「白神山地ビジターセンター」でブナの一生や核心地域を手付かずにする意味をしっかり学んでから、世界最大級のブナの原生林「白神山地」へ

白神山地は、青森県と秋田県にまたがる広大な山地帯で、世界最大級のブナの原生林が分布していることで知られている。1993年に、屋久島とともに日本で初めて世界自然遺産に登録されており、私たちにとって特別に大切な場所となっている。

そういう意味で、白神山地ビジターセンターは、白神山地観光をする前に訪れたい施設。映像体験ホールの巨大スクリーンで白神山地の四季を鑑賞し、展示ホールでブナの一生、白神山地の生態系などを学んでいるうちに、自ずと白神山地をできるだけ手付かずで守って行かなければという気になるからだ。
白神山地でトレッキングをしたい人も完璧と思われるほどの情報が得られるので、白神山地へ行くならまずは白神山地ビジターセンターへ行って、ここを起点にしたいものである。

下は、ここで学んだ「ブナの一生」。

人生100年時代なんて言ってるが、ブナは一本の木に人の3〜4倍の寿命があると知った。

白神山地の情報発信施設「白神山地ビジターセンター」

ここは白神山地の玄関口、西目屋村にある観光情報を提供する施設で、白神山地に関するさまざまな情報を発信。楽しみながら自然と人との共生について学ぶことができる。

白神山地でトレッキング・登山をしてみたい人も多いと思うが、30分程度の気軽な散策から、所要時間約8時間の本格的な登山まで、体力や経験に合ったコースを指南してくれる。スタッフが相談に応じてくれるのでより安全・安心に白神山地を楽しむことができるだろう。

届出の必要がない場所だけでも大満足

白神山地の「核心地域」においては、次世代に貴重な自然環境を引き継いでいくため、人手を加えない方針が貫かれている。

だから既存の歩道を含めて、ルートの整備は行っていない。

つまり人の進入は望ましくないわけだが、登山する場合は絶対に自然に手を加えたり汚したりしないというのが前提で、必ず退路を考えつつ入山し、自分の技量を越える進入は絶対に避け、少しでも危険と判断した場合は無理をせずに速やかに引き返すというのがルール&マナーの基本だ。
私は乳穂ヶ滝、世界遺産の径 ブナ林散策道、暗門の滝、岳岱自然観察教育林、十二湖を回ったが、他にも高倉森歩道、太夫峰、白神岳、小岳、二ツ森、藤里駒ケ岳など、一般の人が気軽に訪れられるように、届出の必要がない場所はたくさんある。
これだけでも、十分、白神山地の大自然を満喫することができた。順に感動と感想を残しておきたい。

不動尊が祀られている神秘的な滝「乳穂ヶ滝」

最初に向かったのは、白神山地ビジターセンターと同じ西目屋村の南西方面にある高さ約33mの「乳穂(ニオ)ヶ滝」。

不動尊が祀られた洞窟の上部から少量の水が絹糸のように滴り落ちている不思議な滝で、その姿は他には無い、あまり滝らしくもない、とても印象的な景観である。

というのも全国的にも珍しい「裏見の滝」。つまり洞窟の内側に回り込んで滝の裏側を見ることができるのだ。

滝は流域面積が小さく水量が少ないため厳冬期になると凍って1本の氷柱=氷瀑となる。

藩政時代から2月27日になると氷柱の太さや形でその年の米の作柄を占って、結果を早馬で江戸に伝えていたそうで、現在は毎年2月27日の直近の日曜日に祭りを開催している。

冬季はその「氷瀑」がライトアップされ、照らし出されるその様子は幻想的でとても素晴らしいそうだ。

地球温暖化が進み、氷瀑もまた「完全」ではなくなってきているという。
できるだけ近いうちに、冬の氷瀑を見にまた来てみたいと思った。

「世界遺産の径 ブナ林散策道」

西目屋村からさらに30分ほど山道を進んで「アクアグリーンビレッジANMON」を目指す。

「世界遺産の径 ブナ林散策道」へは、このスポットを拠点に出発する。

世界遺産の径 ブナ林散策道

「世界遺産の径 ブナ林散策道」は、白神山地のブナ林を気軽に歩けるよう作られた散策道。

総合キャンプ場「アクアグリーンビレッジANMON」から出発し、所用時間は早い人で約30分、私のように歩くのが遅くても1時間半。しっかりと整えられた道は歩きやすく、登山装備がなくても、動きやすい服装とスニーカーで十分楽しめる。

とはいっても、散策道を歩き始めて最初の20分ほどは、ずっと登り道。息が切れる。ふと立ち止まって見上げると、360度どこを見渡しても人工物がないブナ原生林。

足元を見れば、ミズナラやサワグルミなど、一歩進むごとにさまざまな植物が目に入ってくる。

足元にはブナやホオノキの実が落ちていたり、木の幹や看板にクマの爪痕が残っていたり。

この森に生きる動植物の営みの証が森のあちこちに見られ、ブナによって植生が守られている白神山地の悠久のかけらを感じる。

散策道のルートに沿って進んでいると、道沿いに沢がある。

白神山地は「天然のダム」ともいわれるほど保水力に優れた森だそうで、地表を覆う厚いブナの葉土に雨水や雪解け水が蓄えられ、長い年月をかけて地下に浸透する。

そして森の土壌によって不純物を取り除かれた水が湧き水となって流れ出す。

沢に沿って進んだ先には水飲み場があった。触ってみるとめちゃくちゃ冷たいが、肌に馴染むような柔らかさを感じる。
白神山地の湧き水は、山からのミネラルをたっぷりと含んだ軟水だそうで、この水を汲みに、白神まで足を運ぶ方も多いそうだ。

この散策道は、まだ雪が残る早春から秋ごろまで通行でき、手付かずで保存される「核心地域」に入らずとも世界遺産区域内のブナ林を気軽に体感できる。

白神山地の自然保護にとって、とても貴重な存在だと思った。

暗門の滝

世界遺産の径 ブナ林散策道には、途中で分岐点があって、奥へ続く道を行くと白神山地のブナ林から湧き出す清水が流れ落ちる滝が3つある。「暗門の滝」だ。
落差がもちろん違って「第3の滝」は約26m、「第2の滝」は約37m、さらに奥の「第1の滝」は約42mある。
暗門の滝は世界遺産地域内にあり、滝へ向かう歩道すべてが世界遺産・緩衝地域(バッファゾーン)の中にある。何も落とさないように注意しなければ。

暗門の滝一帯は、けわしい岸壁に囲まれ、ブナや松などの老樹が生い茂っていて、かつてはマタギだけしか入らなかったほどの渓谷だ。それだけに景色が素晴らしいのだが。
第2の滝までは川の横断などの為に簡易な歩み板を設置し通行しやすいように整備されているが、そこから第1の滝までは上級者向けの登山ルートになっていて、通行届が必要だ。ヘルメット着用も必要だが、私は登山上級者でもないので、当然進入を遠慮した。

岳岱自然観察教育林

「岳岱(だけだい)自然観察教育林」があるのは、もう青森県から秋田県に入った藤里町。

ここもまた、世界遺産・白神山地の「核心地域」を手付かずにするため、そこに隣接した約12ヘクタールの原生林を、私たちが白神山地のブナ林を観察したり雰囲気を気軽に楽しめたりできるようにしてくれている。ジブリの「もののけ姫」の制作においては、ここが視覚的参考とされたという。

世界遺産の地域外なので、歩きやすい遊歩道が整備されていて、私たち高齢者も楽しめる。

途中にはモリアオガエルやクロサンショウウオが生息する池などもある。

樹齢約400年のブナの巨木があったが、2022年冬についに倒れた。

ブナの寿命は300年前後と言われているが、それを遥かに超える老木で、通称「400年ブナ」と呼ばれていた。幹周りは485cm、樹高26m。「白神のシンボル」として「森の巨人たち百選」に選定されていた。

石を抱くブナの木も、いくつか見られた。

熊には絶対出会いたくないが、ニホンカモシカやニホンザルの姿はチラチラ見かけた。

白神山地の美しさが集結するエリア「十二湖」

白神山地の西側、再び秋田県から青森県にってすぐの場所に、十二湖の入り口がある。

「十二湖」は、その名の通り湖や池が点在するエリア。世界自然遺産・白神山地の麓に広がる豊かな森は、津軽国定公園にも含まれている。

さて 十二湖という名前だが、エリアにある湖と池は、実は33個ある。

江戸時代・宝永元年(1704)4月に羽後・津軽地域を襲った大地震によって沢がせき止められ、地盤が陥没して33の湖沼が形成されたというこのエリア全体を見渡せるのが「大崩展望所」。
ここから眺めると、小さい池は森の中に隠れ、比較的大きな12の湖が見える。それで「十二湖」という名前がついたそうだ。

何も端折ることはなく、三十三湖でいいと私は思うが、吸い込まれそうなほど透き通った青い色が美しい「青池」、澄み切ったエメラルドグリーンの「沸壺の池」など代表格の湖は確かに突出して美しく、端折られた21個はまあ大きな水たまりみたいなものであまり美しくもないので仕方ないかもしれない。

ボロは着てても心は錦、人間は見た目じゃないと言うが、見た目が良くないと人気が出ないのが観光地というものだ(笑)。

ここ「十二湖」にもちゃんと散策コースがあって、大小さまざまな湖のほか、ブナの自然林や白い岩肌が生み出した絶景ポイント「日本キャニオン」など、白神山地の素晴らしさが凝縮され密集した素晴らしい景観を楽しむことができた。

「青池」の青は、コバルトブルー

33の湖沼群の中で最も有名なのが青池だ。

散策のスタート地点となる「森の物産館キョロロ」から、歩いて約10分で着く。

青池は、面積975平方メートル、深度9メートルの池で、名前の通り水面が青く見える透き通った水面はコバルトブルーまさにそのもの。そこに陽光が差し込むと、鮮やかさが一段と増して素晴らしい。

「沸壺の池」は、木々のライトグリーンと水面のエメラルドグリーン

沸壺の池

「沸壺の池」は透明度が高く、角度や写真の露出調整によってはエメラルドグリーンに近くも見えるコバルトブルーの水面は美しい。
まさにコバルトブルーが時にセルリアンブルーに輝く「青池」と並び称されるのも頷ける。

青池との間には約200mにわたるブナ自然林が広がっており、青池~ブナ林~沸壺の池を歩くコースは、気軽に森林浴と絶景スポットが楽しめる、素晴らしいコースだ。

他の湖や池だが、例えばこの「王池」のように、残念ながら上記2つほどの美しさがない。残念!(笑)。

白い岩肌が剥き出しになった「日本キャニオン」

散策コース内をさらに進むと、湖沼群とは一転、迫力満点のU字谷大断崖「日本キャニオン」を眺めることができる絶景ポイントに。

木々に覆われた山の中で、浸食崩壊によって白い石灰岩がむき出しになっている。

深い緑と白とのコントラストに目を見張った。

瀬戸内海の島々で、人間が石を切り出してできた無惨な跡とは、やはり根本的に違う。

気に入らないのは、名前がアメリカ合衆国のグランドキャニオンにヒントを得て命名されたこと。欧米か!

歴史の浅いアメリカになどならわず、日本語でいけ、日本語で!

「日本渓谷」でも「日本峡谷」でもええやん。なんなら「日本ダニ」で!これは良くないかw

さて ここには5月から初夏にかけて子育てのために多くの野鳥が訪れるらしい。

特に6月上旬から訪れるのが、体のサイズに似合わず大きくて赤いクチバシがとても可愛らしいアカショウビン。

アカショウビンが飛来するスポットは、十二湖のひとつに数えられる「長池」。

その名の通り東西約500mの細長い池だ。