阪神タイガース優勝マジックが1の日。夜は「六甲おろし」を歌わねばと帰りを急ぐ途中に食した「越前おろしそば」は最高だった。

都道府県ごとの巨人ファン比率が、実は日本でもっとも高いといわれる福井県。

統計サイト『J-READ』が発表している「最も好きなプロ野球球団勢力図」では、各都道府県で最もファンの多い球団を知ることができるが、福井県はほぼオレンジ色に塗りつぶされており、つまり巨人ファンが最も多いとされている。

そんな福井のど真ん中に、福井の虎党たちの憩いの場として愛され続けるの店がある。

『味とら』だ。

元阪神監督の矢野燿大、能見篤史、藪 恵壹はじめ実際にこの店を訪れた選手も多く、店内にはサインボールや来店記念写真がいっぱい。

店内に飾られる歴代応援メガホンからは、店主の応援歴の長さが窺える。

ただ、この店は1997年の創業。つまり真弓、バース、掛布、岡田らが打ちに打ちまくった1985年の吉田阪神の日本一は見届られていない。私的に「虎党の店」の定義は、この年の優勝以前の創業、つまり創業40年以上阪神ファンの店として続いているの店のことなので、残念ながら「味とら」は当てはまらないのである(笑)

もちろん、40年以上も阪神ファンの店として続いている店なんて、2代継承しないとなかなか難しくもあって、極めて稀である。甲子園周囲にだってそんなには残っていはいない。

まあ今日などは、私など部外者が参加せずともこの店には常連客、福井の虎党たちが集結して溢れかえるだろう。私はやはり私の定義に従って、地元の「虎党の店」で優勝を見届けることにした。

「六甲おろし」の前に「越前おろしそば」

さて、昼食は福井でいただくことにした私。

選んだのは、夜に六甲おろしを歌う前の、縁起担ぎの「越前おろしそば」だ。

福井県のそばは「おいしいそば産地大賞」でグランプリに輝いたこともあり、都道府県別蕎麦屋店舗数が全国3位。福井は、実は「そば大国」の一つである。

県全域で在来種を作り続けている希少な産地であることから、「在来種そば王国」とも呼ばれている。

在来種とは、品種改良をしていない昔ながらのそばを指すが、栽培が難しく収穫量が安定しづらい一方、玄そば(そばの実)は、小粒で身が詰まっていて、香り高く味わい深いのが特徴だ。福井県内では勝山在来、丸岡在来、今庄在来、大野在来など22系統が栽培されている。

さて、「越前おろしそば」とは、そんな福井県の嶺北地方に根付く、たっぷりの大根おろしと削り節、きざみネギがかかった冷たいそばのこと。色が黒っぽくコシのある麺は食べ応え抜群で、大根おろしは辛味大根なので一般的な大根おろしよりピリッとしている。この組み合わせがたまらない冷製そばだ。夏だから冷製ではなく、福井では、冬の寒い時期でも冷たいおろしそばを食べるのが定番だ。

そばと大根おろしの相性がたまらない!福井のソウルフード、越前おろしそば

越前おろしそばの歴史と伝統にあやかって

「越前おろしそば」は、今から400年以上前、越前府中城主となった本多富正が、そば職人の金子権左衛門を京都・伏見からつれてきて、城下の人々に戦や災害に備える非常食としてそばの栽培を奨励し、さらに健康面でもプラスになるよう、大根おろしと一緒に食べるそばを考案したことに始まるとされる(諸説あり)。

ちなみに、「越前そば」の名称は、天皇が北陸を巡幸された際に福井のおろしそばを気に入られ、「あの越前のそば」と口にされたことが由来と言われている。

越前おろしそば400年、そして昭和100年、「ありがたき越前おろしそば」のおかげさまで?
この夜、わが阪神タイガースは球団創設90周年の節目の年のセリーグ優勝を成し遂げ、私は地元の「虎党」の店で、六甲おろしの大合唱と勝利の美酒に酔いしれたのであった。