
剣山は、徳島県西部に位置する山で、標高は1,955m。西日本で2番目の高さを誇ります。
“剣”という名前からすると北アルプス剣岳のような姿形を想起してしまいますし、私も登山など困難だろうと思っていました。ところが登山家の友人に聞くと、剣山の「剣」はあまりになだらかで、我々登山家が登高意欲を高められるような鋭さには欠けていると言います。また、四国の山岳はかなり稜線に近い地点まで舗装された車道が走っていて、剣山も例外ではなく標高1400mの登山口まで車が入っていけます。だから私なんぞもそこまで車で行けたわけですし。
しかも、そこから1700mの地点まで登山リフトが通じていて、頂上までの標高差は残り250mあまり。一般の行楽客でも、1時間もかからず頂上へ達することができる。つまりは、剣山というのは登山の対象というよりは、観光地と呼ぶほうがお似合いの山らしいです。この山は深田久弥の『日本百名山』にも加えられていて、百名山全山登頂を目指す登山者も数多く訪れますが、そうした本格的な登山家にとっては「退屈」な山のようです。
ただ、別の人は、剣山には素晴らしい魅力があると言います。その方によると、鋭さはなくともどっしりと重量感のある山容、山肌を覆う豊かな森林、点在するユニークな石灰岩の露岩、あちこちに群落を作って咲き誇る山の草花、そして優美とすらいえる頂稜部に広がるミヤマクマザサの草原…。他の百名山と比べても決して見劣りのしない、第一級と評することができる山だと言うのです。
堂々として重量感あふれる山容
剣山は、宮尾登美子の小説『天涯の花』の舞台になったことでも知られている。剣神社の宮司を務める老夫婦に養子として迎えられた少女の成長する姿と、初々しい恋愛がテーマとして描かれているの小説だが、山が舞台ということで登山シーンも随所に現れる。1999年にはNHKでドラマ化されたが、ロケは実際に剣山で行われたということだ。

登山口である見ノ越へは車で行き、リフト乗り場からわずかに下って鳥居のある階段を登ると、剣神社の境内。その一角には『天涯の花』の碑があった。登山素人の私は見ノ越から登山リフトを利用し、リフト終点の西島駅までで打ち止め。リフトから剣山の堂々とした山容は十分確認できるし、リフト終点から遠くの秀峰・三嶺の美しい姿を見ることもできる。私などはそれだけで十分満足だ。
登山口「見ノ越」まで祖谷方面からアプローチ
剣山まで行くには、徳島自動車道の美馬ICから国道438号を南下するのが一般的らしいが、私は剣山から流れ落ちてくる水が西方面に流れる祖谷川の下流方向(西方面)から、川に沿ってアプローチした。



道の駅「にしいや」から剣山へ
岐阜県「白川郷」、宮崎県「椎葉村」とともに日本三大秘境ともいわれる「祖谷」。道の駅「にしいや」はその中央部、大歩危からかずら橋に向かう山越えの途中、有名なスリル満点の「祖谷のかずら橋」にもほど近い位置にある道の駅だ。

道の駅「にしいや」は、大歩危とかずら橋を結ぶ県道45号線沿いにあるのだが、大歩危からかずら橋への道中は二車線が確保されているものの険しい峠越えルート。つづら折りのカーブを曲がりながら山を登りトンネルをくぐった後、同じくつづら折りのカーブを曲がりながら激しく下る。坂もカーブもかなり急なので、疲れていても運転中居眠りしてしまうことはないだろう。


坂道の途中に無理やり作ったような感じの、実にこぢんまりとした駅舎の横の駐車場もこれまた狭い。

その駐車場で仮眠し、トイレに行って洗面し、心身ともにスッキリした状態で剣山に向かった。
少し施設の紹介を。建物は、小さな本館とトイレ棟だけ。道の駅のトイレは、いつも思うが本当にありがたい。綺麗に清掃していただいていることに感謝あるのみ。



道の駅は小さくてもピリリとw
施設に入ると、ちゃんとしたインフォーメーションコーナーが。



物産館として、品数は少なめだが、かえって選ぶのに迷わない程よいサイズだ。


祖谷の「ごうしいも」やユズ、こんにゃく、祖谷そば、木工品など地元の特産品を取り揃える売店では、道の駅にしいや限定ストラップも販売。




祖谷地域の郷土食「祖谷そば」が食べられる軽食・休憩コーナーだってある。

どうせなら郷土食「祖谷そば」を
祖谷の急峻な地形は稲作には適していないこともあり、郷土の主食として昔からそばが栽培されてきた。祖谷の昼夜の寒暖差の激しい気候は稲作に適していなくても、そば作りに適しているそうだ。
ここで食べられる祖谷そばは通常のかけそばである「祖谷そば」の他に、鳴門わかめをトッピングした「鳴門わかめそば」や、大歩危の名物である油揚げ「ぼけあげ」を乗せた「ぼけあげそば」がある。祖谷そばは「つなぎなし」で作られたいわゆる十割そばで、太く短く切れやすいのが特徴だ。

注文したわかめそばを箸で掴み上げると、確かに太いし短い。そして箸で掴むと簡単に切れる。食べた感じは、コシのあるそばを食べ慣れていると、そばというよりお粥に近い感じもする。味は良し。
近隣には祖谷渓温泉ホテルもあるが、今回は道の駅のトイレで仮眠後の洗顔を済ませて、剣山へと向かった。
