
古くから新庄の奥座敷としてにぎわってきた「瀬見温泉」は、小国川の左岸に開けた静かなたたずまいの温泉街である。
兄・源頼朝の追っ手を逃れて奥州平泉を目指していた義経一行が発見したと言われており、義経の子「亀若丸」の誕生に加護があったという子安観音など義経主従にまつわる数々の伝説や旧跡が残されている。

そんな義経ゆかりの名湯「瀬美温泉」で、クマによる従業員襲撃事件が起こるとは。
被害者となった笹崎さんはかつてプロレス団体でレフェリーを務めた、身体能力高くて温厚な人物、テレビの報道で記憶にある方も多いだろう。
1ヶ月前、瀬見温泉に行こうとしたら事件が起こって予定変更。
喪に服し営業再開したことを確認して、晩秋の瀬見温泉を再訪した。
現場の露天風呂には行かなかったが、現場から少し離れた川沿いから、犠牲になった笹崎勝巳さんに手を合わせた。

山形、最上川沿いの旅路で
1ヶ月前、10月16日の朝。
私の旅は山形県に入り、最上川沿いを走っていたが、10キロほど離れた瀬見温泉では従業員・笹崎さんが夏油川沿いの露天風呂の清掃に向かっていた。
笹崎さんが予定の時間になっても戻らなかったため、様子を見に行った同僚が、川辺の柵付近に血痕を見つける。笹崎さんの姿はなく、清掃道具と血の跡が残っていた。
午前11時過ぎ、警察に通報が入った。
捜査員が現場に到着すると、露天風呂の周囲には黒っぽい肉片が三つ落ちており、川の方へ引きずられたような跡が続いていた。
夏油川の対岸の茂みには足跡が残っており、警察は「クマが襲い、遺体を運んだ可能性が高い」と判断して捜索を開始したが日没。夜間は危険として、捜索を翌朝に持ち越した。
翌17日午前8時。
北上市猟友会の19人のメンバーが集結。警察と川を挟んで二手に分かれ、本格的な捜索が始まった。
紅葉が色づき始めた谷に、ヘリコプターの轟音が響く。空を見上げたハンターが、異様な光景に気づいた。川沿いの林の、一点の上空を、2羽のトンビが旋回していたのだ。
「ヘリが低空で飛んでいるのに、トンビが逃げない。下に何かある!」
トンビが旋回する地点を目指して、7人のハンターと警察官は河畔を進んだ。
基本草食性のツキノワグマが
午前9時10分、乾いた銃声が山中に響いた。
草むらで何かが動いたと思ったら、突然クマが立ち上がり、土手を駆け上がってきたのだ。
『殺(や)られると思った』ハンターが、反射的に発砲した。
最初の一発がクマの左こめかみに命中。クマはのたうち回り、土手を転げ落ちて笹崎さんの遺体と重なるようにして息絶えた。なんと、ツキノワグマだった。
「ツキノワグマは基本的に草食性で、生きた人を襲うのは極めて稀。だが、飢えと人慣れが重なると行動が過激化する」「山の実りが減り、クマが人間の生活圏を餌場と認識し始めている。人の匂いを覚えると、次第に恐怖心が薄れていく」と、専門家。
解剖の結果、クマの胃からは人の頭髪や皮膚片、肉片が見つかった。植物片は一切なく、笹崎さんを食べていたと断定された。
クマは痩せていて、肉を裂いても脂肪がほとんどなかった。この時期、通常は5〜10センチの脂肪を蓄えているが、骨が浮き出るほどやせていたという。
環境変化による飢餓の果てに
背後には、今夏の猛暑と山の実りの凶作があった。
今夏、岩手県内では記録的な猛暑と雨不足が続き、クマの主食であるブナやミズナラの実が大凶作となった。山に食べ物がないまま秋を迎えたクマたちは、餌を求めて人里へ下り、畑や民家、果ては人間の生活圏にまで出没するようになっている。
瀬美温泉の事件のわずか9日前にも、約2キロ離れた山中でキノコ採りの男性(73)の遺体が発見された。遺体の損壊は激しく、警察は「同一個体による襲撃の可能性が高い」とみている。
温泉から約9キロ下流の和賀町岩崎地区では、10月初旬には民家の倉庫へクマが6回も侵入し、玄米1トン袋を食い破っている。
飢餓に追い詰められたクマたちが、この秋ついに人との境界を完全に越えたのだ。
営業再開した瀬見温泉を忘れないで
悲惨な事件が合った瀬美温泉は、安全対策を進めたうえで、11月7日に営業を再開した。
瀬美温泉では喪に服し、笹崎さんを失った深い悲しみに沈んでいたが、休業していても発生する多額の維持費が重くのしかかってくる。
笹崎さんが襲われた露天風呂の閉鎖を決め、一方、内湯の利用に限定するなど野生動物への対策を進めた上で、11月7日から当面、宿泊客だけを受け入れることになった。
瀬美温泉は今後、野生動物への対策をさらに進めるため、施設の一部に鉄格子や防犯カメラの設置を検討。利用客の安全確保に努めていくとしている。
稀に見る良い温泉だが、風評被害も含めて瀬見温泉のダメージは大きい。


積極的にとは言わないが、必要以上に敬遠せず、笹崎さんの供養も兼ねて瀬見温泉を訪れてほしい。
かつて「人と自然が共にある」と信じられてきた東北の山々。
だが、人間の営みの結果温暖化と環境変化が進む中、その均衡は確実に崩れ始め、飢えた野生が人の世界へ。
笹崎さん、瀬見温泉はもちろん被害者だが、ツキノワグマも理由なく加害者となったわけではない。
彼らも気候変動や環境変化の被害者なのだ。
この期に及んで駆除一辺倒、人間の都合での対処のみに終始するのは、少し違うのではないだろうか。
瀬見温泉の守り神が祀られている「湯前神社(ゆのまえじんじゃ)」には、足湯と飲泉場が用意されていますので源泉を味わってみませんか。
旅館に泊まらずとも、共同浴場では 瀬見温泉名物の「ふかし湯」を始め、内湯・露天風呂・足湯の四つの温泉が楽しめる。
足湯は無料で利用することができ、隣にある源泉場では温泉卵も作ることができる。


ふかし湯は全国的にも珍しいが、湯気に身体を当てる入浴方法。内湯「なごみの湯」は源泉かけ流し。高温と適温の2つの温度を同時に楽しむことができる。露天風呂「やげんの湯」は、亀若丸の産湯を探して谷川を下った弁慶が川辺に湯煙を見つけ、なぎなたで岩を砕いたところ温泉が湧き出てきたとされている、川の中の自然の岩風呂だ。




道の駅「もがみ」
1ヶ月前、このあと瀬見温泉に行こうとこの道の駅に来ていたので、こちらも再訪になるが。
道の駅「もがみ」は、東北中央自動車道の新庄ICから国道47号線を東に15km。
インターを降りてから山形県北東部の最上町の田畑の中を数キロ走る。やがて瀬見温泉に向かって、小国川に沿った渓流沿いを走ると、途中に道の駅「もがみ」がある。
この写真は1ヶ月前、まだ紅葉も始まっていなかった頃だ。

駐車場にパトカーがいた。笹崎さんの件で付近に配備された一台だろうか。


綺麗なトイレだ。




小国川沿い、川の流れを見ながらゆっくり休憩できる。






2023年11月にオープンしたばかりの新しい道の駅だ。
2003年にできた「川の駅 ヤナ茶屋もがみ」が20年以上営業していて、そのすぐ隣に、道の駅ができたのだ。



物産館の入り口に炉端があり、ここで鮎が塩焼きされている。 レストランに提供されている鮎も、この炉端で焼かれたものだ。

この川の駅は、ピーク時の2008年には年間利用客46万2千人を記録したが 近年はやや集客力に陰りが見えており、道の駅+川の駅効果でピーク時の勢いを取り戻したいという狙いがあるらしい。
なので道の駅の商業施設としては、小さな軽食コーナーがあるのみ。物産館、レストラン等の商業施設は川の駅の施設を利用することになる。川の駅と一体化した道の駅と考えていい。





道の駅「もがみ」&「川の駅」の施設
軽食コーナー以外の物産館、農作物直売所、レストラン、コンビニなどは川の駅の施設になるが、利用者から見ればそんなことは関係ない。
まず物産館には、駅裏を流れる小国川の幸の鮎を使った商品が目に付く。駅の裏には鮎を獲る仕掛けのヤナがあり、獲れる鮎を使った「鮎の甘露煮」「鮎一夜干し」「鮎の塩焼き煎餅」「鮎みそ」などがイチオシの名物となっている。





鮎以外の商品で気になったのは、最上町佐藤菓子店の「くぢら餅」。

隣町舟形町の名物「舟形マッシュカレー」、山形県全般の特産品の「米沢牛ビーフカレー」、「ぺちょら漬け」「山形天神漬け」等の漬物類も美味しそうだ。




農作物直売コーナーでは、数十種類の農作物が販売されている。



食事は、レストランか軽食コーナーで

食事は、川の駅の中にあるレストランもしくは道の駅の中にある軽食コーナーで。
レストランでは、鮎とそばを使った料理に人気がある。


道の駅の建物のなかにある軽食コーナーでは、最上町産のアスパラガスを使った「アスパラコロッケ」、山形名物の「いも煮」が入った「いも煮コロッケ」が人気だ。

コンビニがあって、時間がない場合などにとても便利だ。