
白川郷ほど有名ではなくても、私は雪深い地方の、農家の家に興味がある。
私の母の故郷の茅葺き屋根、その下で冬を越した幼児体験がその源泉にあると思われるが、島根県西南部の山口県境に程近い六日市町郊外の吉賀町にある「旧道面家住宅」にも非常に関心があって、訪ねてみた。

重要文化財の民家は、外観のみ公開されている場合が多く、いきなり現地に行っても内覧はできないことが普通だが、私が訪れた日は、偶然にもご近所の老人会の方が手入れをされていたのでチラリとだが中を拝見することができた。

老人会の人は、月に一度程度、茅葺き屋根のためにかまどに火を入れ屋根をいぶしたり、周囲の除草をしているらしい。そうそう、私の母の実家も、屋根をいぶしていた記憶がある。
ちなみに、この道面家は、事前に教育委員会に連絡してお願いして手続きを踏めば、内覧することも可能だ。
「閉じこもって冬を越す」ための家
この道面家の家は、農家建築である。
たった47平方メートル、14坪ほどの小さな農家が建てられたのは、江戸時代、19世紀初頭頃らしい。周囲の田畑や山の景色は300年前とほぼ同じという場所に、もう200年以上立っているわけだ。家の中でカイコを飼い、従事する者たちが集団生活するために巨大化した白川郷の家とは対局とも言える小ささで、おそらく国指定文化財の中でも、もっとも小規模な農家建築だと思われるが、まさにシンプルイズベスト、均整の取れた建物ゆえ、長持しているのだろう。
資料を紐解けば、屋根の棟飾りとなる千木は僅か3組のみの最小数で、桁行4間、梁間3間の規模は国指定重文民家の中では最も小規模な建前とある。内部においても右手に土間、左手は板敷の部屋が2室のみの、これ以上ない簡素な間取りだ。
庇を設けず屋根を軒まで一気に葺き下ろし、開口部は最小限に抑えて四周には大壁。窓もない閉鎖的な造りは古式を感じさせるが、厳しい冬場を凌ぐための寒冷対策の意味合いからは理にかなっている。
この地方の、冬は厳しい。冬季に中国自動車道を九州側から大阪方面に向かっていると、「六日市ICより先は冬用タイヤ、チェーン装着規制」の案内標示が頻繁に発出される。実際、県境を跨ぐと途端に景色が変わることは、中国自動車道をよく利用するドライバーはみんな知っている。
降雪地帯とそうでない場所では、家のつくりは当然違ってくる。同じ島根県でも、色々な民家がある。

「座頭屋敷」であった可能性
当住宅が、目の不自由な人が住まいする「座頭屋敷」であったとする説がある。
私は昭和世代で学生時代に4畳半一間に下宿していた経験があるのでわかるが、怠惰な日常生活を送るには、居ながらにして全ての物に手が届く四畳半程度の部屋が一番いい。目が不自由であれば尚更で、生活空間は大き過ぎない方が良いとする考え方が、このコンパクトな家が「座頭屋敷」であったとする一つ目の理由らしい。もちろんこの家が表側以外の三面は土壁で完全に閉ざされてのは、厳しい冬場を凌ぐための寒冷対策であると説明はつくものの、ここまで採光にこだわっていないのも珍しいというのが理由の二つ目だそうだ。他地域で同様の寒冷地に建つ民家であっても完全に三方を土壁で閉じてしまう例は殆ど無く、小さくとも採光用の小窓が設えられているというのだ。
確かに、ものすごく暗い。中を覗き込みながら、この家の住人が何人だったか、冬の氷点下の外気を隔絶し、肩を寄せ合うように暮らしていただろう、当時の生活を想像してみたが、あまりの暑さでイメージが膨らまなかった。
道の駅「むいかいち温泉」

道の駅「むいかいち温泉」は、この「道面家の家」から5キロほど東。
中国自動車道の六日市ICからは国道187号線→県道16号線を北に1km、 物産館、農作物直売所、レストラン、温泉施設、宿泊施設が揃った道の駅だ。
駐車場は第三駐車場まであって、道の駅利用目的に合わせて、施設のそばに停めることができる。




トイレは各駐車場からの距離がしっかり考慮された場所にある。



休憩環境としては、私的にはとてもいいと思う。



物産館と農作物直売所は一般的な道の駅と比べるとやや小規模かもしれないが、 温泉施設はとても立派なものだ。
島根県南西部には、「津和野温泉」「願成就温泉」そしてこの「むいかいち温泉」と、3つの「温泉付きの道の駅」がある。
大変大雑把で恐縮だが、安さで選ぶなら「願成就温泉」、知名度で選ぶなら「津和野温泉」、広さで選ぶなら本「むいかいち温泉」というところだろう。どの温泉も、レベルがとても高いので、どこを選んでも満足できると私は思う。知らんけど。
大きな内湯、開放感のある露天風呂




道の駅の目玉である温泉施設の浴槽の種類は内湯、露天風呂、源泉風呂、サウナの4つ。




泉質は単純弱放射能泉だが、体に負担が少ない低張性温泉なので、ゆったりと長湯ができそうだ。


「源泉掛け流し」は「源泉風呂」だけということだが、 内湯、露天風呂も加温はしているものの加水はしておらず、成分的には源泉風呂と同様。

大きな内湯と開放感のある露天風呂はとても気持ちよく、日中、子どもと戯れるお父さん、パラソルの下で大いびきをかいている人、それぞれが楽しんでいた。

料金は600円。とても良心的である。
温泉施設内にはレストラン「ヴァンベールの森」と宿泊施設もある。 レストラン「ヴァンベールの森」は温泉施設内にあるが温泉利用客以外も利用可能。 「鶏唐揚げ定食(950円)」「チキン南蛮定食(900円)」等の定食類や「季節の会席料理」も味わうことも出来る。 私が訪れた時期は「春の会席料理(5500円)」を提供。 小鉢/造り/前菜/煮物/台物/揚物/蒸物/飯物/汁物/香物/果物の全部で12品。 鴨のロース煮、鯛の木の芽焼き、黒毛和牛焼肉、穴子の釜飯などを味わうことが出来る。 5,500円という料金は「ちょっと贅沢」という感じがするが、実は宿泊セットプランならば1人11,640円とお手頃価格。 全11品の「お手頃会席」ならば、料理のみで4,130円、宿泊セットプランで9,990円で味わうことが出来る。
物産館は特産品が選びやすい
続いて農作物直売所を兼ねた物産館「やくろ」だが、こちらは建物の広さも広すぎず、 販売されている商品は特産品がおよそ50種類、農作物は10数種類ぐらいで、少ないと思う人もいらっしゃるだろうが、私的には選びやすい規模である。




ただ、野菜に関しては、午前中で人気の野菜は売れてしまうようだ。売れてもどんどん商品を追加するパワフルな農産物直売所もあるが、ここはそうではないようだ。
