
「京都ラーメン」を、私は下記の5系統に分類しています。
1、2、4は、一般的な分類ですが、私はそれらにどうしても収まらない3と5の系統を追加して、京都ラーメンを語っています。本来ならば6番目に「ニューウエーブ」を追加したいところですが、その時は「つけ麺」が独立して語られることになるでしょう、10年後に(笑)
1、濃口醬油味系・・・1位 新福菜館(昭和13年)、2位 第一旭(昭和31年)、3位 大豊ラーメン(平成組)
2、背脂こってり醤油系・・・1位 ますたに(昭和24年)、2位 ほそかわ(昭和60年)、3位 ラーメン中村屋
3、とんこつ・塩味系・・・1位 元祖らーめん大栄、2位 大栄ラーメン本店、3位 池田屋 一乗寺店
4、鶏こってり白湯系・・・1 天下一品(昭和46年)、2位 麺屋 極鶏、3位 天々有(昭和46年)
5、味噌味、つけ麺、その他・・・1位 恵那く(えなく)、2位 吟醸らーめん 久保田、3位 新新亭
さて、「京都ラーメン」連載第2回で語るのは、「背脂こってり醤油系ラーメン」です。
この系統は、来来亭、魁力屋などが追随し、それぞれ多店舗展開に成功したことで、今や京都ラーメンの典型的スタイルと評されています。
「背脂こってり醤油系ラーメン」こそ京都ラーメンであると主張するラーメン党はとても多いです。そして、その源流は「ますたに」にあります。
背脂こってり醤油系
第二系統は、白川通今出川西の「ますたに」から広まった、鶏ガラ醤油味スープの表面に豚の背脂を散らしたラーメンだ。
ますたに
左京区北白川、白川疏水沿いにある「ますたに」は、「元祖京都ラーメン」との評価が高い有名店だ。

ここは、京都大学のキャンパスからも近く、1981年から京都大学法学部でラーメン研究を始めた池辺正博氏もよく通っておられたと推測している。彼は「ますたに」ではパンチ不足を感じ、どちらかというと次々回(連載第4回)に登場する「天下一品」により多く通われたと推測するのだが。
とても間口の小さい店で、昼時には店内で待つ人、そして店外にも行列ができるが、その「パンチ不足」もあってか、学生さんの行列はあまり見なくなっている。
創業は所説あるようだが屋台時代も入れると創業は昭和24年、76年の歴史を誇る。とにかく、長年通う常連、根強いファンが多い。
そして、店から周囲に漂うのは獣臭。スープの香りだろうが、「ますたに」の獣臭はややきつめだ。
店内も古いお店らしく、こじんまりとした狭小スペース。座敷テーブル席が3つと、L字のカウンター席。そして隅には小さいテレビもあって、昭和レトロな雰囲気が漂う店内だ。

メニューは、基本的にラーメンのみ。
ライスと漬物は注文できるけれど、チャーハン、から揚げ、餃子などは一切ない。
私はいつも「麺硬」指定だけして「大」を注文する。

これがラーメン大。中央に京都ラーメンの定番「九条ネギ」、「チャーシュー」、そして「メンマ」が乗っている。

スープは、鶏ガラでとったスープに醤油を合わせた豚背脂スープ。京都ラーメンの源流と言われる定番中の定番だ。ちょっと濁りもある濃厚さに仕上がっている。何も言わなければ背脂がしっかり入ってくるが、それでもしつこい感じはなく、「食べなれた」スープ味だ。
「食べ慣れた」というのは、今や京都市内を歩いていて石を投げたら当たるほど、この味をパクってチェーン展開した「魁力屋」「来来亭」が「見本」にした味、つまり似ているからだ。
それでも「ますたに」のスープは、三層になっていて、上層は背脂特有の甘味があってマイルド、中層はその背脂が抜けてサッパリした醤油味に、そして最後にはピリッと辛い唐辛子のアクセントが効いた味に変化する。
中には唐辛子抜きを指定される方もいらっしゃるが、三層目のスープを味わうと、唐辛子が隠し味程度に入っていることがわかるだろう。
なので、レンゲを使ってもいいが、レンゲを使わずに丼を持ってスープを飲むのが王道。
より美味しく最後の一滴まで完食できる。

卓上の「味変材」は、胡椒、一味唐辛子、黒胡椒の粉末系3種類のみだ。

麺は、オーソドックスな細ストレート麺。好みはあるだろうが、「麺硬」でいただくのが、スープとの絡み具合が浅めで、食感もいいので「美味い」と私は思う。

チャーシューを特に売りにしているのではないラーメンだが、チャーシューには醤油が染みていて、こってり感もあり、程よい厚みがあって悪くない。

メンマは他店に比べても美味いと思う。
京都にも新しいジャンルのラーメン店が増えているが、「ますたに」には定期的に訪れて、「京都ラーメン」源流の味を確かめたくなる。
価格的にも、京都ラーメンが並で1,000円をなかなか突破しないラインを守っているのは、この「ますたに」基準の存在が大きいと思われる。
ほそかわ
中華そば ほそかわ 花屋町店は、阪急電車の西院駅もしくは西京極駅が最寄りだろうか。両駅から少しばかり歩く。駐車場が複数台分あるので、車での来店者も多いと思われる。

京都に古くからあるラーメン屋さんの1つで、「ますたに」の味を「お手本」にしていると公言されておられ、安心して正統「背脂醤油ラーメン」が食べられる。

「中華そばほそかわ」は、京都ラーメンの老舗である“銀閣寺 ますたに”の流れを組むラーメン店であると公言しておられる。
店主は細川さんだが、「ますたに」で8年間修行した後、1985年、阪急西京極駅近くの花屋町通りに店を構えた。今年で40周年、いよいよ老舗の一角に食い込んできた。



「ほそかわ」としてのこだわりについて、細川店主はこう言う。
「まず、あくまで「ますたに」の伝統的な京都ラーメンの味を、スープ・麺ともに継承しつつ、「ほそかわ」独自の厳選した背脂を利用することで、見た目はコッテリ、食べるとあっさりしたラーメンに仕上げることができた」と。

この「見た目はコッテリ濃厚で後味はあっさり」のスープこそは、実は背脂の使い方に「ほそかわ」独特の手法があって、完成したものだ。
さすがにこの部分だけは門外不出の企業秘密ありで、細川店主にいくら酒を振る舞おうと、聞き出せそうにない。

そして、細めのストレート麺が、このスープや背脂とよく絡むが、この細いストレート麺は、「ますたに」が使っているものとまったく同じ麺である。京都に昔からある細さ(中細)の麺で、京都ラーメンの鶏がら背脂スープには、一番相性が良いと言われていて、ここはどうしても崩せないのだと、細川店主は言う。

まとめると、じっくり鶏を煮込んだスープに醤油ダレを合わせ、更にたっぷりの背脂を加えたのが、ほそかわ 花屋町店のラーメン。こってりしつつも決してくどくない絶妙なバランスが楽しめる。
あまり味変しすぎると、「ほそかわ」ラーメンの良さが消えてしまう恐れはあるが、特製の辛味噌を途中で入れると、いい感じに旨辛くなるので、辛いもの好きな人はこの味変を是非お試しあれ。

ただし、本来の味を楽しんだ後、途中から。
また、これも途中からがオススメだが、好みでお酢を入れるとよりあっさりした味わいになる。お酢には脂のにおいを消す役割があるのだ。
もともと、どちらかというとあっさり目に仕上げている「ほそかわ」のラーメンだが、よりさっぱりした味にするためには「酢」で味変、そしてトッピング玉子50円を放り込めば、スープはさらにマイルドになる。これも、二杯目にぜひお試しください(どんだけ食うねん)。
あと、キムチが美味い。チャーシュー麺を注文する予算があるなら、ライスとキムチを別途注文して、ラーメンとセットにしていただくのが、独断と偏見の「ほそかわ」流。
私の「ほそかわ」でのルーチンだ。

ラーメン岡本屋

ここには、横浜家系ラーメン「紫蔵」が京都に進出してきた時の店舗があった。
あまりの行列の多さに平野神社の方へ移転した「紫蔵」の後に、「居抜き」で開業したのが「ラーメン岡本屋」である。
醤油味がしっかり感じられるスープと、背脂の脂膜を通過した麺が特徴で、昔の「ますたに」、つまりひょっとすると本来の「ますたに」ラーメンの味を感じられると言われている。

と言うのも、2011年にオープンしたこの「ラーメン岡本屋」は、なんと「ますたに」の創業者を支えて長年一緒に働いていた写真上の「可愛いおばちゃん?おばあちゃん?」が、息子さん(写真下)と一緒に始めたから。ただし、「のれん分け」でも何でもない(笑)。
大体、「ますたに」はおおらかと言うか、脇が甘い。
魁力屋にやすやすとコピーされ、来来亭にも続かれた。
だから「ラーメン岡本屋」において、15年ほど前の「ますたに」の味が再現されていると言うのは本当だ。実際、私もそう思った。

メニューはいたってシンプル。
ラーメン,チャーシューメンの、それぞれ並と大。あとはライスと漬物。値段設定もますたにと全く同じである。
朝から開いていて、午前中が結構混み合っているらしい。私は第二期京都単身赴任時代(2013〜2018)に、よく通ったが、平日14時頃なら待たずに食べられた。

スープ表面には、しっかりと背脂が浮いている。
スープは、若干ますたによりも塩味が強めか。かつての「ますたに」がこういう醤油ダレだったように思う(厳密な比較はできない)。
麺は中細というよりは、これまた「ますたに」と同様の細めのストレート麺だが、味と食感は違う。何も言わなくても固めの麺が出てくる。食感がとてもいい。
「ますたに」だと麺固めで注文してもそれで普通ぐらいの固さなので、麺については「岡本屋」の方が私好みではある。
お決まりのお酢が目の前に置いてありますので、最後にちょっと入れて、スープを飲み干す。お酢を入れると、ちょっときつめの塩味が抑えられて、一気にマイルドな味になる。

ラーメンとしては、概ね「ますたに」とほぼ一緒。よくコピーできていると思う。
鶏ガラ醤油と背脂のまろやかな甘さが麺によく絡み、三層スープもよくコピーされていて、最初は背脂のマイルドさ、次にはコクのある醤油の味、そして最後の三層目には一味のピリッとした味が仕上げてくれた。
「ますたに」のコピーと一蹴するお客さんもいる。
逆に「ラーメン岡本屋」のラーメンこそ本来の「ますたに」のラーメンだったという人もいる。
いずれにしても、ラーメンはスープだけでもないし、麺だけでもない。
「ほそかわ」も、「背脂」を生命線に、オリジナリティを出している。
次回の第3系統でも、「元祖」と「本店」のせめぎあいがあり、次々回(第4回)に紹介する天下一品も創業時から味は相当変化してきた。
だから、「ますたに」の味も微妙に変わっているわけで、「ラーメン岡本屋」はその「コピー」であっても微妙な違いは絶対に生じる。
客によってはハマる人もいるだろう。
にしても、「ますたに」を飛び出して同じ味のラーメン屋を始めるとは、なかなか根性のある「おばあちゃん」である。
(つづく)
この記事は「連載第2回」です。次回は、「元祖」と「本店」の、「本家の味」をめぐる競い合い。客にとっては嬉しい競合関係に迫ります。