で、香味野菜を合わせたビジュアルと反するあっさりスープだ。あっさりとしてながらも動物系由来のコクがしっかりあり、濃い目な醤油の見た目とは違って尖りも無く円やか。最後の一滴まで飲みやすい豚骨醤油スープだ。

麺は、スクエアタイプで低加水の細ストレート細麺。ハリのある歯応えでスープとの相性もいい。

特製チャーシュー麺は、黒々と濁った醤油スープの周りに薄切りだが実に大きなチャーシューが合計6枚、はみ出している。中央の刻みネギの中にもダイス状のチャーシューが入っているので、チャーシュー好きにとってはたまらない。

大豊ラーメン木屋町店の特製チャーシューメンスープ

大豊ラーメンのスープは黒いだけでなく完全に濁っていて、見るだけでもかなり濃厚な味を想像させる。見た目は近くても、先に紹介した新福菜館本店のスープ、第一旭のスープとも全然味が違う。

シラフの状態でいただくと、おそらく醤油のエッジが強い分、出汁感が薄れてしまっている感じは否めないだろう。そう、このスープは、深酒の酩酊客の〆にはドンピシャにハマる味付けなのだ。

大豊ラーメン木屋町店の特製チャーシューメン麺

麺は、昔ながらの低加水なストレート細麺。程よくスープを吸い上げて、やや硬めの茹で加減がちょうどよく、プツプツとした歯応えの後、どんどん胃の腑へ落とし込める。これもまた、酔客仕様だ。

大豊ラーメン木屋町店の特製チャーシューメン黒豚チャーシュー

丼の縁を飾っている黒豚チャーシューは薄切りで、ロース肉を使ったあっさり系。もう少しボリュームが欲しいという客もいるようだが、これ以上分厚く、大きいと、食べた帰り道に、道路上でお好み焼きを焼いてしまうだろう。

このように、お酒が入っていない客にはあまりウケそうにないが、酩酊状態なら抜群に美味いのが、大豊ラーメンの特製チャーシューメンだ。(下は普通のラーメン)

(つづく)

今回の記事は、連載第1回。
次回は、京都ラーメン第2回「背脂こってり醤油系」ラーメン。現在いわゆる京都ラーメンの本流とされるラーメンに迫ります(笑)