雪の溶けない春の「ゆきだるま温泉」から、道の駅「雪のふるさと やすづか」へ(トイレ○仮眠○休憩○景観○食事○設備△立地○) 

2010年シーズンを最後にやめてしまったスキー。15年ぶりにまたやってみたくなったのだが、以前とは違う楽しみ方を求めている。

求めているものは4つある。

一つ目は、ゲレンデ意外にオフピステでの山スキーができること。2つ目はゲレンデのそばに安い宿があって長く滞在できること。そして3つ目が、露天の天然温泉が近いこと。最後に4つ目、空いていること。インバウンドなどで人気沸騰のスキー場は、すべて対象外となる。

まだ春だが、2026シーズンに、そんな楽しみ方を始めようと、今から「理想の場所」を探し始めることにした。

まず、目をつけたのが、上越市の山あいにある安塚地区のキューピットバレイスキー場だ。

スキー場としてはしょぼいが、混み合う人気スキー場を避けたい私好み。北陸でも有数の豪雪地帯にあるスキー場だ。特に山間部の集落では4mちかく積もり、町中がすっぽりと雪に覆われてしまう。今年も、2月5日の大寒波で24時間降雪量が2月の観測史上最大の99センチを記録したことがメディアを賑わせた。

雪はそこまで降ってほしくはないが、雪質は良いようだ。大好きな上杉謙信に縁が深いのもいい。そして何より、空いていそうだし、ゲレンデには温泉もある。

残念ながらゲレンデにあった宿泊施設は休館してしまっていて、私の求める全てを満たしているわけではないが、兎にも角にも雪が溶けないうちに現地調査に行ってきた。

豪雪と棚田が育てる米が絶品

Keyvisual_shokokuRyouhin_riceyasu_main.jpg

新潟県南西部・上越市と長野県の県境の中山間地に位置する上越市安塚区は豪雪地帯対策特別措置法で指定された特別豪雪地帯で、冬期は平均で2-3メートルの積雪がある。ユーラシア大陸から吹く冷たい北西の季節風が、比較的暖かい日本海で大量の水蒸気を含み、新潟県の山間部で雪雲を発生させて多くの雪を降らせる。

豪雪は、現代においては交通・物流の障害、家屋などの倒壊を引き起こす災害として認知されるが、一方で、スキー場や、雪を利用したイベントなど、観光資源としての側面も持っている。

しかし、それより何より、雪と棚田は、美味しい米の源泉なのである。

雪と棚田は美味しい米の源泉

春になると雪融け水が山の棚田をうるおして田植えが始まり、稲が実る真夏には山の湧き水が夜温を下げて高温障害を防ぎ、充実した実が稔る。涼しくなり始めた秋に収穫された米は、雪を貯えた倉庫「雪むろ」にて低温保存すれば、新米の味を次の秋まで保つことができる。

安塚区は、長野県境の関田山脈(標高約1,000m)を南端として、北側に広がる東頸城丘陵に位置し、数百万前に海底に堆積した泥岩が隆起してできた丘陵地である。ここの主たる地質である泥岩は比較的軟らかく、地滑りを繰り返し、やや緩やかな丘陵地になって、棚田に開墾されていった。

ここでは、山の上で、この泥の棚田と雪融け水をうまく使って稲を育てているのだ。

雪や氷は食品などの鮮度保持に有効であり、土に穴を掘り、雪を埋めたり、雪を高く積みワラで断熱するなどして古くから雪の保存が行わてきた。安塚区では、大正時代の雪むろが登録有形文化財として現存している。

そして平成5年からは、進化した断熱材を駆使して「雪むろ」の建設と活用が進められてきた。
「雪のふるさとライステラス安塚」の米は、この雪むろで保管されて、新米同様の食味を翌年の秋まで保つのである。

小さなスキー場のゲレンデそばの温泉地

そんな安塚地区は「雪だるま」がマスコット。雪そのものを活かした町おこしに取り組み、時に挫折してきた。たとえば温泉。「ゆきだるま温泉 雪の湯」は引き湯した源泉を100%かけ流ししていたがスキー場ともども行き詰まって閉館。新たな指定管理者の「スマイルリゾート」の運営となって、「雪の湯」に替わる日帰り温泉施設として復活しているというので、行ってみた。

久比岐野は、老朽化と湯量減少で休止した雪の湯と同じ源泉を使用した源泉かけ流しの日帰り温泉施設で、男女のそれぞれ浴槽の面積がこれまでの3倍の12平方mに拡張され、洗い場も2倍の8か所に増えたのだとか。それでもなんて事はないこぢんまりした普通の温泉だが、「雪の湯」廃業の一つの原因となった湯量減少の対策として、源泉からのくみ上げポンプをこれまでより約100m下げた地下356m地点に新設し、安定的な湯量を確保したのは画期的なこと。
久比岐野の営業時間は平日が正午から午後6時まで。土日曜、祝日の前日、年末年始は午後8時30分まで。スキー場営業期間は毎日営業するというから私的には問題ない。料金も600円だから、10日間滞在したとして毎日入って6,000円、なかなか良いと思った。

大きな雪だるまが目印の道の駅

道の駅「雪のふるさとやすづか」は、この温泉があるキューピットバレイから5キロほど北。
上越魚沼地域振興快速道路(上沼道)の安塚ICからは県道43号線→国道403号線を通って南東に7km走ると着く。 「雪だるまの町」を象徴する大きな雪だるまののモニュメントが目印だ。

駐車場は入りやすく、そして、停め放題というか、どこに停めたら良いのか戸惑ってしまうほどフリーである。

トイレは、換気を遮断する頑丈なつくり、扉も分厚く、左右に開くのに力がいる。

寒い中、清掃していただいていて、感謝しかない。

4月中旬なのに、道の駅の山側の景色はまだ冬。

休憩環境としては、豪雪地帯ゆえ屋外より屋内の充実を図っていると思われた。

雪中貯蔵施設ユキノハコ

雪中貯蔵施設(雪室)とは雪を利用した天然の冷蔵庫で、道の駅「雪のふるさと やすづか」の中にある。平成の時代に消失してしまったが、多くの人に切望されて再建された。

雪室内は常に0度に保たれており、湿度の変化が少ないことから、お米は新米同様のおいしさを保つことができる。

この0度というのが野菜にとっても鮮度を最大に保つ温度であることが知られているが、湿度の変化が少ないこともあって、じゃがいも等の野菜は糖度が増し、肉は良質な熟成肉となるほか、日本酒やコーヒーなどはまろやかな味わいになるという。

ということで、道の駅では雪室の冷気を利用した特産品も名物になっている。コーヒー通、お茶に詳しい人は、雪室の冷気を利用した「雪室コーヒー」「雪室和紅茶」など、違いがわかるかもしれない。

物産館と喫茶コーナー

ユキノハコ以外の駅の施設としてはシンプルで、農作物直売所を兼ねた物産館と喫茶コーナーの2つだ。

物産館で人気の商品は「かきもち」。地元の主婦の団体「やすづか灯グループ」が提供する「糀床(糠漬けの素)」「ああ辛(旨辛香辛料)」も名物となっている。 そしてこの地の名物といえば、どぶろくの「永蔵」、越後の地酒「雪だるま」「雪男」「雪中梅」はお約束だ。

農作物直売コーナーではネギ、大根、にんにく、鷹の爪などが並んでいる。高原野菜はもちろん、安塚町に多数存在する棚田で栽培されたコシヒカリがやはり存在感を放っている。ここで、玄米から精米することもできる。

物産館の奥には小さな喫茶コーナーがある。

ここでは「雪室コーヒー」と「オリジナル・ジェラード」が人気だ。

中でも「もっちーミルク」は、バニラジェラードに入った米粉(米の粒)がコクとまろやかさを深めている絶品。

「雪室そば」も食べられる

厳密にはレストランは道の駅の施設に含まれていないようだが、 すぐ近くに蕎麦の提供がメインとなるレストラン「小さな空」がある。 メインのメニューはもちろん雪室で冷蔵保管された「雪室そば」だ。

春と冬の色が交錯する道の駅を出て、標高の高い棚田から新潟市街に向けてどんどん降りていくと、冬から春へ。米どころ新潟の「平野部」の景色へと変わっていく。