
島根県から、津和野街道を、南東方面へ。
広島県に入り国道186号線を走ると、廿日市市飯山に、30年間、街道沿いの清流渓谷温泉地として親しまれてきた羅漢温泉がある。
こんなところに来る客がよくいるものだと思いつつ山道を走るが、名湯の羅漢温泉を楽しもうと、平日であっても一定のファンが訪れる。 かく言う私もそうだ。物産館とレストランが併設されて存続してきたが、施設の所有者である廿日市市は、道の駅「スパ羅漢」として運営してきたこの羅漢の温泉施設とレストランの閉鎖を検討。いったんその結論を2025年9月に先送りしていたが、いよいよあと1ヶ月少しで結論が出る。
その前に、私はこの温泉のリピーターとしてお別れしにきた次第だ。
道の駅としての機能、つまり駐車場と24時間トイレは存続させるとのことだが、一番の魅力である温泉設備の維持管理費が閉鎖検討の主たる理由で、経営が成り立たないということなので、これはもうどうしようもない。
中国山地を横断して日本海に至る国道186号線は通行量が少ない上に、沿岸地域からこの温泉を目的に来るにしても距離があり、さらに途中に同じラドン温泉の小瀬川温泉がある。もともと無理だったということか、残念だ。
”スパ”とは、水の力によって治療するという意味のラテン語「Salute Per Acqua’」の頭文字をとったもので、日本では健康増進や美容、リラクゼーションを重視した温泉施設を指すわけだが、民間の事業者による運営継続の可能性もぜひ探っていただき、決して「スパッ」と止めては欲しくないが。
やめるなら施設の後処理、負の遺産を極力少なくする方向でお願いしたい。
標高1109m、羅漢山に抱かれて
中国自動車道の吉和ICから国道186号沿いに南西に約20キロ。ICの出口付近に少し民家はあるが、その後は森林時々川、大自然の中のドライブ。 前後を走る車もほぼ無く、対向車も殆ど来ないような交通量が少ない道をひたすら走ると、森の中にポツンと道の駅「スパ羅漢」が見えてくる。

東へ約700mの地点には絶景・羅漢峡が。
羅漢峡は、清流と奇岩が織り成す造形美と様々な樹木が四季折々を彩る観光名所だ。雄大な大滝、澄んだ緑の滝壺、血がわりの淵、秋の紅葉、春の桜はいつ来ても素晴らしい。
道の駅「スパ羅漢」や羅漢峡の名称は、ここから南西約5キロの地点にある羅漢山(らかんざん)に由来している。
羅漢山(標高1109m)は広島県と山口県の県境にまたがる山だが、山頂は山口県。なので所在地は山口県岩国市錦町大原となっている。中腹にある「らかん高原(標高800m)は、澄み切った空気と美しい自然の高原リゾート。オートキャンプ場、高原スカイパーク、放牧場などがあり、レジャースポットとして人気がある。
道の駅「スパ羅漢」は、広島県内初の「温泉を備えた道の駅」として平成8年(1996年)4月にオープンした廿日市市の施設で、施設の正式名称は「廿日市市福祉健康増進保養センター」。
指定管理者制度を導入していて、現在の指定管理者は株式会社広島リゾートだ。
森の中の温泉「スパ羅漢」
道の駅「スパ羅漢」(羅漢温泉)の敷地はほぼ3角形で、1辺が国道186号線、あとの2辺が小瀬川に囲まれている。
駐車場は、別れを惜しむリピーターで混雑気味だった。


駐車場とトイレは、閉館後も残るはず。ただ、これまでのように清掃が行き届くかどうかは疑問なので、使う側がより綺麗に使いたいものだ。




休憩環境としては抜群だ。
道の駅「スパ羅漢」の施設に入る前には、周辺を散歩してからにしたい。
施設の側を流れる川沿いの遊歩道は、夏でも風が通って、小瀬川の素晴らしい景観を楽しみながら気持ちよく歩ける。施設が閉鎖されても楽しめることの一つだ。


小瀬川温泉と同様、羅漢温泉は広島県では珍しい天然ラドン温泉である。
弱アルカリ性の泉質で、神経痛、筋肉痛、リウマチ、消化器病、冷え性、疲労回復、高血圧症などに効果があるという。展望大浴場、露天風呂、サウナも完備。
泉質よりもサウナよりも何より素晴らしいのは露天風呂からの風景だ。 手つかずの大自然が本当に美しい。晩秋は真っ赤に染まる紅葉、冬には雪化粧した山を見ながら入浴できる大好きな温泉が、なくなってしまうと思うととても悲しい。





さようなら、レストラン
館内には温泉のほかに産直市売店、レストラン、休憩コーナー、研修や宴会に利用できる研修交流室などがある。
なくなってしまうだろうものを紹介しても仕方がないかもしれないが、物産館、レストランも、とてもユニークで、好きだった。

物産館は入口付近は産直市売店で、地元の農家と連携した野菜市、特産物販売を行っている。売り場はけっこう広く、蕎麦、高菜漬け、 山菜ワサビ等の特産品が並んでいる。
レストランの名物はすっぽん鍋。
一人用のすっぽん鍋があって、一人旅の私にはとてもありがたかった。何よりありがたかったのは、レストランで一人1000円以上食事をすると、600円の温泉入浴料がなんと無料になったこと。
このサービスは最高だった。
ウッドデッキでは近くの清流で育てられたイワナを使ったイワナ唐揚定食、ウッドデッキの特設グリルで1ポンドの牛肉を焼いて食べる「1ポンドステーキセット」も楽しめたのに。
スパッと忘れるのはなかなか難しい。
でも、仕方ないか。
「さようなら」