
「黄金崎不老ふ死温泉」は、青森県の深浦町にある温泉宿。
世界自然遺産である白神山地の麓にあり、十二湖から白神ラインを走り、どんつきを右折して、101号線を日本海を眺めながら走れば、30分程度で着いてしまう。
この黄金崎不老ふ死温泉に「不老ふ死」という名が付けられたのは、「この温泉に入れば不老不死に近づくことができる」と思われたくてつけたに違いないのだが、「この温泉に浸かって養生すると老いることなくいつまでも元気でいられる」と言っちゃうと、薬機法はどうだか知らないが、JAROに訴えられたり、今なら間違いなくSNSで炎上するだろう。
だから「不老不死」ではなく「不老ふ死」と、「ふ」にいろんな意味を持たせて糾弾を避け、また、わざわざ伝説と結びつけたりと、まあこの世を渡るのは大変だ。
まあこの世の中、特殊詐欺は引きも切らず、古典的な詐欺師もいっぱいいるし、厳密に言えば「アンチエージング」という言い換えだっていかがなものかだ。
誰も「不老不死」なんて信じないので、こんなことぐらいスルーしてやればいいのに。
「不老ふ死温泉」のホームページを見ると、「奏の始皇帝の命令で日本に不老不死の薬を探しに来た除福(じょふく)という人物が発見した」とか書いてあった。
し、始皇帝って、そんな時代のことは誰も知らんやろー。
苦しいなあ。
始皇帝は不老不死の妙薬「霊芝」を飲んでも死んだのだ
秦の始皇帝が生涯にわたって探し続けたのは、不老不死の妙薬「霊芝」。
2000年ほど前に編さんされた世界最古の薬物書である『神応本草経』にその薬効が記されている。
この本は、漢方薬を専門に扱う者にとって教本だ。
この教本では、多くの薬物の中から信頼性の高いものを厳選し、それぞれを「上品」「中品」「下品」の三段階に分類している。
「上品」とは様々な難病を治して健康維持、病気を予防するもの。
霊芝はここにおいて、最高のランクにあった。
そして霊芝の薬効として、生命を養い、無毒で副作用がなく、元気を増し、寿命を延ばすと記されている。
生命を養い、寿命を延ばすなんて、今では完全にアウトだよ。
ご存知の通り、かつての薬事法は、2014年の法改正により「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、通称「薬機法」に名称変更されているが、念の為に確かめてみよう。
「医薬品的な効果効能の解釈」に引っ掛かる?
薬機法違反の基準となる、「医薬品的な効果効能の解釈」については、厚生労働省の通知「無承認無許可医薬品の指導取り締まりについて」に下記のように記されていた(以下「 」内引用)。
「その物の容器、包装、添付文書並びにチラシ、パンフレット、刊行物、インターネット等の広告宣伝物あるいは演述によって、次のような効能効果が表示説明されている場合は、医薬品的な効能効果を標ぼうしているものとみなす。また、名称、含有成分、製法、起源等の記載説明においてこれと同様な効能効果を標ぼうし又は暗示するものも同様とする。(中略)
(一) 疾病の治療又は予防を目的とする効能効果
(例) 糖尿病、高血圧、動脈硬化の人に、胃・十二指腸潰瘍の予防、肝障害・腎障害をなおす、ガンがよくなる、眼病の人のために、便秘がなおる等
(二) 身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果
ただし、栄養補給、健康維持等に関する表現はこの限りでない。
(例)疲労回復、強精(強性)強壮、体力増強、食欲増進、老化防止、勉学能力を高める、回春、若返り、精力をつける、新陳代謝を盛んにする、内分泌機能を盛んにする、解毒機能を高める、心臓の働きを高める、血液を浄化する、病気に対する自然治癒能力が増す、胃腸の消化吸収を増す、健胃整腸、病中・病後に、成長促進等
(三) 医薬品的な効能効果の暗示
(a) 名称又はキャッチフレーズよりみて暗示するもの
(例)延命○○、○○の精(不死源)、○○の精(不老源)、薬○○、不老長寿、百寿の精、漢方秘法、皇漢処方、和漢伝方等」
ああ、ここに出てきた。
流石に「不老不死」は誰もうたわないだろうと、それよりマシな「不老長寿」などが例示されているが、「不老不死」は完全いアウトだな。
死なない人はこれまで一人もいなかったのだから(笑)
日本海が目の前に広がる絶景だけが魅力なんだよ!

確かに「黄金崎不老ふ死温泉」はメディアなどにもたびたび取り上げられ、温泉好きの間でも名が通っている。
泉質は、「含鉄-ナトリウム-塩化物強塩泉」と言われる鉄分を多く含んだ赤褐色の温泉。
湧き出た瞬間は透明で、空気と触れることによって酸化を起こし、色が変化するという。噴き出し口の周りに茶色い祈出物が付着しているのは、濃い鉄分のためだ。
この塩化物強塩泉は、保湿に優れ・殺菌作用・美肌に良いなどさまざまな効用がある泉質と言われていて、冷え性の人や切り傷や皮膚病などの肌トラブルを持つ人、お肌の引き締めを求める人などにおすすめだとか。
でも、当たり前だが「不老不死」とは一言も書いていない(笑)。
多くの人が評価するのは、日本海と一体化しているような露天風呂と、目の前に広がる絶景だ。
そして、落陽フェチの私は、そこから沈む夕日は日本一ではないかと。
この一点のみで、最高の評価をしてしまうのだ。
黄金崎不老ふ死温泉は、実は一軒宿

黄金崎不老不死温泉は、日帰り入浴もできるが、実は一軒宿なのである。
日帰り入浴客も利用できる本館と、宿泊施設のある新館に分かれていて、浴場は新館大浴場「不老ふ死の湯」、本館大浴場「黄金の湯」、宿名物の「海辺の露天風呂」の3つがある。
日帰り利用者も全ての浴場を利用できるが、入浴できる時間の制限があったり、混雑時には入浴を断られたりする。
そりゃあ宿泊客は1万円以上を払うしプラス飲食も散々して2万円ぐらい使うだろう。
でも、日帰り温泉利用客は600円しか払わないのだから、まあ下記のような制限は仕方ない(笑)。
不老ふ死の湯の利用時間は、宿泊者は10:30〜24:00、4:00〜9:00。日帰り利用者は10:30〜14:00で、混雑時入場制限あり
黄金の湯の利用時間は、宿泊者・日帰り利用者共通で8:00~20:00、冬期間は19:00まで。※日帰り利用者は、混雑時入場制限あり
海辺の露天風呂の利用時間は、宿泊者が日の出~日没まで、日帰り利用者は10:30~16:00で混雑時入場制限あり。
宿泊客しか「落陽」を味わえないので、仕方なく宿泊

黄金崎不老ふ死温泉と言えば、やはり「海辺の露天風呂」。
これ抜きでは語れない。
ところが、この「海辺の露天風呂」は、日帰り利用者は空いていても10:30~16:00しか利用できない。
つまりは「日没の絶景」は見ることができないのだ。
仕方がないので、完全車中泊の縛りを解いてここに泊まることにした。
まあ、冬場は結構な割合で車中泊は避けて安宿に泊まるのだが、だいたい一泊6,000円以内で済ますケチな私。いや、ケチではなく、金がないだけだ。
だから、ここでの一番安い部屋でも1万1,500円の出費はかなり痛い(笑)。
日本海と一体化しても隣の女性専用との一体化はダメよ
本館にある「黄金の湯」の隣にある通路を海沿いまで歩いたところに、黄金崎不老ふ死温泉の名物「海辺の露天風呂」がある。
海辺の露天風呂は、「混浴」と「女性専用」の2種類の湯船があるが、どちらの露天風呂も波打ち際にあって、お湯に浸かれば目線の高さに水平線が広がる海が見える。
もちろん女性専用の露天風呂は見えず、一体化もできない。
一線を越えれば刑務所行きが待っている。
混浴の露天風呂は、10名以上が浸かれる広さがあるが、洗い場はもちろん脱衣所もない。
本館にある「黄金の湯」で事前に身体を洗ってから、脱ぎ着しやすい格好で露天風呂に向かうのだ。流石に女性専用の露天風呂には小さな脱衣所があるらしい。
ほぼ海と一体化している海辺の露天風呂は、高波の時は海からの波が押し寄せてくるため閉鎖となるとの断り書きがあった。
改めてそう聞いて、入浴中に地震が起こらないことを祈ってしまう。
そう、俺は金もなければ度胸もない、情けない男なのだ。
宿泊者限定の日の入り入浴で号泣
黄金崎不老ふ死温泉の露天風呂の醍醐味は、温泉に浸かりながら水平線に沈んでいく夕日を眺めること。私はこの1点に大枚を叩いたのだから、自ずと長湯となった。
「落陽」を歌う。
「♪女や酒より サイコロ好きで スッポンポンの あのじいさん♪」
あ、スッポンポンは俺で、あのじいさんはすってんてんだったな。
まあ俺も、「ほぼすってんてん」だが(笑)
まだ明るいうちから完全に陽が沈むまで、もう2時間は経つだろうか。
完全にのぼせながらも、続きを歌う。
「♪ちんころころがし あり金なくし フーテン暮らしのあのじいさん どこかで会おう 生きていてくれ ろくでなしの男たち 身を持ち崩してしまった 男の話を聞かせてよ ちんころころがして♪」
身につまされた。
号泣した。

