
伊那市は長野県の南部に位置し、東に3000メートル級の甲斐駒ケ岳、北岳等が連なる南アルプスを、西に木曽駒ケ岳等の中央アルプスに抱かれて肥沃な高原が広がり、市の中央部に天竜川が流れている。
これらの河川に沿って美しい河岸段丘が形成されており、スピード出せるが通行料も取られる中央自動車道から外れて、表情豊かな美しい光景を見ながら一般道を、あくまで安全運転で疾走するのはなかなか楽しいものだ。

とりわけ「春日街道」はほぼまっすぐな道で、走っていて本当に気持ちがいい。
慶長6年(1601)に京極高知のあとをうけた飯田城主小笠原秀政が開削したと言われる春日街道は、伊那街道に並行してはいるが、決定的な違いがある。それは直線道路であることだ。
庶民の利便を考えの軸にして作られた道ではなく、支配者である城主に必要な物資を能率的に運ぶための道であり、軍用道路であったから、敢えて集落を連絡する必要はなく、結果春日街道は直線が長い道となった。
この点が庶民中心の伊那街道とは決定的に異なる。
ところで、人里を通らないまっすぐな道路、と聞くと、その究極は「リニア中央新幹線」だ。
これぞまさに「支配者に必要な人を能率的に運ぶための道」。
おいおい現代人よ、そんなに急いで、しかもバカ高い運賃払ってどこにく?知らんけど。

まほら伊那羽広温泉みはらしの湯
私としては、そんなに急がずに、このあたりにある温泉を楽しんで回る方がいい。
たとえば「まほら伊那羽広温泉みはらしの湯」なんて、ワンコインで信州の絶景を眺められる露天風呂を楽しめるのだ。

「まほら」とは、万葉言葉で「良い所・住みやすい所」という意味だ。
この温泉は、春日街道や伊那街道と交わって西方面に向かう権兵衛街道沿い、中央アルプスを眼前に仰ぐ標高900メートルの高原にあって、南信州の中央自動車道沿いに多くある日帰り入浴施設の中で最大級の規模だ。
浴室内は床も壁も湯船もグレーと黒をベースとした石板で被われており、決して華美にならない格調高い施設である。湯がなみなみと注がれた広い内湯、このほかにサウナ、寝湯、気泡湯、ジェットバス等が揃っており、バラエティに富んだ入浴をゆったりと楽しめる。
露天風呂からは南アルプス、駒ケ岳、仙丈ケ岳などの3000メートル級の明峰や伊那谷が望まれる。素晴らしい内湯と露天風呂に加えて華麗なパノラマを楽しめてワンコインって、やっぱり凄すぎる。

時間があれば、隣接する農業公園「みはらしファーム」で遊べるのもよし。お酒を飲んでしまったらもう運転できないから宿泊施設「羽広荘」に宿泊するもよし、である。
全てが揃って村民も観光客も楽しめる大規模公園
そんな「みはらしの湯」から数キロ東に、これまた素晴らしい道の駅がある。
道の駅「大芝高原」は、ここで大人が1日楽しめてしまうほど「遊べる」道の駅だ。
道の駅がある南箕輪村は「村」を名乗ってはいるが、町制を敷くための人口要件である8,000人の2倍の人が暮らす村。 まさに「まほら=良い所・住みやすい所」な村で、人口は毎年増え続けていて、一般的な村が持つ「過疎」のイメージはない。
南箕輪村と言っても広く、住宅や商店が立ち並ぶ東部地区、田畑が広がる西部地区、山岳地域の飛び地地区に大別され、道の駅は村西部の田園地帯につくられた大芝公園の中にある。
大芝公園はおよそ70ha、甲子園球場が15個ぐらい入る巨大な公園で、 公園内には物産館、レストラン、温泉、宿泊施設、屋内運動場、テニスコート、野球場、プール、マレットゴルフ場、 アスレチックコース、オートキャンプ場、多目的広場、森林公園と、村民の文化的な生活に必要なほぼ全ての施設が備わっている。 村民の憩いの場である大芝公園には、毎日多くの村民が集まって、本村を訪れる観光客と一緒に楽しんでいるという。
これが無料で利用できる道の駅のクオリティなのか!
その一角を占める道の駅「大芝高原」もまた、多彩な施設を有している。
まず駐車場だが、春日街道から直接侵入してくるのではなく、わずかな距離であっても森の中のアプローチを潜ってくることに値打ちがある。
一つは、森の雰囲気で運転モードから気分が落ち着いてくるという点。もう一つは、森の木々が、幹線道路の音を遮音して、果然静かになることだ。
だからここで仮眠する気分というのは、森の中にハンモックを吊るして寝るのに近い、ワンランク贅沢な感覚がある。


トイレも、木が多く使われていて、施設全体のトータルコンセプトを感じる。
もちろん清潔だし、清掃も行き届いていて、実に素晴らしい。そしてありがたい。




休憩環境としても、申し分ないのではないか。
スペース的にも景観的にも、全てワンランク上の道の駅の休憩環境だ。








おもてなし牛乳の関連商品は最高!
まずは道の駅の基本施設である物産館から紹介したい。
物産館は比較的小規模だが店内には「南箕輪村コーナー」が設けられていて、 村ならではの商品を購入することができるのだが、そのクオリティが半端ない。





農産物とその加工品はどれも新鮮で美味しそう。
極めつけは、JA上伊那管内の若手酪農家が売り出している上伊那ブランド牛乳の「おもてなし牛乳」シリーズだ。
「おもてなし牛乳」を始めとして「おもてなしヨーグルト」「おもてなしプリン」が販売されている。私は牛乳、ヨーグルト、プリンの3つをいただいたが、これがめちゃくちゃ美味しい。

伊那地方のB級グルメとして有名な「大芝ローメン」「黒豆茶」「大芝高原米麹」も村の特産品として販売されているが、商品名として楽しめたのは「フクロウの目玉」「 村一番の漬物名人さっちゃんが漬けたお漬物」。笑えたのは、ゆるキャラグランプリ最下位に輝いた「最も人気のないゆるキャラ まっくんの縫いぐるみ」だ。

そば粉100%のガレットが人気
レストランのクオリティも高い。



道の駅のレストランでは、そば粉100%のガレットを使った料理が人気を集めている。


フランス北西部のブルターニュ地方の郷土料理であるそば粉で作ったクレープだが、大きさは直径20cmはあるだろうか。しかしこのガレットの生地は薄く、食べやすい。そして本当に美味い。
この後運転するのでワインと合わせられなくて本当に残念。
ランチなのにディナーのクラス感を感じるガレットだ。



ソフトクリームなどのデザートも完璧。
屋外にはキッチンカーが出ているので、買ったものを野外でいただくのもいい。何せ、ここは信州の森の中。空気が美味しいのだ。

広い浴槽が魅力の温泉施設
道の駅の施設の中で、私がもっとも推したいのは温泉施設だ。
ここは、私が激推しした「まほら伊那羽広温泉みはらしの湯」の素晴らしさに決して引けを取るものではない。1日2度の異なる湯を楽しんで合計1,000円なりって、嬉しすぎる。
泉質は名湯に多いと言われるアルカリ性単純温泉だ。
関節痛、腰痛、神経痛など、筋肉もしくは関節の慢性的な痛みやこわばりに広く効果があるという。
湯の種類は屋内に大きな内湯とミルキーバス、屋外に露天風呂とジャグジー、その他にサウナと水風呂が備わっている。
これで、利用料はワンコイン500円。プライスレスである。



