
もう37年前のこと。
バブル真っ只中で、夜中まで頑張っても次から次に降ってくる仕事を、死ぬ思いで一緒に頑張った仲間たちと一緒に、伊良湖岬に疲れた心身を癒しにきた。
太平洋から伊勢湾・三河湾までを一望できる、渥美半島先端の伊良湖岬に、津波が来たらまともにそれを受けてひとたまりもないだろう形のホテルに泊まり、テニスやホテル隣接のゴルフ場で、本当に楽しい時間を過ごした。





夜の宴会後に砂浜で遊んでいたら、メンバーの畑中がロレックスを紛失。みんなで砂をかき分けて探したことや、ゴルフはフラットで広いフェアウェイ、アップダウンも距離もない簡単なシーサイドゴルフコースで、初めて80を切って大喜びしたことなど、昨日のことのように思い出す。
岬の最先端に建つ白亜の灯台は伊良湖岬のシンボルで「日本の灯台50選」にも選ばれているが、三島由紀夫作「潮騒」の舞台になった神島を見渡すことができる。

灯台からは遊歩道もあり、目の前に広がる青い海と白い灯台とのコントラストが美しく、その夕日のあまりの美しさを忘れることができない。

思い出の伊良湖を目に焼き付けておきたくて
2025年3月31日、南海トラフ地震の新しい被害想定が公表された。
政府の作業部会が31日に公表した海トラフ地震の新たな被害想定で、東三河地域は全8市町村のうち5市が最高レベルに当たる最大震度7の揺れに襲われる可能性があらためて示された。
特に伊良湖岬のある田原や豊橋など太平洋岸に津波が到達する最短時間は13年前の想定よりさらに短くなり、伊良湖岬を襲う津波高は最大で22メートルに上る。
人には全力で非難し、逃げて命を守ることを願うばかりだが、建物は動けない。私の思い出のホテルやゴルフ場などは、もちろんひとたまりもない。おそらく、なくなってしまうはずだ。
そう思うと、たまらない。
あの思い出の場所を、目に焼き付けておきたくなり、伊良湖へと車を走らせた。




道中気になった防災対策
太平洋沿いの国道42号を走ると、漁港を囲むように、コンクリート壁の工事が行われていた。田原市の赤羽根漁港で建設中の津波対策用防潮堤だ。

渥美半島の太平洋側は丘陵地が多く、津波が直接流入する場所はそれほど多くないとされる。だが、大津波が来れば、海抜が低い海岸沿いの平地、周辺の集落や農地はたちまち津波に飲み込まれてしまうだろう。

市の防災マップを見ながら建設途中の防潮堤を回り西に進むと、約150世帯が住む池尻集落が現れた。
この集落の人々は、昼間は農作業に忙しい。
31日に発表された新たな被害想定によると、伊良湖を含む田原市への津波到達時間はこれまでより1分縮んで11分となった。高台まで徒歩で移動する必要があるが、この1分の差は、おそらくとんでもなく大きいものと思われる。
防波堤の建設事業を進める県三河港務所によると大規模地震発生時、漁港をおそう津波の高さは8・1メートルを想定。防潮堤の高さは8・6メートル(地面からは6・4メートル)。これまで無防備だった近隣集落など30ヘクタールを、津波から守る計画になっている。
10メートルを超えてしまえばそれまでだ。
壁の全長は610メートル。2024年12月時点で30%が整備され、28年に完成する予定だ。
集落は空き家も点在する。災害のことも考えてこの辺りで家を建てる若い人はあまりいない。津波への懸念が、ただでさえ進む高齢化に拍車をかけている。
津波への対応に頭を悩ませる住民がいる一方で、「起きてみないと分からない」と半分あきらめを口にする人も少なくなく、防災への意識の差は大きい。

渥美半島先端部には、南海トラフ地震が起きたとき、津波などで道路が寸断され、「陸の孤島」になる懸念もある。
学ぶべきは、道路寸断が救援の行く手を阻んだ能登半島地震の教訓だ。
内陸部を走る「珠洲道路」が数日後に再開され、半島先端部の石川県珠洲市に通ずるようになった一方、海岸沿いの道は相次ぐ土砂崩れなどで住民の孤立が長期化した。
伊良湖地区にとって、これは対岸の火事ではない。
菜の花ガーデン
車を伊良湖方面にさらに走らせると、今度は「伊良湖菜の花ガーデン」が現れる。

約4ヘクタールの同ガーデンに植えられている菜の花は、約120万本。伊良湖岬は至る所に菜の花が咲いているが、「伊良湖菜の花ガーデン」は広さが違う。



山側の斜面には桜、そして一面に広がる黄色い花畑の中で、春の訪れを存分に感じることができた。
伊良湖岬灯台から道の駅「伊良湖クリスタルポルト」まで約1キロ続く白い砂浜は、 誰が名付けたのかは知らないが「恋路ヶ浜」と呼ばれ、「日本の渚百選」に、また「恋人の聖地」にも選定されている。 関係ないし、知らんけど。


太平洋の荒波がまともに打ち付ける渚は迫力十分。 湾に沈む夕日も美しい。
道の駅は、伊勢湾フェリーの発着場
「伊良湖クリスタルポルト」は愛知県の渥美半島の先端、伊良湖岬にある道の駅だ。

東名高速道路の豊川ICからは南西に遥か53キロ。
一見すると僻地にある道の駅と思われがちだが、伊良湖岬と三重県の鳥羽市の間には伊勢湾フェリーが就航しており、 航路を含めれば愛知県と南近畿を最短距離で結ぶ経路上にある。

駐車場は、とんでもなく広い。


トイレは、施設としては新しいのだが、使う人が多いのかマナーがイマイチなのか、綺麗な状態ではなかった。


道の駅は物産館、軽食コーナー、フードコーナー、喫茶店から成る。
道の駅のすぐ横には伊勢湾フェリーの発着場があって、この道の駅がフェリーの待合所を兼ねている。





特に週末の昼間は、フェリーの利用客を含め多くの人が集まり、 客が多いと施設は充実する、という好循環で、特に物産館は県内の道の駅では屈指の規模になっている。
お土産も食事も、選ぶのに一苦労する充実ぶり
注目は3つの湾の海鮮煎餅。 三河湾の「たこ煎餅」、駿河湾の「桜エビ煎餅」、伊勢湾の「エビ煎餅」が競うように販売されている。
海産物の加工品では「チーズちくわ」「しらす蒲鉾」「イカの塩辛」が目立っていた。
もちろん、伊良湖の特産品である「伊良湖のり」、伊良湖のりを用いた「伊良湖のり煎餅」も人気を集めている。
渥美半島はメロンの産地としても有名で、メロンはもちろん「メロンの雫」や「メロン大福」、ラムネと合体した「メロンラムネ」「メロンの漬物」などメロンの加工品も多数販売されている。
春の伊良湖岬を黄色く染める菜の花を用いた「菜の花漬け」や 普通サイズのアサリを使った「アサリ昆布煮」「アサリしぐれ煮」、東三河限定の地酒、 愛知特産の「いちじくワイン」など、魅力ある商品が多すぎて困るほどだ。



軽食コーナーでも味わうことが出来る「焼き大アサリ」、三河湾の幸を使った「しらす丼」、あさり、しらす、伊良湖のりを使った「みさき丼」だけでなく、対岸の特産品である「伊勢うどんセット」、 渥美産ポークのチャーシューを用いた「ラーメンセット」など、食事も充実している。
伊良湖岬とやしの実の関係
伊良湖岬は島崎藤村の叙述詩「名も知らぬ、遠き島より流れ寄るやしの実ひとつ…」でも知られる。
この詩にある「遠き島」を沖縄県の石垣島に見立て、 毎年、石垣島から金属プレートを付けて黒潮の海に流すイベントが開催されているのだが、そのやしの実が14回目にしてH13年8月3日に奇跡的に伊良湖岬に流れ着いた。
道の駅の1階に入場無料の「やしの実博物館」やフードコーナー「椰子の実」があったりするのは、伊良湖岬は島崎藤村を通してやしの実と縁が深い場所だから。博物館では世界中のやしを見物できるらしい。世界のやしがどれほど違うのか、正直言えば私はあまり興味はない(笑)。