
出雲市から南へ約30km。広島県高野町に接する奥出雲の高原の町・頓原。
出雲大社の南側で日本海に流れ込む神戸川の支流・頓原川と、いくつもの支流とが一気に合流する場所に頓原町がある。
ここは広島県との県境にあって森林が多く、また、中国山地の多雪地帯の一つである。
頓原では、古くから冬の農家の仕事として藁細工が盛んに行われており、昔から受け継がれてきた技術が、出雲大社の神楽殿や拝殿の、巨大なしめ縄作りにも活かされているという。
出雲大社の大しめ縄作りが始まったきっかけは、昭和30年代に出雲大社頓原分院が開かれた際に、頓原地区の人々が中心となって出雲大社のしめ縄の制作をし、奉納されたことが最初である。
当時のしめ縄は、まだ今のような大きさではなかったが、昭和56(1981)年に出雲大社の神楽殿ができたことで、あの巨大な大しめ縄の制作・奉納が行われた。
以来、5〜7(4〜8)年に一度ほど架け替えられる出雲大社の「大しめなわ」がこの町の「大しめなわ創作館」でつくられていることと知って、頓原にやってきた。
出雲大社神楽殿の大しめ縄=日本一
出雲大社神楽殿の大しめ縄は、2018年7月に6年ぶりに掛け替えられたもので、長さ13.6メートル、重さ5.2トン、胴回りは最大8メートルと日本最大級、圧巻の大きさだ(冒頭写真)。

この「神楽殿」の大しめ縄とよく間違われるのが、「拝殿」の大しめ縄。こちらは2023年4月に5年ぶりに掛け替えられたもので、長さ5.4メートル、重さ1トン。
もちろん大きく美しいものだが、やはり神楽殿の大しめ縄の大きさと迫力には及ばない。
出雲大社の大しめ縄は逆向き?
出雲大社の大しめ縄は、一般的な神社と左右が逆に張られている。
神社神道では神様に向かって右を上位、左を下位とするため、綯い始めの太い方を右に、綯い終わりの細い方を左にしてしめ縄を張るのが通常だ。
ところが出雲大社では、向かって左が綯い始め、右が綯い終わりとなるように張られているのである。
その理由について、出雲大社の公式ウェブサイトによると「古く出雲大社では一般的な神社とは反対に、向かって左方を上位、右方を下位とする習わしがあり、よって注連縄を張る際には上位である左方が綯い始めで、右方を綯い終りとする張り方となっている」と「習わし」で片付けているが、「天照大神に迫られて、無念の思いで国を譲った大国主大神の怨霊を閉じ込めるために、しめ縄を逆向きに張って封印した」という理由をはじめ、諸説あるようだ。
最大級の大しめ縄ができるまで
出雲大社神楽殿の大しめ縄は、4〜8年ごとに交換される。
1981年に現在の神楽殿が造営されて以来7本の大しめ縄を制作・奉納してきたのは、島根県飯南町の「飯南町注連縄企業組合」だ。
飯南町にかつて出雲大社分院があった縁で、1950年代から同町で大しめ縄の制作・奉納が行われ、町民たちにその技が受け継がれてきた。
大しめ縄づくりは、大しめ縄専用稲(赤穂餅)の田植えから始まる。
収穫した稲わらを選別した後は、「中芯」づくり→中芯を包む「菰(こも)」づくり→円錐形の飾り「〆の子(しめのこ)」づくり→「飾り縄」づくり→「菰掛け」とつづき、すべてのパーツが完成すると、いよいよ2本の大縄を撚り合わせるというクライマックス「大撚り合わせ」に進む。
撚り合わさった部分を均等に9ヶ所作ること、真ん中の〆の子を取り付ける撚りが大しめ縄全体の中心に来ることなど、この作業はしめ縄職人最大の腕の見せ所だ。
一年以上の歳月と、延べ1000人の町民の手によって出来上がった大しめ縄は、飯南町産の檜から作られた吊り木に固定されて出雲大社へ運ばれ、神楽殿に取り付けられる。
大しめなわ創作館について





飯南町は標高500mに位置しており冬の時期には雪が多く降るため、古くから農家の冬仕事としてわら細工が盛んに行われていた。
昼夜の寒暖の差が大きい場所は美味しいお米が育つと言われるが、稲のわらも同じだという。
寒暖差によってしなやかで強い稲わらが育つことで、良いしめ縄作りを行うことができるのだ。
現在では「しめ縄専用のわら」の栽培に取り組むようになっており、米が実る前に刈取りを行ってしめ縄作りの材料にしているそうだ。

大しめなわ創作館で行われるしめ縄の製作は、すべて手作業である。
しめ縄の依頼先は、ほとんどが神社や神社関係。たまに大型商業施設や企業から、ごくまれに海外からも依頼がくるそうだ。
頓原の歴史と街並み
神が宿ると言われる琴引山、美しいブナ林が特徴の大万木山に囲まれて四季折々の自然が楽しめる飯南町。飯南町は、平成17年1月1日に頓原町と赤来町が合併して誕生した町である。
飯南町頓原は、島根県中央部の南、神戸川支流の頓原川に頓原川支流の内谷川・宇山川・敷皮川が合流するところで、耕地は川沿いにある。

中国山地の脊梁部に位置する頓原は、冬季には豪雪の為に交通が途絶える「陸の孤島」だった。
「頓原」という地名は、戦国時代に、現在の広島から北九州にかけて支配した全盛期の大内氏が、余勢をかって出雲の尼子氏を攻める際、この地に大軍勢を駐屯した事が「頓原」の地名の由来だとされている。
地名の由来にはもう一つ説があって、それは東の吉田村との境に国王原という大きな高原があって、この平坦な高原からなる地域であった事が頓原という地名に関係があるとするものだ。
江戸時代に入って、この地域を支配したのは広瀬藩だった。
飯石郡代官所が頓原に置かれて「群本」と呼ばれていた事から、頓原は、江戸時代には飯石郡の政治的中心地になっていたことがわかる。
そして現在では南北に出雲街道(現在の国道54号線)が通っているが、頓原の市街はその道に沿うことなく頓原川に沿って東西に商店街を形成している。

というのは、江戸期以降は「たたら製鉄」が主な産業としてこの地域の経済を支えたが、頓原における鉱山経営を行ったのは吉田村の大鉄山師・田部家だったから。
つまり、頓原の町場は出雲街道沿いではなく、吉田村と繋がる往来沿いに形成され、僻地の商店街としてはあまり寂れた感じがしない町並みが、現在も維持されている。
街道に面して2階建ての家屋が連続して並んでいるが、昭和20年の大火で町並みの半数が焼けたため、その後の建築が多い。比較的庶民的な間口の狭い家屋は日本古来の建築様式によるものが多く、それなりの古い町並みを演出している。
総合的に満足度の高い道の駅「頓原」
道の駅「頓原」は、松江自動車道(無料区間)の雲南吉田ICから県道38号線〜国道54号線を南西に20km、島根県南部の旧頓原町(現飯南町)にある。


国道54号は山陰地方と山陽地方を結ぶ主要幹線道路であり、道の駅はその休憩の場として貴重な存在だ。
島根県側の国道54号沿線には他にも道の駅が3駅あり、飯南町に隣接する奥出雲町の1駅を加えた計5駅で雲南地域の「道の駅連絡会」を形成して独自にスタンプラリーを行うなど、道の駅同士が協力して盛り上げていこうとしている。
道の駅「頓原」は、レストラン、売店、産直市場に加え、広い研修室や宿泊施設も備えている。平成17年7月には「情報交流館」がオープンし、より一層便利になっている。
駐車場は、ちょっと仕切り線の取り方が変わっているが、まあ、あまり混んでいないので問題ない。

山の稜線の様な屋根をした「情報交流館」は、レストラン・宿泊施設棟と農産物販売棟の間に建っていて、これらをアーケードで結んでいる。

情報コーナーと喫茶コーナー、トイレで構成されていて、情報コーナーとトイレはもちろん24時間の利用が可能だ。


夏は冷房、冬は暖房が利いていて、一年を通してほぼ一日中の利用があるそうだ。
充実した「食の施設」




とても落ち着けそうなスペースがある。飯南町産の牛乳や手作りアイス、コーヒーなどを提供する頓原酪農組合直営店「もんこちゃんのお店」だ。
一番人気のアイスは「バニラアイス」。他にも飯南町産のものを使ったリンゴアイス、ブルーベリーアイスや、めずらしいソバアイスなどもある。




レストランも、非常にいい。


充実したメニューとリーズナブルな価格で、平日の昼時にはビジネスマンで賑わう。特に人気があるのは日替り定食と頓原産の野菜などを使った100円サラダバー。料理は手作りにこだわっていて、とても美味しいそうだ。
私は午前中に「モーニングセット」をいただいたが、コスパ抜群の内容だった。
レストラン横には、物産館とは別に特産品売り場がある。

味噌や漬物、そばなど飯南町や周辺地域の特産品が並ぶが、セレクトショップのような感じで、とても買い求めやすい。
添加物を使わない「とんばら漬け」が名物
頓原町の特産品は「とんばら漬け」。
頓原を含む島根県の山間地域では、野菜があまり収穫できない冬の間の貴重な食料として、また、野菜不足を補うため山菜などを塩漬けにして保存食として食べる習慣が古くからあった。
雪深い頓原町の冬の間の保存食として作られてきたこの漬物は、大根・きゅうり・なす・わらび・シソの実・ウリ・ニンジンなどをふんだんに用い、それらをしょうゆベースに漬け込んだものだが、暮らしの知恵から生まれただけに、防腐剤や着色料などの添加物を使わず昔懐かしい素朴な味わいで人気がある。
添加物を使っていないためだろうか、味は素朴であっさり。 ボリボリといくらでも食が進んでしまうほど食べやすい。 栄養バランスが良く、味の変化、舌触りの変化もあって食が進むのだろう。
昭和54年より町外への販売を開始して以来、地味ながらも徐々に売り上げを伸ばし、現在では年間5億円を売り上げる、町を代表する商品になっている。
「とんばら漬け」は農作物直売所の奥の方で販売されている。

その農作物直売所では、 宿儺(すくな)カボチャ、伯爵カボチャ、そうめんカボチャ(金糸瓜)、坊ちゃんカボチャの4種類のカボチャや、トマト、白菜、大根、里芋、エビイモ等の高原野菜が販売されていて人気を集めている。




物産館では「福一」のそばや「とんばら餅」を
物産館では、島根県、広島県を中心に11店舗を展開している蕎麦の名店「福一」の商品に注目だ。
「福一」の本店は頓原町にあり、道の駅では「福一」のそばが何種類も販売されている。 オススメは「大しめなわそば」。「大しめなわ」作りを伝統工芸とする頓原と「福一」がコラボ、2人前のそばに稲わらで作ったミニしめ縄リースがセットになった縁起物としても嬉しい商品となっている。
飯南町志学地区の原木椎茸を使ったそばつゆ「志学のだし」も一緒に買って、「大しめなわそば」を「志学のだし」で味わえば最高だ。
緑ゆたかな自然林の良質の水と、伝統の農法で育ったもち米から生まれた「とんばら餅」もオススメ。
これは飯南町産のもち米を、こだわりの杵つき製法にてつき上げたコシと粘りのある無添加の丸餅で、「こし」と「ねばり」が良く、煮崩れしにくいお餅として人気がある。

