
日光市は栃木県の西北端、県庁所在地の宇都宮市から西に約30km、日光国立公園の中心として、国内外から多くの観光客を集めている。
市域にはもちろん1999年12月に世界遺産に登録された東照宮をはじめとする「日光の社寺」があるが、もう何度も行っているし、混雑しているのはわかっているので、今回はパス。
標高約1269mにある中禅寺湖、そこに影を落とす2484mの男体山、日本三名瀑の一つ華厳の滝をはじめとする日光47滝、冬には氷点下20度を超え、春から夏にかけてはさまざまな高山植物が可憐な花を咲かせる戦場ヶ原や霧降高原、中禅寺湖・湯ノ湖をはじめとすする大小さまざまな湖沼、まさに国立公園に相応しい豪快で華麗な自然美を堪能した後、湖畔の温泉でゆっくりするというルートに決めた。
中禅寺湖
まず向かったのは、中禅寺湖。
今から15,000年ほども前、男体山の噴火で流れ出した溶岩が川をせき止めて、奥日光の玄関口に位置する中禅寺湖ができた。
水面の標高が1269メートルもある、日本一高い場所にある湖だ。






全周は25キロにもおよぶが、湖水が流出するのは大谷川(だいやがわ)ただ一つ。その最上流部にあるのが華厳の滝だ。

「毛gone!の滝」
那智の滝(和歌山県)と袋田の滝(茨城県)と並び日本三名瀑の1つに数えられている幅約7メートル、落差97メートルの華厳の滝である。
那智の滝も高さが華厳の滝を上回っていて迫力もあるが、水量は華厳の滝のほうがはるかに多い。豪快さでは華厳の滝が遥かに上回る。
『華厳の滝』は1,200年前に日光開山を行った勝道上人(しょうどうしょうにん)によって発見されたと伝えられている。

しかし名前の由来には諸説ある。
日本語で「華厳」とは花と石という意味があり、この名は水が流れ落ちている崖の近くに咲くツツジの花からきたものであるとか。
近くにあった華厳寺という寺の名前から取ったとか。
仏教経典の1つである華厳経から名付けられたという説等々。
どれもピンとこないので、私が有力な新説を唱えよう。
97メートルもの大滝の下で滝に打たれようとしたら、あっという間に「毛」を持っていかれた。「毛」「gone!」、毛ゴーン、そこから「華厳」なったのであった。

兎にも角にも、1年を通じ、滝の力強い轟きが岸壁から溢れ、あたりを満たしている。
竜頭滝
中禅寺湖の北側を走る120号線の道なりに少しだけ北に走ったところに、「竜頭滝(りゅうずのたき)」がある。


男体山の噴火によってできた溶岩の上を約210メートルにわたって流れ落ち、幅約10mほどの階段状の岩場を勢いよく流れる渓流瀑だ。
滝つぼ近くが大きな岩によって二分され、その様子が竜の頭に似ていることからこの名がついたといわれている。





赤紫色のトウゴクミツバツツジが美しかった。
戦場ヶ原
竜頭滝からさらに120号線を北に走ると、すぐに「戦場ヶ原」に着く。
ここは、標高約1400mに広がる湿原で、冬の寒さがもっとも有名。北海道や東北各地などよりずっと南にあるが、零下20度を記録することもある。
「戦場ヶ原」という名前から私などは「関ヶ原」「桶狭間」「壇之浦」とか、古戦場の一つかとずっと思ってきたのだが、そうではない。
この地は、中禅寺湖をめぐって男体山の神と赤城山の神が争った「戦場」だったという神話が名前の由来となっている。
かつて湖であったものが湿原化。400haの広大な高原湿原となった。


湿原には350種類にも及ぶ植物が自生しており、野鳥の種類が多いことでも有名で、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地」と認められてラムサール条約に登録されている。


ちょうどクロミノウグイスカグラ、ワタスゲ、イブキトラノオ、ノハナショウブ、ホザキシモツケなどの花が咲き始めていた。

湯滝の大迫力
戦場ヶ原の奥にあり、湯川の水源となる湯ノ湖の北岸に開けた静かな温泉街が湯元温泉。その手前に湯滝が見える。

まず、湯滝の上から水が落ちていく様子を。
白いしぶきを上げて水が流れ落ちていく。
湯滝という名前だが、流れているのはもちろん湯ではなく水だ。水量の多さは半端でない。

滝の下に行けば、高さ70メートル、幅は最大で25メートルの滝が、溶岩の上を音を立てて流れ落ちてくる。滝壷にも下りられる。
凄い勢いで流れ落ちた水は、先ほど行った戦場ヶ原を流れる湯川となって、中禅寺湖へと流入する。
湯の湖
この大迫力の滝が落ちる場所は、もう湯の湖だ。

湖は一転、とても静かで、湖面もほぼ波打っていない。
ゴッドファーザーで、マイケルコルリオーネが実の兄を(部下に命じて)殺した、あの恐ろしいシーンを思い出す。
ほとりの湯元温泉は、日光の奥座敷といわれ、約1200年前に日光開山の祖・勝道上人が発見したとされる白濁の硫黄泉が湧く名湯。標高1478m、小さな湯ノ湖の湖畔、白樺や唐松で囲まれた一帯に20数軒の旅館やホテルが点在している。
高原の個性的な温泉地で、いわゆる温泉風情はいまひとつ。外湯めぐりの浴衣姿などはあまり似合わない。
しかし温泉街には無料で利用できる足湯「あんよの湯」もあるし、日帰り温泉を楽しめる日帰り湯も、500円から1,000円の利用料の中からよりどりみどりである。

源泉を見に行く
温泉の発見は延暦7年(788)と言われ、近くには開湯の祖・勝道上人を祀った温泉寺がある。ここは温泉を備えた全国でも珍しい寺で、寺の行事がないときはありがたくも入浴できる。
そこから歩いて数分の所に、湯本温泉の湯量の豊富さを実感できる源泉があるので見に行った。
硫黄の強烈な匂いを漂わせ、湯煙をあげる源泉小屋が幾つもある。
周囲は流れ出た温泉で湿地状態だ。
湯量が非常に多いため、中善寺温泉など遠く離れた中禅寺湖畔の旅館にまで温泉を供給しているという。
人気日本一の草津温泉の源泉風景がやはり凄いが、この源泉もなかなかのものだ。
源泉がどこにあるか分からないような大温泉地と違って、正真正銘の温泉がまさに湧き出ているそのさまを目の前で見ることができる。





私は、この源泉そばの「ゆの香」をチョイス。
湯元温泉は、硫黄泉のとてもよい温泉だが、中でも源泉の一番近くの「源泉ゆの香」の泉質は最高だろうと思っての選択。

浴室へ入ると、エメラルドグリーンのお湯が待っていた。
内湯の表面にはうっすらと膜が。前の人が上がってからしばらく時間が経つのだろう。まずは内風呂独占、ラッキーだ。

しっかりかけ湯をして、湯に浸かる。
硫化水素臭が香りたつ。熱くて、いい湯だな、ははん。
底の方に表面に張っていた膜の破片が沈んでいて、かき回すと、湯の花が舞った。

露天風呂もある。
湯ノ平湿原をぼんやりと眺め、内湯と露天風呂を行ったり来たりしていると、やはりいつものように長湯となった。